ネバーランドの悪魔3章_3

ネバーランドの子ども


「ねえ君、見かけない子だね。どこから来たの?」
フェリシアーノはナスに水をやっていたジョウロを一度置いて、とてとてと子どもの方に駆け寄った。

フェリシアーノが住むネバーランドの住人はまだまだ300人ちょっとくらいだから、全員ほぼ顔くらいは分かるし、見落とすにしては子どもは随分と特徴的な容姿をしていた。

年の頃は自分と同じくらいだろうか…。
自分もそれほど体格が良い方ではないが、子どもも全体的に華奢で可愛らしい。

ぴょんぴょんと所々跳ねた髪は落ち着いた金色で、同色のくるんとカーブをえがいたまつ毛は瞬きをするとバサバサ音がするのではないかと思うくらい長く、その下の驚くほど大きな丸い目は春の新緑の色。
肌は真っ白だが頬だけ淡いピンク色で、なんとなくキラキラと可愛らしい。

それだけ見れば少女のようだが、全体的に可愛らしすぎるパーツの中で際立って太い眉毛を見ると、あれ?男の子かな?と思いもした。

「…それ…ナス?」
子どもはフェリシアーノの問いには答えず、今までフェリシアーノが注いでいた水を存分に浴びてつやつやと輝いている紫の野菜を指さすと、フェリシアーノは、うん!と大きく頷いた。

「あのね、ナスとトマトって親戚なんだって。
俺はまだ10歳でトマトもらえないからさ、いつかルートと結婚してトマトもらえた時にちゃんと育てられるように練習してるんだ。」

ルートはお隣のローデさんとエリザさんの家の男の子である。
フェリシアーノとは幼馴染で仲良しで、いつか大きくなったら結婚して一緒に住もうと物心ついた頃にはお互いにそう思っていた。

この国では16歳で大人と認められて結婚できて、そうすると、魔王様からお家がもらえる。
異性同士の場合はそのまま普通に住むのだが、同性同士だと普通に住んでいても赤ちゃんが生まれないらしい。
だから魔王様が赤ちゃんができるトマトの苗をくれるのだ。

二人で普通にお世話をしていたら枯れたりはしないらしいが、枯らしたりしたら大変だ。
ルートとの赤ちゃんが死んでしまう。

ルートはなんでも上手にできるから大丈夫だとは思うのだが、自分はいつも失敗ばかりしているから、心配だ。
だから今から植物のお世話の練習をしているのだ。

そう説明をすると、子どもは少し不可思議な顔をした。

「トマトから…赤ん坊が生まれるのか?」
「うん!そうだよっ。君知らないの?」
「知らない。聞いたことない…」

でもそういう事もあるのかもしれないな…と、まるで独り言のようにボソボソっとつぶやいて、子どもはそこで初めて、
「北の国から来たんだ。神山に登りたい。」
と、聞いてはいたらしい、フェリシアーノの最初の質問に答えてくれた。


「神山に?魔王様に会いに行きたいの?」
首をかしげるフェリシアーノに、子どもは
「魔王様?」
と聞き返す。

「うん。神山の上にはこの国を作った魔王様と悪魔様が住んでいて、みんなに必要なモノができると降りてきて与えてくれるんだ。」
と、さらに付け足すフェリシアーノの言葉に、子どもは少しまゆを寄せた。
そして少し考えこむ

「魔王様も悪魔様も知らない。
…でも山の中腹に建物が残っているならそこに行きたいんだ。
どうしても…行きたい。」

許可無く神山に入る事は禁じられているのだが、子どもの真剣な、思いつめたような表情にフェリシアーノはつい絆されて頷いた。

「俺は風邪引いて行けなかったんだけど、この前ルートが山の中腹にある魔王様のおうちに行ったんだよ。聞いてあげるっ!」
と、その手を取って、かつて知ったる隣の家の垣根を乗り越えて、ルートヴィヒを呼び出した。



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