青い大地の果てにあるもの3章_2

「おかえりなさい。アーサーさん」
お互い交換している合鍵でアーサーがするりと音もなく部屋に入ると、部屋の主、桜は驚きもせず来訪者の分の湯飲みを出すため、立ち上がった。

「パーティーは終わったのか?」
と、当たり前に畳敷きの部屋の端っこに置いてあった座布団を1枚失敬し、それを桜の座っていた座布団の隣に置いてアーサーが腰を落ち着けると、
「ええ。一応二次会とかに行ってらっしゃる方もいるみたいですが、私は帰ってきました」
と、木の盆に置いたゆのみにトポトポと茶を注ぎながら桜は答える。

そして
「アーサーさん、ジャスティスの…アントーニョさんにはお会いになりました?」
と、お茶を注いだ湯飲みを手渡しながら、桜はにこっと可愛らしい笑みを浮かべて聞いてきた。
「アントーニョ?」
アーサーはこくんと首をかしげる。
外で見せる悠然と人を小馬鹿にしたような仮面を取りはらった、無邪気な子供のような表情に、桜はくすりと笑みを浮かべた。

「今日…本部のジャスティスの方々を全員紹介して頂いたのですが…一人だけいらっしゃらなかったんです。
それで、そう言えばアーサーさんがパーティを抜け出された時に誰か一人追ってらしたなぁと思ってお聞きした特徴がその方と一致したので。
で、その後戻ってらしたフリーダムの方々に、アントーニョさんにお会いして、今後アーサーさんに危害加えないようにと脅されたとおっしゃってたので…」

「あ、もしかしてあいつかっ!」
アーサーの脳裏に先ほどの黒髪の浅黒い肌の男が浮かんだ。

変な男だった。
人の良さそうな顔をして、でもどこか油断の出来ない不敵な空気を感じる。
隙のない動き。そのくせ妙に隙だらけの行動を取る。
二回目に木の上で対峙した時も自分が下から水を移動させて足元を凍らせようとしていた事に気づいていたはずなのにあえて止めず、わざと罠にかかっては力で罠を押しつぶす。

広間にはいったとたん随分と周りの女性陣が騒いでいたので、おそらくモテるのだろうと思うが、結局せっかくドレスアップして寄ってきた女性陣を放置でわざわざ自分を追ってきた訳もわからずじまいだ。

「本部のジャスティスのリーダー的存在らしいですよ。」
アーサーが考え込んでいる横に静かに座ると、桜はそう付け加えた。

なるほど、だからか…と合点が行った。
周りになじもうとせず歓迎会を抜け出した新人をなんとか馴染ませようと追いかけていたのか…。

「それは…まあ余計なおせっかいだとは思うが、悪い事したな。」
ずず~っと湯飲みから茶をすすりながら呟くアーサーに、桜は着物の片袖で口を隠して目だけで微笑んだ。

「何か…なさったんですか?話に聞いた限りでは、あちら様は随分とアーサーさんをお気に入りの様子でしたけど?」
はっきり物を言わず何か意味ありげな言い方をするのは桜の常なのだが、時と場合によっては少し気にさわる。
アーサーは眉を寄せて不快の意をあらわにした。

「からかってるだけだ。少しイラっと来たから2度ほど魔法で凍らせて、最終的に放置して帰ってきたけど…」
と、そのアーサーの言葉に桜はそれ以上は怒らせると長い付き合いから察して、
「そうですか」
と、自分も湯飲みに口をつけた。

「それより…桜の方はどうだった?本部のジャスティス。」
あっさり引き下がる桜に少しの気まずさを覚えた事もあって、アーサーは逆に桜に問い返す。
それに対して、そうですねぇ…と桜は少し考え込むように伏し目がちに湯飲みの中に視線を落として、ポツリポツリと話し始めた

「まず中心になっているベテランが、さきほどのアントーニョさんとエリザさん。エリザさんの方は綺麗で凛々しい感じのお姉さまでした。
ジャスティスでは唯一くらい重量級武器…大剣を使われるみたいです。
主にこのエリザさんが拠点となって敵を食い止めている間に、他が周りに散開、各個撃破。アントーニョさんが全体のフォローに回る…そんな戦闘をなさるようです。
次に女性のベルさん。
明るく楽しい感じの女性で武器はナックル。
新人時代にアントーニョさんがお世話なさってたそうで、お二人兄妹のように仲が良く、アントーニョさんの事は親分と呼んで慕っていらっしゃるみたいです。
あとは…フェリシアーノさんとルートさん。
武器が弓矢で攻撃力はそこそこあるものの打たれ弱いフェリシアーノさんをサーベルと盾が武器のルートさんがカバーする形で、いつも二人一組で行動なさっているようです。
フェリシアーノさんは優しく明るい感じの方で、おじい様が今のブレイン本部の本部長、双子のお兄様がその補佐をなさっていて、ルートさんはとても体格がよろしくて、とても真面目そうな方です。ルートさんのお兄様はフリーダム本部長のギルベルトさんです。」

最後に桜は、
「皆さんアーサーさんにお会いできないのを残念がっていらっしゃいましたよ?」
と付け加えるが、アーサーは
「どうせ最初だけで、すぐ飽きて嫌になる」
と、小さく息を吐きだした。

自分を本当にわかってくれて最後まで側にいてくれるのは、この世でたった一人、桜だけだ。
アーサーは小さくそうつぶやくと、ごちそうさま…と、湯飲みを流しに出して、自室へと戻って行った。






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