魔王を倒すぞ、もう普憫なんて言わせない!_スペインの決意と願い

「トーニョ、大丈夫か?」

あれから3日後。
装備を整えて魔王へ初挑戦する事になった一行。
魔王城から数百メートルの所に今日は野宿。
そして明日の朝出発して、昼前に魔王城に突入だ。


あれからプロイセンはアリスのためにこちらの世界に残ると言い張るスペインを説得させようとイタリアの方へとスペインを促し、自分は宿で休ませると称してイギリスをロマーノから引き離し、宿のカウンターへ。

いつもの通り部屋を二つとって、そのうちの一つに落ちつくと、イタリアの説明を伝えた。
もちろんフランスとアメリカの好意とかの話は別にして。
それは自分が勝手に伝えて良い事ではない。

ただ、この世界は神から依頼されたローマの作ったものであることと、イタリアがアリスは現実のイギリスを模して作っている存在で、現実のイギリスの相手に対する好感度がそのままアリスの態度となって現れる事。
ローマは依頼は依頼として、これを半分遊びとして楽しんでいるので、今後も同じ事をやるかもしれないこと。
そしてその時にヒーラーであるアリスの協力を得たければ、あまりイギリスの好感度が低いと難しい事などのみ話し、

「結局な、会議が回るのってお前に注意されて逆切れするアメリカと、お前にチャチャいれるために無意味な反対を繰り返すフランスのせいじゃん?
そのあたりを押さえるためのものらしいぜ?
だからそれを説明したのは協力させようとしている俺様と当事者のアメリカとフランスに対してだけだ」
と、言う事にしておく。


これで現実世界で2人がイギリスに対して急に好意的な態度を取るようになっても、イギリスからは下ごころあり判定をされる事になるわけだが、そのあたりの事に関しては、本当に好意を得たいなら自分でなんとでも説明をすべきだ。

難しいだろうが、これまでの2人がイギリスに取って来た諸々の行動を鑑みれば、その程度のハンデは妥当なペナルティだろう。

ということでイギリスに対する最低限の説明を終了。

最後に
「やっぱりな、魔王を倒した時の願いは現実世界に著しく影響を与えるような事は不可という条件がついてるらしいぜ?」

――だから俺様は約束通りお姫さんのためにそのクマを連れていけるように願うな?
と、怒られるかな?と思いつつ、ちゅっと頬に軽くキスをしてみるが、イギリスは起こる事なく顔を赤くして、ただ、
「…ばかぁ」
と、上目遣いにプロイセンを見あげて言う。

うん…可愛い。
俺様のお姫さん、相変わらず可愛さ絶好調だ。

結局ここに来るまでずっと、この可愛いお姫さんの可愛い反応を独占し続けて来られた自分は、よく言われ続けて来た“1人楽しすぎる男”や“普憫”などの通り名は返上だな…と、プロイセンは秘かに思った。



こうしてプロイセン的には幸せな結末になりそうだったのだが、その後、部屋に戻ってからのスペインの態度がどことなくおかしい。

ここに残る…などの願いは“現実世界に著しく影響を及ぼす事”に間違いなく入るだろうから、叶えられる事はないとは思うのだが、イタリアはスペインに今回の事をどう説明したのだろうか…
それが気になる。

だがイギリスにフランスやアメリカの事など、若干言わない方が良いと判断して言っていない事がある以上、スペインが聞いてきた事にもそれがある可能性があるので、イギリスが聞いているところで聞くのは危険だ。

悪友とお姫さん、どちらを優先するかなんて言うまでもないので、プロイセンは当座スペインの方は気にしながらも放置する事にした。

そして…いまに至る。


とりあえずローマ爺の目的がイギリスを健やかな状態に保つ事ということなら、この世界にいる間はイギリスに危険はないのだろう。

そう判断したこともあり、今イギリスはマシュマロを焼くフランスとトリックに任せて、スペインと2人でテントを張っている。

今なら聞けるか…そう思ってちょうどテントを張り終わったタイミングでスペインに声をかけると、スペインはまくっていたシャツの袖を直す手を止め、

「なあ、ギルちゃんはこの世界の事知っとったん?」
と、彼には珍しくひどく真面目な顔で聞いてきた。

「この世界の事?」
「ローマのおっちゃんの趣味やとか……アリスの事…とか?」
「あー、それな…」
プロイセンは逆に少し視線を落として考え込む。

「この世界が実際どういう場所なのかとかは、最初の時には聞いてねえんだよな、俺様。
いきなり飛ばされたからな。
アリスについては…最初はイギリスの演技?くれえには思ってたんだけど、怯えてる時とか本当に怯えてたし、心細いのとか嘘じゃないとか本当にわかったし…な、違うんだな…と」

「そっか…」
はぁ~っと大きく息を吐き出してスペインはその場に座り込んだ。

そして
「騙されとるかも…思うとっても目ぇつぶって守り続けてやるくらいには、ギルちゃんも本気やったっちゅうことか…」
クシャクシャと頭をかきながら言う。

本当にぎりぎり嘘を避けて…しかしミスリードを誘って言ってみたのだが、スペインはプロイセンが誘導したい方向に誘導されてくれたようで、とりあえずホッとした。

「親分とフランに願い事の話した頃にはもう、イギリスの演技ちゃうって事は判断しとったってことやんな?」
「あ~…うん、そうだな。その頃にはもうそう思ってた」
「…そっか……。
で?昨日のイタちゃんの話、ギルちゃんも聞いたんやろ?
アリスは飽くまでイギリスの現在の国体への好感度だけ持ってきてイギリスの性格を模してこっちの世界に造った存在やって」
「ああ」
「ほんなら…魔王倒したらその後…の心配はないやんな」
「…みてえだな」
「せやったら…ギルちゃんは何を願うん?
もうアリスを家に帰すとかいう必要はないやん?」

ああ、もしかしてそれを悩んでいたのか…と、プロイセンはスペインに視線を向ける。
途方にくれたような深いグリーンの瞳。

愛情を傾けて守ろうと思っていた相手が実は虚像だった…
そんな経験は長い国の一生の中でも初めての経験だったのだろう。

これと思った相手には深い愛情を傾ける分、行き場をなくした愛情の矛先をどこにやればいいのかわからない…そんな顔をしている。

それが答えになるかはわからないが…と、プロイセンはチラリとアリスに視線を移した。

「アリスはイギリスの性格を模してるから好みも一緒らしいしな…俺様、あのアリスがいつも抱きしめてるぬいぐるみを現実世界に持っていってイギリスにプレゼントしてやろうと思ってるんだけど?
アリス、すげえ気にいってんだ、あれ。
だからイギリスも喜ぶんじゃねえかなって思って…」

「…ヌイグルミ……」
その発想はなかった…とばかりにスペインもアリスに視線をむけた。

右手でマシュマロのついた棒を握って、左手にしっかり抱え込んでいるヌイグルミ。
そう言えばアリスはいつでもあれを抱えていて、寝る時はしっかり抱きしめて寝ている。

「…それ…ええな。親分もそうしよっ!」
ぱぁ~っと明るくなる表情。
良くも悪くも単純な男だ。

「なあ、プーちゃん」
立ち上がってぱぱっと服についた草を払いながらスペインはプロイセンを見下ろして言った。

「ん?」
「あんな、アリスはあの子の今の親愛度とか性格とか模したもんていうことは、たぶんプーちゃんの事好きなんやんな?
でもってプーちゃんも…。
それやったら親分いまは協力したるわ。
あの子がこの世でいっちゃん幸せでいられるんやったら、しゃあないしな…」
「…おう?」

少し眉尻をさげてそう宣言するスペインをプロイセンが戸惑って見あげると、スペインは今度はまさにお日様のような晴れ晴れとしたような笑顔で宣言した。

「その代わり…プーちゃんがあの子を少しでも不幸にしそうになったら、親分がもらってくな?
大丈夫っ!あの子の気持ちがプーちゃんに向いてる言う事がなければ、親分が世界でいっちゃんあの子の事幸せにできるさかいっ!
覚悟しといてなっ」

譲るようでいて…身を引くようでいて…実は堂々とした宣戦布告。
実にすがすがしいほどスペインらしくて、呆れかえっているうちに、

「テント張れたで~!今プーちゃんが結界張っとるから、親分も焼きマシュマロ組いれたって~!!!」
と、スペインは焚火の方へと駈けだして行った。



こうして色々な意味での準備は整った。
いよいよ、明日は魔王戦。
この世界での生活の最終日である。



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