プロローグ
「ああ、私もまたお邪魔したいものですねぇ…」
その日はスペインでの世界会議。
最近スペイン宅に通いつめてる双子の兄がなんだか妖精さんがかすかに見えるようになってきたらしいとのイタリアの話に、日本はふと、以前アメリカと二人で新婚のスペイン宅を訪ねた事を思い出し、ほぉっとため息をついた。
「そうだねぇ。俺も一度訪ねたきりだから付いて行きたいんだけど、今はダメって兄ちゃんに言われてるんだ。
兄ちゃんは良いのに、なんでだろ~」
イタリアの一筋クルンと跳ねた茶色の髪が、感情を現すように下に萎れる。
「ロマーノ君はなんのかんの言ってスペインさんにとっては本当の弟か子どもみたいなものですからねぇ。特別なんでしょう。
あ、ほら、イタリア君。会議室前に人が集まってますよ。」
気を紛らわせるように日本が指差す方向を見てみれば、なるほど人だかりができている。
「フランスさん、何かあったんですか?」
少し小走りに、集団に混じって会議室の中をのぞき込んでいたフランスに日本が声をかけると、フランスは恐る恐る室内の一点を指さした。
その指を指した先には忙しく書類を配る主催国スペインと、会議室の席に座って機嫌良さげに話をする男…。
スペインはまあいい。
例えいつもぎりぎりに来る男が1番に到着していようと、主催国なわけだから、準備のために来ているのだろう。
しかし…スペインの隣、【イギリス】と書かれたネームプレートの席に座るあの男は誰だろうか…。
見覚えのない…でもどこか見たことのあるような気もする人物に日本が首をかしげていると、日本の隣でイタリアが素っ頓狂な声をあげた。
「あれえ?スコットランドじゃん。どうしてスペイン兄ちゃん家の会議なのに、イギリスじゃなくてスコットランドが来てるんだろうね?」
そのイタリアの言葉で日本は納得した。
どこかイギリスに似た…だがイギリスとは違い、もう幼さの残らない端正なしっかりとした顔立ち。
もちろんそれでも立派な眉毛は健在だ。
むしろ童顔と妙にミスマッチさのあるイギリスより、男臭いスコットランドの方がしっくり来る気がする。
「うん…まあ坊ちゃんの都合が悪ければスコットが出てくる事もあるだろうけどね…。」
フランスは青い顔でイタリアに返す。
「怖いのは…スコットが…あのスコットがだよ?なんであんなにスペインとにこやかに親しげに話してるかだよ。
ついこの前まで脳みそトマトの無敵艦隊(笑)とか言ってたのに…」
フランスの視線を追って室内の二人に目を向けてみると、確かに親しげだ。
スコットランドの顔からは皮肉な表情も見られず、むしろたまに機嫌の良い時のイギリスのように、少し堪えてはみたものの堪えきれずに漏れてしまった的な、かすかな笑みのようなものさえうかんでいる。
もちろん対するスペインは終始満面の笑顔だ。
「ヴェ~。義理の兄弟になったんだし、それで仲良くなったんじゃないの?」
邪気のない様子でコトンと少し首を傾けるイタリアに、フランスは
「…お前ねぇ…あいつはそんなタマじゃねえだろ…」
と大きく肩を落とした。
「イギリスに輪をかけてツンデレで皮肉屋で横暴で…しかも他人大嫌いな奴だぞ?
それが馬鹿にしきってたスペインとって…どうなってんだよ…」
「それは…なかなか興味深い。」
そう呟いた瞬間、まるでワープでもしたかのように気配なく、皆一様にその組み合わせと雰囲気の異常さに足を踏み入れる事のできなかった空間に、日本は足を踏み入れていた。
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