魔王の焦燥
「…雨が降ってきたやん……どないしよ…。あの子また死んでまう…」
アントーニョは半泣きで神山をさすらっていた。
心臓がひどく痛い。
一度目にあの子を失った時は世界を滅ぼしてしまったのだ…二度目は自分でも何をしてしまうかわからない。
「お願いや…無事でいたって。
神さんでも何でもええから、あの子を助けたって。
俺は世界を滅ぼした魔王かもしれへん。
救いなんかもうもらえへんかもしれんけど、あの子は関係ないんや。
俺を八つ裂きにしたってかまへんから、あの子だけは助けたって…」
ギルベルトに伝言を頼んだロヴィーノが家を出てしばらくたってから、ネバーランドから魔法弾が上がった。
山の中腹のアントーニョに用事がある時は、これを打ち上げるようにと与えたものだ。
それを見てアントーニョは一瞬迷う。
普段は魔法弾が上がると用事を聞きに行くロヴィーノが今出かけていていない。
それなら自分で行けばいいのだが、ネバーランドには当然大人もいる。
アントーニョは大人がダメなのだ。
あの子を見殺しにした大人達を思い出して、死にそうな気分になる。
しかしネバーランドの住人達の先祖は元はロヴィーノが拾ってきて自分が育てた可愛い子ども達だ。
緊急事態の可能性もあるから見捨てるわけにもいかない。
しかたなしに支度をして下界へ降りたアントーニョを待っていたのは、小さな二人の子ども達だった。
一人には見覚えがある。
先日山の中腹のアントーニョ達の家に遊びにきた子どもの一人だ。
「魔法弾あげたの自分らか?」
子どもに目線を合わせるように屈みこむと、生真面目そうな少年がコックリとうなづいて、
「忙しいところ申し訳ない。ただどうしても報告したい事があったのだ」
と、子供らしからぬ口調でそう話し始めた。
さきほどネバーランドでは見慣れぬ子どもが現れて、許可無く足を踏み入れる事を禁じられている神山に入っていったというのだ。
世界中を包む呪いのため、結界の外には出られないはずなのに北の国からネバーランドまで普通にたどり着いたというだけで驚きなのだが、約束を守るため…と言って山へ向かった子の特徴を聞いて、アントーニョは言葉を失った。
黄金色の髪に新緑の瞳。
真っ白な肌に薔薇色の頬。
そして…特徴的な太い眉……これではまるで………
「おおきにっ!知らせてくれておおきになっ!!」
アントーニョは慌てて駈け出した。
魔法でひとっ飛びに帰るのは簡単だが、万が一山の中であの子が迷っていては大変だ。
ましてや…身体の強くないあの子が途中で行き倒れでもしたら……
もう失うのは嫌だった。
あんな思いは絶対に嫌だ。
だからアントーニョは追い抜かないように、ネバーランドからの道を走って行った。
あの子を追いかけて…今度こそ離さないために…。
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