悔恨のエスパーニャ
自分はいったいなんて事をしてしまったのだろう…疑うべきだったのは誠意じゃなくて悪意の方だったのに……
誰が信じなくても自分だけは信じてやらねばならなかった。
スペインの身を案じてこの子が悲しい嘘をついた時、それを疑いもせずこの子の愛情を否定したなんて…
それからこうして1人この子が苦しんでいるのを知りもしなかったなんて…
(本当に…親分失格どころか夫として男として最低や……)
とスペインはその晩ずっと自責にさいなまれた。
自身は眠れぬまま子犬の体温でも安眠の助けになればと寄りそうスペインの耳には、6月30日があけて7月1日になったあたりから、寝息に混じってヒュウヒュウと苦しげな呼吸音が聞こえてくる。
朝も少し遅く、9時頃にひどく気怠げに起きると、腕の中のスペインに微笑みかけ
「モーニン。…朝食……遅れてごめんな…」
と、フラフラと起き上がるイギリスに、スペインは心の中で首を振る。
(あかん、寝ときっ!自分フラフラしとるやんっ!親分の飯なんかええから寝ときっ!)
そう伝えたいのに口から出るのはキャンキャンと言う子犬の鳴き声で、スペインは情けなさに泣きたくなった。
せめて人間の姿をしていれば、むしろ自分が食事の用意をしてやれるのに…。
そう思いながらも必死にイギリスを寝かせようと寝間着を引っ張るが、真意が伝わっているのかいないのか、イギリスは困ったように微笑んで
「…ごめんな…すぐ用意してやるから……」
と、スペインが咥えた寝間着をその場で脱いで、着替えて寝室を出て行ってしまう。
(あかんっ!あかんてっ!!お願いやから休んどってっ!!)
ベッドから思い切って飛び降りて、開いた寝室のドアからスペインもイギリスを追ってキッチンに向かう。
それでも騒げば騒ぐほど、イギリスは早く餌をくれと言われていると思うらしく、結局ドッグフードを皿に入れて目の前に置かれて終わった。
そのくせそうやってスペインの食事は用意したくせに、自分自身は食事を取る事もなく、グッタリとダイニングの椅子に座り込んでいるので、スペインは気が気ではない。
(…なあ…親分の餌より、自分が飯食べ)
と思うものの、それを伝える術は当然ない。
人間なら…本当に人間の姿なら有無を言わさず抱き上げて寝室へ戻して、栄養のある食事を作って食べさせてやれるのに……
そう思えば食欲など沸くはずもなく、とにかくイギリスが心配で足元をウロウロしていると、疲れたようにテーブルに突っ伏していた身体を少し起こし、
「…どうした…?…別の味が…良かったか?」
などと逆に心配されてしまうので、スペインは仕方なく諦めてドッグフードを食べた。
その時からずっと刻一刻とイギリスの体調は悪化する一方だ。
それでも昼、夜とスペインの餌だけはフラフラになりながら用意をする。
用意をされて食べなければ心配をして別の物を用意しようとすらするので、スペインは胸が詰まるような思いをしながら餌を平らげた。
イングラテラ…イングラテラ…イングラテラ……
心配で辛くて悲しくて…でも今スペインが感じているのよりずっと深い悲しみをスペインは何百年もこの子に味あわせてきたのだろう…
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