魔王を倒すぞ、もう普憫なんて言わせない!_3人の宿泊

本当に小さなその村に1件しかない宿。
スペインとフランスと合流してから初めて宿を取る事になるのだが、そこで揉めた。

「ありえへんわっ!アリス女の子やでっ?!
いくらギルちゃんが童貞かて、血迷わんとも限らへんやんっ!
危ないわっ!!」

今まではプロイセンとはツインルームに泊まっていたのでそのつもりだったのだが、今回はスペインが強固に反対した。

「そんな事言ったって、お姫さんが1人じゃ心細いっていうんだから仕方ねえだろっ!
そもそも童貞じゃねえっ!!」
「え~(疑いの目)」
「とにかく旅の間は平和な場所ばかりじゃねえし、お姫さんを1人にはできねえっ!
俺様は一緒の部屋に泊まるぞ!」
「それやったら親分が泊まったるわ」
「てめえの方が危ねえだろっ!このラテンっ!!!」

延々と続く言い争い。

ぬいぐるみを抱いたまま立ちすくむイギリスに、人の良さそうな宿の主人の奥さんが
「疲れたでしょ。どうぞ。
2人ともあなたの事が大事なのねぇ」
と、にこにこと椅子とお茶とお菓子を勧めてくれる。

「ありがとうございます」
と、イギリスはそれににっこりと礼を言うと、ミルクティを飲みながら待っている。

終わりそうにない口論。
それを終わらせたのは宿の主人だ。

「ほらほら、兄ちゃん達、お姫さんが困ってるよ?
広めの続き部屋のツインがあるから、そこで3人仲良く泊まったらどうだい?」
と、その言葉にスペインとプロイセンは顔を見合わせ…そして最終的にイギリスに視線をむけた。

視線を受けてコテンと首を傾けるイギリス。
そして少し考えて…
「そう…ですね。
フランシスさんがいないとトーニョさんがひとりぼっちになっちゃいますし……
私はギルベルトさんがいないと心細いので…フランシスさんが戻っていらっしゃるまでは3人で泊まりましょうか」
と、この台詞でフランスの死亡フラグがたったのでは…と、プロイセンは内心思ったが、やはり空気を読んで黙ってチェックインの手続きを始めた。



部屋はリビングと広めの寝室。
ベッドも広めで寝室の左右に一つずつ。

「ベッドどっち使う?」
というスペインの言葉にプロイセンは当たり前に
「お姫さんは壁側だろ。俺らは窓際。
侵入者があった場合に侵入経路はドアか窓だし」
と言うがスペインは
「大の男2人で寝るん?狭ない?プーちゃんリビングのソファも空いとるで?」
と眉を寄せる。

「おいおい、意味ねえだろっ!!
お姫さんは俺様がいねえとって言ってんだっ!!」
と、また始まりそうな口論に、イギリスがまたにっこり
「じゃあ体格的に私とギルベルトさんが一緒に寝ましょうか?」
大丈夫、私寝相は悪くないんですっ!と手を胸の前で合わせて言うと、スペインは
「冗談っ!冗談やってっ!それはあかんっ!危ないてっ!
親分とギルちゃん悪友やしなっ、雑魚寝も慣れとるからっ!!」
と、慌てて前言撤回した。



風呂は当然最初にお姫様。
次いでスペインが入りたいと言うので先にいれて、壁際のベッドでくつろぎ中のイギリス。

「な、あれ気持ち良かった。
またやってくれよ」
と言われてプロイセンは悩む。
もちろん何をかはわかっている。
しかししかし…?
前回のような事があったら…??
とあたりを見回すも、前回と違ってのどかな村の宿屋。
田舎らしく壁も厚ければ、そもそも泊まり客もほぼいなさそうだ。

「プロイセン?どうした?
お前も疲れてるんなら良いけど…」
「いや、ちょっとあたりを警戒してただけだ。
じゃ、ちょっとやるか」

イギリスはよもや前回のマッサージの声がそんな風に見られていたとは知らない。
そのことを知らせるのははばかられるし、まあここなら大丈夫か、と、プロイセンは腕をまくった。


――…んっ……やっ…それ…痛い…
――…ん~少し我慢できるか?すぐ気持ち良くなるから…無理ならやめるけど?
――…ん、やめないでいい…我慢できなくはない…から……
――…ここは?…これ、気持ち良いか?
――…あぁっ…それっ…きもち…いっ…やだ…続け…て…いいっ!!


お姫さんの入った直後の風呂に入りたいとか、童貞臭いし変態臭いと我ながら思うが、プロイセンがお姫さんの直後に入るのは嫌だ…
そんな理由で断固として2番目に風呂に入る事を主張してみたわけなのだが…この世界についてからずっとフランスと2人だったので抜いてもいなかったせいだろうか…思いがけず色々とたまっていて長湯してしまった。
そんな事を思いながら風呂を出て、お姫さんと同じ部屋に寝るのだからと、普段なら上半身裸で下にズボンという事も多いのだが、今日はきっちり上下ともパジャマを着こんで脱衣場から出て来たスペイン。

髪を非常に適当にタオルで拭きながら急いで寝室に…とリビングを抜けて寝室のドアノブに手をかけて硬直した。

(…なっ…なにしとるん~!!!!!)
風呂で抜いてきたはずなのだが、一気に臨戦態勢に入ってしまった下肢。
そしてその場にしゃがみこむ。

その間も続く色っぽい嬌声。
とても煽られる…一方で若干冷めていく心。

プロイセン相手にあんな声を出して受け入れるのか…と、自分だって綺麗な身では当然ないのだが、清らかだと勝手に思い込んでいた相手の痴態に理不尽だと思いつつも募る不快感。

これがフランスあたりなら、『お兄さんもいれて~』などと言って入って行くのだろうか…。

(ああ…あかん。腹立って来た。フランスが戻ったら一発殴ろう)
と、ここでも勝手にたっていくフランスの死亡フラグ。

それこそ理不尽な怒りなのだが、フランスに対してはスペインもそれが微塵も理不尽だと思っていないあたりが、実は普憫と揶揄されるプロイセンよりもフランスの方がよほど扱いが不憫なのかもしれない。

そんな風に部屋に入るに入れないでいるうちに、プロイセンの
――だいぶ楽になって来たか?
と言う声に、
――ん。足の疲れも取れて来たし、今日はよく眠れそうだ。
というアリスの声。

ついで…
――そっか。それは良かった。あとは蒸しタオルか何かで温めればさらにリラックスするかもな。ちょっと待ってろ。
と、近づいてくる足音。
まずい!!…と思った時には目の前でドアが開いた。

「………」
「………」
「…あの……」
「…誤解してるなら言っておく。マッサージだからな?」
「………」

見下ろして固まるプロイセン。
見あげて固まるスペイン。
口を開きかけたスペインにプロイセンは小声で言う。

『ギル~??』
戸口の所で固まっているせいだろう。
部屋の奥からアリスの声。

それに対してプロイセンは振り返って
「いや、なんでもねえ。すぐタオル持って戻るな」
と答えると、パタンと寝室のドアを閉めた。

「…マッサージ……」
「おう、お姫さん歩き疲れてるだろうから、足裏とかな」

一気に力が抜けた。
スペインははぁ~っと大きく息を吐き出す。
プロイセンは暖炉に湯をかけながらやはりため息。

「前もな、なんか勘違いされたらしくて……チェックアウトの時に宿の主人に『ゆうべはお楽しみでしたね』とか言われたんだけど……」
「そら言われんで…。冒険者は男が多いさかい、あんま刺激せんように気をつけんと」
「おう。そのせいでお姫さん拉致られたみてえだしな」
「…それ…もしかして……」
「おう、お前らとこっちの世界で初めて会った日だ」

なるほど、納得だ…とスペインは思った。
あんな声を聞かされたら、女日照りの男達がおかしな気を起こしても不思議ではない。

「まあ…この宿は壁も厚そうだし、そもそも俺らの他に泊まり客とかいなさそうだしな。
大丈夫かと思って」
と、続けるプロイセンに、スペインは自分の事は棚に上げつつ
「今はええけどな。フランスとか戻ってきたら気ぃつけなあかんで」
と、警告をした。

まあ…それと共に、事情が分かってホッとする。
おそらくアリスはスペインが思っていた通りの箱入り令嬢なのだろうと、心底安堵した。

それと同時に……――フランには近寄らせないようにせんと…――と、また理不尽な決意もしつつ、さっと湯を浴びてくると言うプロイセンに蒸しタオルの用意を変わる事を申し出た。




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