がっくり肩を落とすアントーニョ。
「も~自分らのせいやで~」
とついつい周りで足元を凍らされている男達相手に膨れて見せるアントーニョに、男達は恐る恐る声をかけた。
「あの…あなたはもしかして…ジャスティスのアントーニョさん、ですよね?」
「ああ、そうやけど?」
とアントーニョが答えると、何故か男達からおお~っという歓声があがった。
「じゃあもしかしてアーサー追ってらしたのは弟さんの事で?!」
「はぁ?誰?」
「誰って…さっきの男ですよ。アーサー・カークランド。白い悪魔と言われてる極東支部のジャスティスです」
「はあぁぁ???あの子男やったん???」
うっわ~と、額に手を当てるアントーニョ。
「ほんま~?あれで男なん?」
「え?本人て知ってて追っていらしたんじゃ?」
「あ~追ってきたのは確かなんやけど…単に昼間にちょお見かけたさかい、なんとなくつけてみただけなんや。…で?自分らは何やっとったん?」
逆にアントーニョが聞き返すと、男達は互いに顔を見合わせた。
そして一人がおずおずと口を開く。
「私達は極東支部のフリーダムで…いつも仲間をあいつに殺され続けていい加減恨み骨髄なんで。」
「で?最後にお礼参りて?」
アントーニョはハ~っとため息をついた。
「自分らやってわかっとるんやろ?しゃあないやん。本人かて好きでやってるんやないと思うで?」
アントーニョの言葉は男達を失望させたようだ。
「それでも…普通顔色一つ変えずに殺したりしませんよっ。アントーニョさんも弟さん殺されてるのに平気なんですかっ?!」
自力でかちわったアントーニョ以外、足元が凍りついているので視線だけで詰め寄られるが、アントーニョはそれに対してスッと目を細めた。
「ブルーアースは戦闘集団やで?俺ら含めて必要な時に死ぬのは当たり前や。
あの子かて必要な時には死ぬやろけどな…ジャスティス一人調子崩して死んだらどんだけ後がきつくなると思うとるん?
ジャスティス一人減っただけでめっちゃぎょうさんの一般の人が死ぬんやで?
自分らそれわかっててそんな意味のない事やっとるん?
せやったら俺がここで止めさしたるけど…どないする?」
アントーニョが戦闘時さながらの殺気をみなぎらせると、男達はざわざわとざわめいた後にシン…と黙り込む。
「プロ意識ない奴はほんま要らんで?
今回は見逃したるけど、明日帰るまで、その後もやけど、次こんな真似しよったら上に通すまでもなく粛清させてもらうから、そう思っとき?
俺は怪我させへんように足元凍らせて立ち去るなんて真似できひんからな?」
ギロリと最後に一睨みして、アントーニョは少年が向かったであろう方向に見当をつけて走り去った。
消えた方向は宿舎のある宿舎のある5区と呼ばれる区域だ。
アントーニョは木々の枝を渡り歩き、おそらく極東ジャスティスにあてがわれているであろう部屋を窓からのぞいてみる。
両方人の気配がしない。
「おかしいな。どこ行ったんやろ…」
枝の上でアントーニョが首をかしげていると、ふいにまた小さな声がする。
下にある小さな池からこっそり水が這い上がってくるのにも気づいていたが、あえてそのまま放置。
アントーニョの足元がピキっと凍ると、白い影がようやく姿を現した。
「お前…なんで俺をつけてるんだ?」
闇夜に光る大きくやや吊り目がちなグリーンアイ。
男だとわかっても、ああ、かわええなぁと思わず笑みがこぼれる。
「自分、昼に黒髪の子と桜の下におったやん?それ見てかわええなぁって思ってん。」
アントーニョの言葉に少年はけげんそうに太めの眉をよせる。
「桜が?」
「自分桜ちゃうやろ?アーサーって聞いたんやけど?」
「聞いた?ああ、フリーダムの奴らにか。代理にボコれとでも頼まれてきたのか?」
すっと猫のように瞳孔が細くなる。
静かに警戒を深めるその様子はさながら金の毛並みの野良の子猫。
小さいながらもいっちょ前に戦闘態勢に入ろうという気負いがずいぶん可愛らしく感じて、膝に抱きあげて頭をなでまわしたい衝動に駆られる。
もちろん…子猫は子猫でも野良の子猫だ。
そんな事をしたら思い切り手を引っ掻かれるのはひを見るより明らかだが…。
ゆえにアントーニョも微笑みかけるだけにとどめた。
「いや…色々聞いたには聞いたけど、手ぇあげろとかそういう話はしてへんで。とりあえずジャスティス減ったら大変になるから手ぇだしたらあかんでとは注意しといたけど。
ま、そんな事はどうでもええわ。自分こんなとこいるんは、ああいう輩おるからか?」
少年…アーサーはそれに対して表情も変えず無言だったが、瞳だけが僅かに色を変える。
緑の中に月明かりが差し込み、彼の胸元の宝石、ペリドットのような色を帯びていた。
「魔を…払う石…か…」
目ざとくそれを見つけると、アントーニョはベリっと足元の氷などまるでものともせずに足をそこから動かして、一歩金の子猫に近づくと、その頬に手を伸ばした。
「なあ…親分が自分の事守ったるから…自分の事、全部俺にくれへん?」
見開かれたまま固まっている大きな丸い目から視線をそらさず、あっさりと足止めが解かれた事に驚いて硬直しているアーサーの方へもう一歩。
女性ならみんな落ちてくれたとびきりの笑みを浮かべてみるが、伸ばした手が柔らかそうな薔薇色の頬に触れるか触れないかくらい近づいた瞬間、ガリっとその掌に痛みが走った。
ペリドットの瞳が潤んで、頬が真赤に染まっている。
こうして至近距離で見ると驚くほど長い金色のまつげもフルフル震えていて、昼やさきほど見たどの顔とも違う表情をみせていた。
そして…
「死ねっ!ばかぁ!!」
アントーニョの手に引っかき傷を残した金色子猫は真赤な顔のまま叫ぶと去って行った。
その今までの自分の経験上からするとあまりに意外な反応に、今度はアントーニョの方がぽか~んと硬直している。
女性ならあの笑顔と言葉でほぼおとせた。
でも一筋縄ではいかないあの野良の金色子猫は、もしかしたらフリーダムの男達から逃げおおせた時に見せたような、小馬鹿にしたような悠然とした笑みでスルリとかわすかもしれない…それで5分と5分……と思っていたわけだが…
「なんやあれ…」
誰もいない夜の中庭にアントーニョの呟きが響く。
昼間桜の下で見せた穏やかで可愛らしい笑み…夜の噴水で見せた悠然と上から見下ろすような顔…そして…あの人慣れない初心な少女が初めて男に触れられた時のような、いっぱいいっぱいですと顔にかいたような反応で止めを刺された気分だ。
「…あかん……これ本気で落としにかかりとうなってきた……」
その場でしゃがみこんで頭を抱えるアントーニョ。
しばらく褐色の頬を赤く染めてそうしていたが、やがて
「よっしゃぁ!久々に親分の本気みせたるで!」
とにやりと笑みを浮かべて少年が消えていった闇に目をむけた。
Before <<< >>> Next
0 件のコメント :
コメントを投稿