大家族
「あ~これが噂の幸せのメープルシロップやね~。
うちのワッフルにかけたらええんやない?」
手土産のワッフルを皿に乗せて、同じくカナダの手土産のメープルシロップをトポとポたっぷりかけて、あ~んっと頬張るベルギー。
「うっあ~~!!これめっちゃ美味いで~!!ホラ、ロマも食べてみっ!!」
と、隣にいるロマの口に放り込むベルギー。
「なんや。坊も欲しいんか?」
オランダが皿をとってワッフルを乗せてメープルをかけると、ベルギーの手元をじ~っと凝視していたシーランドに渡してやる。
シーランドはそれを受け取ると、
「ありがとうですよ。」
と、ハグハグそれを食べ始める。
「おう、ちゃんと礼言えるええ子やな。」
と、オランダがシーランドの頭をクシャクシャとなでると、
「シー君は英国紳士ですからねっ。礼儀はちゃんとしてるのですよっ」
と、シーランドは自慢げに胸を張る。
「オランダさん…意外に優しい方なんですね。」
と、それを見たカナダが目を丸くすると、ベルギーとロマーノは顔を見合わせて
「「子どもにだけなっ」」
と、笑った。
トマト一家と英連邦の集まった交流会は和やかな空気の中行われている。
一応主催者として忙しく動き回るスペインとは対照的に、ソファに腰をかけたまま久々に顔を合わせる家族とにこやかに話すイギリス。
小さな皿にクッキーとケーキ、それに小さなミルク入れにミルクティを入れた物を手に、その中に当たり前に入って行くロマーノ。
「おい、これどこに置けばいいんだ?」
と聞いてくるロマーノにイギリスは
「あ、妖精さん用のを用意してくれたのか。ありがとう、ロマーノ」
と目を細める。
「例え俺から見えなかろうと、ベッラにはサービスしねえとなっ」
と、笑うロマーノに、イギリスは人ごみから少し離れた窓際の小テーブルの上に置いてくれるよう指示を出す。
「スペインさんの家族は…妖精さんを否定しないでくれるんですね。」
その様子に嬉しそうに言うカナダ。
自分も幼い頃には見えていたが、今は見えなくなってしまった。
それでもおそらくこの家の中には確実にいて、イギリスを守ってくれているのであろう彼女達を否定したり馬鹿にしたりされるのは悲しい。
こういう他に気を取られやすい席でも彼女達の事を忘れずにゲストとして扱ってくれるロマーノに、カナダは好感を覚えた。
「「あ~ロマは優しい子やから。ただし女性にだけな」」
と、今度はオランダとベルギーが声を揃えて笑う。
本当に笑顔の絶えない一家だ。
「こんな家族に囲まれてたら、イギリスさんも幸せになれますね」
ほわっと笑うカナダだが、そこでシーランドが少し考えこんで
「イギリスの野郎は…こいつらの家族になるんですか?」
と、カナダを見上げた。
一瞬答えに迷うカナダ。
すると
「そうやで~。親分の家族はイギリスの家族になるねん。
せやからシーランドも親分の家族になったってな~。」
と、いつのまにいたのかスペインがシーランドを抱き上げた。
「そうやな。そのうち赤ん坊が生まれたら子どもの遊び相手がいたほうがええやろし」
と、そこで通常運転の会話を始めるオランダ。
「オランダ~!せやから国には子どもできひんて何度言ったら…」
「わからへんやろっ!それこそロマがあれだけ妖精さんに貢いどるんやしっ。俺の嫁の一人くらい…」
「万が一生まれたかて自分の嫁にはならんわっ!」
「あ~、始まってもうたわ~。シー君、こっちおいで~。チョコもあるで。」
と、オランダといつもの軽い言い争いを始めるスペインの手からシーランドを取り上げるベルギー。
『イギリス、幸せそうね。』
『ええ、最初はどうなることかと思ったけど…』
『スペインは良い人。イギリスを笑顔にしてくれたもの。』
『スペインの家族も良い子よ。』
『そうね。ちゃんと私達にもお菓子くれるもの』
『ねえ、私達も何かお祝いしない?』
『お祝い?まあ素敵っ!』
『何にするの?』
『何にしましょう?』
『二人が幸せでありますように…』
『そうね…二人の幸せをさらに大きくしてくれるものを…』
ふと窓際の小テーブルのお菓子とミルクティが減っている事に気づいたロマーノは、
「お嬢さん達、好評だったみたいだな。おかわりはいかがです?」
と、イケメンスマイルでミルクティとクッキーを足した。
『まあ、ありがとう!』
『あなた良い人ねっ』
「…??」
鈴の音のような小さな小さな声が聞こえた気がしてロマーノがあたりを見回すと、皿のあたりがキラキラ光って見える。
「ああ、そこにいたのか。お嬢さんたちが1番古いイギリスの家族だもんな。
ってことは…俺達の家族にもなるんだよな。
よろしくなっ」
『よろしくね』
『よろしく、ロマーノ』
『優しい子に祝福を…』
こうしてトマト一家と英連邦の他にもう一組の家族ができた事を知っているのは、妖精たちとイギリス…そして少しずつ彼女たちの心を掴んで心を許してもらえるようになるロマーノのみだ。
それでも妖精の祝福はこの家族達を大きく包み、フェイクで始まった結婚は大きな幸せを運んできたのだった。
0 件のコメント :
コメントを投稿