魔王を倒すぞ、もう普憫なんて言わせない!_悪友合流

「もう、ほんっと美しくな~い!
始まりの街って本来はのどかな田園の村みたいな所だよね?
なんでこんな荒んだ街なの?」
「親分それより最初の街で出会ったのが髭の変態の方が嫌やわぁ~。
せめてロマかイタちゃんやったら良かったのに…ほんま神様ひどいわ、ひどすぎやわぁ…」

規模としては中規模の街、そこに舞い降りた男2人。フランスとスペイン。
互いにどうしてここにいるのかは分かっている。

いきなり会議中に飛ばされて、人間達、国体達の不仲に呆れた神が久々にノアの箱舟の時のような洪水でも起こそうかと言うのを止めるため、魔王を倒さねばならないと自分は言われたし、相手も言われているはずだ。

しかしそれを伝えに来たローマ帝国いわく、魔王の間の扉が開く条件はそれぞれ違っていて、しかも魔王を倒した先着一名様にはなんでも願いを叶えてくれるとのこと。

スペイン的にはそれならもう叶えたい願いと言うのはあるわけなのだが、もちろん条件も願いも他の奴には秘密である。
下手に明かして邪魔をされては敵わない。

自分がそんな感じなので、フランスの方もそのあたりの話になると微妙に話題を反らしてくるのも分かっていて、だから互いにそのあたりには触れないまま、しかし1人よりは2人の方が色々やりやすかろうと、なんとなく一緒に行動をしていた。

まあ現実世界では悪友とひとくくりにされる相手だけに、気を使わないで良いのと、ある程度能力を知っていて、さらに行動パターンも予測がつくのはやりやすいし、ありがたい。
それはフランスの方もなのだろうが。

「ほんま華ないわぁ~。
まあ…自分みたいなんでもいないよりはマシやけどな。
戦力いう意味で言うならプーちゃんの方がお役立ちな気がせえへんでもないなぁ」
「ちょ、ひどいっ!お兄さん自身が十分華でしょっ!!
それに単純に戦闘ならお前自分でやるだろうし、お兄さんみたいに魅力あふれるコミュ力が高い相手の方が情報収集とか出来て良いじゃない」
「…人懐こくして街のみんなから情報集めるとかやったら、それこそ親分自分でやるわ。
むしろ今後の魔王までの道のり考えたり戦略たてたり出来る相手が欲しいねん」
「あ…それは確かに…じゃ、とりあえずプーちゃん探そうか?」
「ああ、ええねぇ…」

では具体的にどうするか?など相談する事はない。
なんとなく一緒に行動してなんとなくギリギリまでは共闘するつもりなのと同じく、なんとなくそんな話をしているだけだ。

「ほな、今日もちょお腕馴らしにそのあたりのモンスターでも狩ってくるか~」
街はずれまで歩いて来て、そう言って腕をぶるんぶるん回すスペインに、フランスは
「じゃ、お兄さん先に宿に戻ってるね~」
と、手を振って反転しかけたその時である。

――…いっ…いやあぁぁあっ~~~!!!!!
と言う悲鳴と何かビリィッ!!と布地が破けるような音。

「なんっ?!!!」
「あっちっ!!!」
2人して反射的に振り向いて、声の方へと駈けだすと、街はずれの人のいない木の影にいかにも悪党面をした男2人とそれにのしかかられる少女。

「フランっ!!!」
「了解っ!!!」

スペインの掛け声でその場でポロンと竪琴を鳴らすフランス。
この世界では支援をメインとしている詩人。
その楽器の音色は威力は本当に些細なものではあるが攻撃に使えるものもある。

今フランスが使ったのは2人での戦いの時に主に敵を引き寄せるいわゆる釣りに使うもので、フランスの竪琴から飛び出た音符が少女にのしかかっている男を弾き飛ばした。

「自分ら…何しとるんやっ!!」
と、その間にも背負った戦斧を手に構えて走り寄るスペイン。

こちらはまだ間合いに入らなくてもそれとわかる、歴戦の武人である。
なにしろそんじょそこらの人間とはくぐりぬけて来た修羅場の数が違う。

一時は国の全土を異教徒に侵略支配された状態から戦鬼のごとき形相で血濡れた斧を振り回し、全てを奪還した時の迫力をそのままに迫ってくるスペインは、傍から見ても恐ろしい。

その勢いに少女を押さえつけていた男も慌てて手を放し、弾き飛ばされた男ともども逃げて行った。

そこでスペインは斧をまた背に戻すと、残された少女へと目を向けて…そして固まった。

綺麗な少女だ。
落ちついた金色の長い髪が流れる光の川のようにペタンと座りこんだ地面に波打っていて、同色の驚くほど長いまつげはクルンと綺麗なカーブを描いている。
肌は透き通るように真っ白で、その中で淡い淡いピンク色の唇が愛らしい。
そしてなにより瞳……
零れ落ちそうな大きな眼は淡い淡い光の中で揺れる新緑のようなグリーンで、かつてスペインが婚姻関係を結んでいた愛らしい少年を思い出させた。

しばしポカンと見惚れるが、――アントーニョ?とあとから駆け寄ってきたフランスに不思議そうに声をかけられてハッとする。

本当にありえない。
あの子は少年でこの子は少女だ。
どれだけ自分は引きずっているんだ…と心の中で自嘲しつつ、
「もう大丈夫やで?」
と、声をかけつつ手を伸ばすと、少女は声にならない悲鳴をあげて、へたりこんだまま後ずさった。

「あらら…怖がられてる…ね?」
と、いうフランスの言葉には答えず、スペインは自分のマントを脱いでそれを少女の方に投げてから、自分はその場で膝をついて、距離は近づけず、しかし視線は少女の高さに合わせて言った。

「それ…着とき?
親分達の事怖かったら、家の人呼んで来たるよ。
誰を呼んできたらええか教えたって?
後ろのフランが探して来るさかいな。
それまで親分はここで危ない奴来ぃひんか見張っといたるから…」

そう言っても少女は破かれた胸元の布をぎゅっと合わせるように自分で自分の身を抱きしめたまま、スペインを凝視しつつ固まっている。
合わせた服の間から、少女らしい清楚な感じの真っ白な下着の繊細なレースが見え隠れする。

それにスペインは苦笑して、少し近づいて自分が投げたマントを取ると、今にもショック死しそうなくらいすくみあがった少女にかけてやって、それから少し距離を取ると、フランスを振り返った。

「どないしよ?このまま放っておかれへんし…」
そう口にした直後…すさまじい殺気に、スペインは慌てて背の斧に手をかけて立ち上がった。

「…てっ…めえ……アリスに何しやがったぁーー!!!!」
このところ戦場を離れていたとはいえ、それは相手も同じはずなのだが、一気に間合いに入って来られて、スペインは慌てて一歩退いた。

「ちょ、ギルちゃんっ?!!なんでおるんっ?!!!」

斬りかかって来たのは悪友の1人プロイセンだ。
酷く激昂していて、しかしそこは腐っても元軍国。
戦闘と言う事に関しては冷静な判断を手放したりはしないのだろう。

飛びずさったスペインと少女の間に割って入り、少女を背にするようにスペインに対して攻撃態勢を取る。

画像提供:白夜さん


状況が全く読めない。
というか、剣撃が激しくて深く考える余裕がない。
そんなスペインの代わりに、どうやら状況を把握したらしいフランスが叫んだ。

「違うからっ!俺達は暴漢に襲われてたお姫様を助けただけっ!!
お姫様を襲ってた暴漢は逃げちゃったのっ!!」

「…へ…?」
丸くなる紅い瞳。
止まる剣。
それでも用心深くスペインに盾だけ向けながらチラリと少女に視線を落とすプロイセン。
涙目でプロイセンのマントの端を掴みつつ、こくりと頷く少女。

「なんだ…そっか…。
悪かった、助かったわ…」
はぁ~っと力が抜けたようにその場にしゃがみこむプロイセンに、スペインもようやく戦闘態勢を解いて
「ほんま…ギルちゃんの剣撃きっついわぁ~」
と、同じくしゃがみこむ。


「親分、さすがにこんなお姫さんに乱暴するなんて事せえへんで」
「…悪かった。宿で会計して待たせてた隣の部屋戻ったら拉致られてたから…」
「あー、この街は治安悪いからね。一瞬でもこんなお姫様から目ぇ放したらダメよ?
危ないよ?」
「…みてえだな。昨日着いたばっかで今日発とうと思ってたから、油断してた」

同じく2人の戦闘が終わった事で安心して近づいてきたフランスもそこにしゃがみこんで話しだす。

「ちょうどね、ギルちゃんも探して3人で魔王倒しに行こうかって話してたのよ、一緒に行くでしょ?」
そう言うフランスに、プロイセンは少し考え込んだ。

「…なん?あのお姫さん、なにか訳ありなん?」
プロイセン1人なら絶対に乗るであろう誘い。
それを躊躇する理由と来たら、もうそこしかないだろう。
そう思って聞くと、プロイセンはちょっと待ってくれ…と、立ち上がってほんのわずかに離れた少女の元に行って、何か話している。
少女が躊躇して…でも何か説得が終わったようで、また戻ってきた。

「結論でたん?」
思い切り怯えられていた気がするので、おそらく同行したがらないのは少女の方なんだろうな…と思って聞くと案の定で、プロイセンはスペインの隣にしゃがみこむと悪友2人の顔を見回して言った。

「えっとな…まずさっきのアントーニョの質問から。
お姫さん、アリスは深窓の箱入りで、いきなり自宅から拉致されて、たまたま連れ去られ中に出くわした俺様が誘拐犯を張り倒して助けたお嬢様だ。
困った事には箱入りすぎて…だな、家を出た事もなければ家がどこにあるのかわからねえっていうおまけ付きで…もしかしたら彼女を拉致した奴が物理、もしくは策略しかけてアリスを奪還に来る可能性もある。
治癒魔法は家でたしなみとして習ってたってことで、ヒーラーは出来るけど、他は一切期待できねえ色々難しいお姫さんなわけだ。
しかも…そういう経緯があるから俺以外の男が怖い。
てことでな、同行するにしてもあまりアリスに構わないで欲しい。
と言う事で良ければ、なんだけどな。
確かにお姫さんの護衛が増えるのは歓迎すべき事なんだが、お前らの方にはあんまうまみねえし…」
「水臭いわ、ギルちゃん、俺ら悪友やん」
「そうよ、それにギルちゃんはそれでもお姫様守っていくつもりなんでしょ?
お兄さん愛の国だしね、可愛いお姫様のためなら、頑張っちゃうよ?」
「おん、それにどっちにしろ目的地一緒やん。ここで分かれてもどこかで会う気ぃするしな」

「じゃ、そういうことで、街戻って支度しよ」
と、最終的にはフランスがそう締めて立ち上がった。


ちらりと視線を向けると、少女に走り寄るプロイセンとぎゅっと心細げにプロイセンに抱きつく少女。
その腕の中でホッとしたように肩の力を抜くのがわかった。
信頼しきっている…そんな感じだ。

微笑ましいはずの光景…
しかしちくり…と胸が痛む。
たまたま出くわしたのがプロイセンだっただけで、スペインだってそういう場に居合わせたら絶対に助けていた。
そうしたらああやって頼られていたのは自分だったのに……

…ぷーちゃん、全然不憫ちゃうやん

ぷくりと頬をふくらませて足元の小石を蹴ると、同じ事を考えていたのだろうか。
隣でフランスが
「プーちゃん…不憫不憫言われるけど、実は全然不憫じゃないよね…」
とため息をついた。

こうして若干微妙な空気を出しつつも、悪友3人が揃ったわけである。

「ま、誰がトドメ刺すにしろ、魔王を倒すのは俺達だね」
と、気を取り直したように言うフランスの言葉には全くの同意で、スペインはそれに対しては
「そうやね」
と頷いておいた。




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