ネバーランドの悪魔3章_2

神のしもべと悪魔が捜索隊を組んだわけ


チリリと髪が一筋焼け焦げた。
ロヴィーノは殺気に少し引きながらも、炎が飛んできた方向に目をやる。

視線の先には真っ赤な目に怒りをみなぎらせた少年。
先刻のような脅しではない。
本当に自分を殺すつもりだという気配を感じて青ざめた。

「一度だけ聞いてやる。アルトゥールをどこにやった?」
怒鳴りはしない。静かな問い。
しかしその声は冷ややかな怒気を含んでいて、ロヴィーノの全身に冷や汗を溢れさせた。

「ちょっと待ってくれ。俺は今回はお前の方に用事があって戻ってきただけで……」
慌ててそう言うロヴィーノに冷ややかな視線を向けて、そうか…とだけ言う少年はおそらくその言葉を信じてはいない。
その証拠に恐らく彼の攻撃魔法の媒体になっているレイピアの矛先が静かにロヴィーノにむいた。

殺されるっ!
焦るロヴィーノ。
そこで上手く働いてくれない頭が、たった一つの可能性だけが彼の命綱になることを思い出した。

「アントーニョっ!!」
とりあえず名前を叫んだ。
ぴくりとそれまで怖いほど無表情だった少年の顔から表情が生まれる。

ああ、脈ありかも…助かった。
と、内心思いながら、ロヴィーノは大きく息を吸って吐いて、そして改めて口にする。

「アントーニョって名前に聞き覚えがないか?
俺は奴に頼まれてお前にそれを尋ねに戻ってきたんだ。」

一息にそう言い切ると、少年のレイピアが静かに下ろされた。

「アントーニョって…“元南の国の王子”か?」
「なんだよ、ビンゴかよ…」
は~っと大きくため息をついて、ロヴィーノはその場にへたり込んだ。

少年は悪かったな、と苦笑してロヴィーノを助け起こすと、それから今度は自分が、
「あ~、もうっ!タイミング悪すぎだろっ!!」
と、頭を抱えてしゃがみこんだ。

その様子に今度はロヴィーノがその横で少し屈んで、少年の顔を覗き込む。
「その…大丈夫か?何かあったのか?」
と、尋ねてみると、少年はロヴィーノに視線を向けて少し困ったように
「アルトゥールが家出した…」
と、言った。

「あ~、お前の弟か…」
なるほど、さっき自分が連れて行こうとしてたところに、すぐ弟が消えて自分が現れたら、自分がさらったと誤解しても仕方がない。
どうやら少年を魔王に会わせるより、弟を探す方が先になりそうだ。
そんな事を思って
「俺、ロヴィーノだ。ガキん頃にアントーニョに拾われて育ててもらったんだ」
と、手を差し出すと、少年は
「ギルベルトだ。ギルでいい。」
と、言ってその手を掴んで立ち上がる。

そして
「先にあいつに会って協力求めた方が良さそうだな。」
と、厳しい表情のまま言った。


こうして箒は二人乗りが出来ないし、まずはロヴィーノが戻って魔王に助けを求める事にしたのだが、めったに出かける事のないアントーニョがこんな時に限って何故か家にいない。

仕方なしにギルベルトの元へ戻ってそれを伝えると同時に、ロヴィーノは
「アントーニョの手は借りれねえけど、俺だって数十年魔法の勉強に費やしてきて、なかなかなんだぞ。どうせお前をあいつんとこに連れていかなきゃなんねえし、弟探すの手伝ってやるよ。」
と、申し出た。

それに対してギルベルトは少し迷って、それからとんでもない事実を打ち明けてきた。
「あのな…俺とアルトゥールはもう数百年も一緒に転生を繰り返してるんだ…」
「数百年?!兄弟揃ってか?」
そいつはすごい…と、ロヴィーノは目を丸くするが、ギルベルトはさらに驚くべき事実を告げる。

「それだけじゃねえ。
お前もアントーニョと長く一緒にいるなら聞いてるかもしれねえけど…アルトゥールはあいつが魔力暴走させて世界を滅ぼすきっかけになった子ども…西の国の王子アーサーの生まれ変わりなんだ。」





驚いたとか衝撃的とかそんなものじゃもう言い表すことができない。
気休めになれば御の字と思っていたが、まさに全て円満解決じゃないかっ!
ロヴィーノとギルベルトはお互い自分の方の事情を説明した。

「ホント、タイミング悪いな…」
ロヴィーノもため息をついた。

何も全て明らかになって、このままアルトゥールをアントーニョのところに連れていけば良いと言う段になって、家出とは…。

「ガキの足だから遠くには行ってねえ…って思いたいんだけどな…あいつ記憶ねえくせに俺以上に魔力強いから…。
なまじ万が一があっちゃまずいと思って、自衛のために魔術教えたのが仇になったか…」

「家出の理由とか行き先の心当たりは?」
「…わかってたら探してる…」
「まあ…そうだよな…」
二人は顔を見合わせてため息をついた。

一体アルトゥールはどこへ?
二人はとりあえず村から国境に向かう途中の森から探すことにした。





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