ネバーランドの悪魔3章_4

約束


…待ってるから……

数百年も前、自分は確かにそう言った。

1番早く山の頂上についた王子の国が中央の土地の権利を得られる…そういう決まりでたどり着いた山の中腹の中継地点。
熱を出したアーサーを心配して自分もそこに残ると言い張った南の国の王子アントーニョ。

そう言うのに待っているから一人で頂上を目指せと言ったのは、何も相手を思いやっての事ではない。

国では唯一の正室の子として生まれたアーサーは結果的に、出来の良い…皆が跡取りにと望んでいる長兄の相続権を奪う形になり、本人どころか周りじゅうに恨まれて育った。

嫌われるのが当たり前…そんなアーサーにとって、アントーニョの人の良さからくる好意的な態度は衝撃的なものだった。

一緒に過ごしたのはたった1週間弱だが、10年の人生の中で1番幸せだった日々だと断言できる。

あちらはたまたま目についた可哀想な子どもに同情してでの事だとは思うが、アーサーにとってはアントーニョは命より大事な神様より特別な人間になった。

だから、アントーニョの昂っている気持ちが冷めたあと、あの時自分のせいで山に登れず、南の国に土地の権利をもたらせなかったと負の気持ちを持たれるのが嫌だったのだ。

好かれたいなどと言う大それた事は思わないまでも、嫌われたくない。
あの優しい気のいい少年に少しでもこいつがいなければ…と思われるくらいなら死んだほうがマシだった。

待ってるから…そう繰り返し説得をすると、アントーニョは渋々頂上へと向かったが、結局自分は彼の帰りを待っていられなかったらしい。

病気の自分を置いて国益を優先したという自責のせいなのだろうか…理由はよくわからないが、彼が戻った時には自分はすでに死んでいて、彼はそのせいで魔力を暴走させ、東西南北と4つあった国のうち、北以外の3つの国を滅ぼしてしまったのだ。


アーサーがそれを知ったのはついさっきだ。
物心ついてからずっと誰かが泣きながら自分を呼んでいる…そんな夢をよく見ていた。
そのうちその声が遠く国境のあたりから聞こえてくる気がして…どうしてもと強請って兄のギルベルトに国境に連れて行ってもらった時に、記憶がはっきりした。


魔王…と呼ばれているのは間違いなくアントーニョだ。
国境の結界の向こうから、確かにアントーニョの魔力の気配を感じた。

…魔王はずっと約束した子どもを待っていて、国境に一人で近づく子どもがいると間違ってさらっていってしまう……

そうギルベルトが教えてくれた話の約束の子どもとは間違いなく自分の事だろう。

何故待っているのだろうか…約束とはやはり、待ってるから…というあの言葉なのだろうな…と思いここまで来たわけだが、神山の麓にいつのまにか出来ていた集落の子どもに話を聞いて、アーサーの中に迷いが生まれた。

アントーニョは昔は確かに自分を待っていた…が、今はもう待ってないのかも知れない。
正確には悪魔様…と呼ばれる少年を引き取ってから。

このまま黙って戻れば、兄のギルベルトにはひどく叱られるだろうが、それでも普通の日常に戻れる。
だが一度知ってしまった魔王様の話はきっと頭から離れず、一生気になり続けるだろう。

それならば…遠くからこっそり様子を見てみようか…。
もしもう自分が必要ないようなら、黙って帰ろう。
たぶんしばらくは泣き暮らす事になるとは思うが、いずれそれが彼の幸せなのだと納得できれば諦められるはず。

アーサーは遠い昔、アントーニョと初めて会った小屋のあたりに来ていた。

さすがにあの粗末な小屋は数百年の時を経て跡形もなくなっていたが、ここからまた出発しよう…と、決意する。

目指すは数百年前と同じ山の中腹。

しかし今度はたった一人の旅だった。


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