魔王を倒すぞ、もう普憫なんて言わせない!_4人旅開始

イギリスの服を買い、その後、プロイセンが預けた荷物を宿屋のカウンターで受け取って預かり料を払って戻ると、スペイン達も同じく彼らが泊まっていた宿から荷物を持って出てきて、それから一緒に街を出た。

先を歩くスペインとフランス。
そのあとを少し間を開けてプロイセンとイギリス。

どうやら2人はこの街が最初の街でたまたま出会って1人よりは2人…と、一緒に行動する事にしたらしい。
もちろんその話は、彼らはこちらの世界の人間だと思っているイギリスに配慮して、“たまたま故郷から出てきて着いた街“ということで話をしていたが…。

スペインもフランスも綿密に策を弄するタイプではないので、おそらくイギリスつまりアリスを本当にプロイセンが説明したままの人物だと思っているのだろう。

そのあたりに安心して周りを見る余裕が出てくると、互いに軽く殴ったり蹴ったりじゃれつきながらも笑って進む、前の2人が目に入る。
そして申し訳ないな…と思った。

スペイン、フランス、プロイセンの3人はしばしば悪友トリオと言われる仲の良い友人同士である。
しょっちゅうフランスの家で飲み会をしているのもフランスとの会話の中でよく聞いていた。

本当だったら自分なんかといるよりも、プロイセンだってあちらに混じって楽しくやりたいだろうな…と思う。
が、自分と2人でないと魔王の間の扉が開かないと言う立場上、自分といて自分の秘密を守るしかないのであろうプロイセンが本当に可哀想だ。

そう思えば、ツキン…と何故か痛みを感じた気がして、イギリスが思わず片手で胸元を押さえると、プロイセンはハッとしたように荷物を放り出して、イギリスの前にしゃがみこんだ。

「お姫さん、どうしたっ?!昨日のでどこか怪我でもしたか?!少し休むか?!」
心配そうに見あげてくる真っ赤な目。

気分が悪い…そう言えば優しくしてもらえるのか?
一瞬そんな思いが脳裏をよぎり、しかしすぐ心の中で否定する。

プロイセンには今でも十分優しくしてもらっている。
今まで誰にもしてもらった事がないくらいに。
愛情に飢えた心に染みいって、本当に元に戻れなくなるんじゃないかと思うくらいに……

だからこれ以上迷惑をかけてはならない。
プロイセンの負担を大きくしてはならない。

「ごめん…なんでもない。大丈夫だ」

笑って言おうとして、失敗した。
ぽろぽろと涙が零れ落ちて、慌てて顔を隠すが、両手首を掴まれてそれを外される。

「お姫さん…隠すなよ。
辛い時はちゃんと言ってくれ。
どこか痛いのか?」

本当に心配そうな顔でそう言うプロイセンに首を横に振った。
だってたぶん物理的な痛みじゃない。
どうしようもない。

強いて言うなら…“痛い”じゃなくて、“怖い”なのかもしれない。
優しくされるのが心地よすぎて、魔王退治が終わってまた1人で嫌われ罵られながら生きる生活に戻るのが怖い。

そんな事とてもじゃないが言えなくて、イギリスはシャクリをあげながらただ
「…こ…怖い…」
と、それこそそんな風に言われても困惑するだけだろうと言う言い方をしてしまったが、プロイセンは呆れる事もなく、立ち上がってぎゅうっと抱きしめてくれた。

「ごめん…。ごめんな?
これからはずっと俺様が守るからな?
お姫さんが怖いと思う全てのものから俺様が守ってやるから」
と、そんな2人に、前を歩く2人も足を止めて駆け寄ってくる。

「どうしたん?お姫さん気分でも悪いん?」
と、覗き込んで来ようとするスペインの視線からイギリスを隠すようにプロイセンは少し身体をずらせると、それにスペインが何かを言う前にと、口を開いた。

「あ~…なんていうか、お姫さんこんな感じだからな、よく男に絡まれたりすんだけど、外出た事ねえくらいの箱入りがいきなり知らない奴に拉致られたわけだからな、色々がトラウマになってて、そういう事あるとしばらくすげえ怯えて不安定になって泣くんだよ。
特に昨日は物理的に拉致られてっからな。
怖さが消えねえらしくて……」

この状況にそんな風にもっともらしい説明を思いつくプロイセンはすごい…とは思うものの、さて、スペイン達はそんなんで騙されてくれるのか?とイギリスは不安に思う。

………が、騙されたらしい。

「可哀想になぁ…大丈夫やで?安心し?
これからはそういう奴は親分がこの戦斧で全部追っ払ったるからなっ!
もう怖い奴らは近づいてこれへんよ」
と、言いつつ、プロイセンが担いでいた2人分の荷物に手を伸ばして自分の物と一緒に担ぎあげ、
「これ親分が持ったるから、ギルちゃんお姫さん抱えてやり?
逆でもええけど…」
とさえ言う。

さすがラテン、女には甘いな…と、プロイセンの腕の中でイギリスは秘かに感心した。
ただ逆は困る。
抱きあげられたらさすがに男…イギリスだとバレるだろう。

そう思ってぎゅっとプロイセンのサーコートを掴むと、プロイセンはそれに気づいて
「そうだな。ダンケ、トーニョ」
と言って有無を言わさずイギリスを抱き上げた。

そうしている間にも涙腺が壊れてしまったかのように涙が止まらない。
普段だとからかわれるそれも、今少女の格好をしているためか、周りの視線が優しい。

「もう少し行ったら今日は休もうか。
このあたりさっきから果物の木がいっぱいだし、お兄さん拾って歩いてるから、コンポートでも作ってあげるよ。
疲れてる時には甘い物が一番だからね」
と、フランスまで普段とは手のひらを返したように言い始めることに、心の中で(…くたばれ、ラテンズ!)と毒づきながらも、そうやって甘やかされる心地よさに混乱して、イギリスはコテンとギルベルトの肩に頭を預けた。



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