整った顔立ちにきっちりと筋肉のついた均整のとれた体躯。
そして銀の鎖帷子の上に十字章の刺繍の入ったサーコート。
プロイセンは正直カッコいいと思う。
同性のイギリスから見てもカッコいい。
現代になっておちゃらけた態度しか取らなくて、自分で『俺様ことりのようにかっこいいぜ~!』とかふざけた事ばかり言うので見落としがちだが、実際プロイセンはイケメンだ。
この世界に来てから本当にか弱い姫君に仕える騎士のごとく優しく頼もしい態度を崩さないプロイセンに、イギリスはそれを再認識する事になった。
そしてそう思うのはここではイギリスだけではないらしい。
宿屋の主人や常連客に惜しまれながらも魔王の城を目指して旅に出た2人は、当初次の街までたまたま一緒になった3人組のパーティーと一緒に行動する事になった。
戦士とモンク、それにシーフの女性3人組のパーティで、男性はプロイセン1人。
そしてまず冒険者の間では強い男がモテる。
そう言う意味ではプロイセンはなまじ長い期間戦闘国家をやってきた事もあり、そんじょそこらの冒険者ではとうてい太刀打ちできないくらいの剣技を身に着けていた。
さらに目の覚めるような美形で、しかもそれを鼻にかけない親しみやすさときたら、モテない方がおかしい。
シーフの女性はそれでも少しイギリスに気を使ってくれはしたが、プロイセンの横に立って戦う戦士とモンクはイギリスの体力のなさに露骨に嫌な顔をしたし、そんな足手まといを連れた彼が可哀想だとさえ言われた。
確かにその通りだ…と思う。
幼い頃は野生児とは言われたが、やっている事は実兄達など自分に危害を加える相手からジッと身を潜める事で、戦い方はと言うと物陰から弓を撃つという形だったし、どちらかというと権謀術数で相手を弱らせた上でトドメを刺すタイプだった。
そのため、考えてみればひたすら重い武器を振り回し続けたりという経験はあまりないし、攻撃の精度は高いもののこれと言って他より腕力や体力があったわけではない。
それに加えておそらくヒーラーと言う事で体力の限界値が低くなっているのか、シーフの女性よりもまだ体力がない気がする。
身体は確かに13歳くらいと幼いことはあるが女装はしていても一応男の体なのに、プロイセンどころか女性達にすら付いていけない。
情けなさに涙が出た。
「お姫さん、足辛そうだな。
俺様背負ってやるよ」
と言ってイギリスの前にしゃがむプロイセンに、女戦士が
「はぁ?ギル、あの子甘やかしすぎよっ!
戦闘でも役に立たずなのに移動さえまともに出来ないで、主戦力のギルの体力を無駄に使わせるなんてありえないっ!」
と眉を吊り上げる。
本当にその通り過ぎてもう居たたまれない気分になって俯いたまま身をすくめるイギリス。
しかし、いきなり頭の上で
――ふざけんなっ!!!!
「俺様はお姫さんの騎士でアリスは俺の大切な姫だっ!
俺様が戦うのはお姫さんのためなんだから、お姫さんは俺の後ろにいる事で十分意味があんだよっ!
それを役立たずだぁ?!
そんなふざけた事言う輩と一緒にはいけねえっ!
パーティー解消だなっ!」
本当に…酷く激昂した様子でそう言い切ると、プロイセンは有無を言わさずイギリスの膝裏に手をいれて、その身体を軽々横抱きにした。
「ちょ、ギル、言い過ぎたわっ!ちょっと言い過ぎたから…」
と、慌てて止める女戦士。
だがプロイセンは考えを撤回する気はないらしい。
「言い過ぎってのは、言うべき方向性の事を言う時に、その加減を間違った時に言う言葉で、てめえのは違うだろっ!失言ってやつだ。
でもって…俺様は俺様に対しての誹謗中傷ならその後にでも撤回されれば鉾をおさめる気はあるが、お姫さんに関しては一切許す気はねえ!
切り殺されないうちにさっさと消えやがれっ!!」
と、そのまま彼女達を置いて、本来行く予定だった街とは別のルートになる街の方へと歩き始めた。
彼女達はあまりにあっけなく分かたれる道にポカンとして、次にギロリとイギリスを睨みつけるが、そんな視線からイギリスを守るようにプロイセンはしっかりとその身体を腕の中に抱え込んで
「雑魚相手だと怪我もしねえけどな、これからは強い敵も相手にする事になるからな。
そうしたらヒーラーなしじゃ戦えねえんだから、気にすんな」
と、微笑んだ。
「…ごめん……」
もう情けなくて涙が出てくる。
それでも魔王の間の扉は2人一緒でないと開かない以上、自分なんて置いて行ってくれと言えないのが辛い。
そんなイギリスに、
「俺の方こそ嫌な思いさせてごめんな?」
と自分の方は欠片も悪くないのに謝ってくるプロイセンに、申し訳なさがさらに募る。
2人分の荷物を肩にかけた上でイギリスを抱き上げて歩くプロイセンに、さすがに降ろしてくれと言ったのだが、
「ん~、鍛練代わりに丁度良いしなっ。
もう少しこのままな」
と、にこやかに言われて、結局降ろしてもらえたのは次の街の宿屋についてからである。
最初の街の猫の耳亭と違ってこちらはなんだか治安が悪そうな感じで、しかし街の外で野宿よりは良いかと、念のため部屋を一部屋取って2人で一緒に使う事にした。
治安がよろしくないだけに、宿屋の部屋のドアは非常にしっかりしたもので、がっしりとしたそのドアをしっかり閉めて中から鍵をかけると、イギリスはリビングを抜けた先にある寝室のベッドにダイブして、ポイッとヒールを脱ぎ捨てた。
足が本気で痛い。
身体全体も疲れた…。
そしてメンタルも……クタクタだ。
でも荷物を全部持った挙句に自分を抱えて歩き続けたプロイセンはもっと疲れているだろうに、なんと携帯食料を駆使して軽食を作って
「お疲れさん。お姫さん、無理させてごめんな?疲れただろ。
ほら、飯食って今日はもう休めよ」
と、持ってきてくれる。
もう本当に…本当に申し訳なさと情けなさで涙が止まらない。
ひっくひっくと泣きながら、それでもせっかく用意してくれたのだからとそれを食べるイギリスの背を、プロイセンはずっと宥めるようにさすってくれさえするのである。
こうして食事が終わると勧められるまま湯を浴びてすっきりして、同じくさっと湯を浴びたプロイセンがいつものように髪を乾かしてくれた。
普段だとそのまま寝るところだが、今日はあまりに泣きすぎたのでさすがに少し気恥ずかしくて
「なんかデスクワークばかりしてて本当に身体がなまってたんだな。
ちょっと歩いただけなのに筋肉痛になりそうだ」
と、こぼしたのがまずかった。
「そりゃ大変だな。
よし、俺様マッサージしてやるよっ」
もうそれは好意で…というのはわかるのだが、色々やめてくれと思う。
それでなくても貧弱なのに若返ってさらに貧弱になった身体を若干細身ではあるがしっかりと羨ましいほどに筋肉が付いた男らしい体躯のプロイセンに見られるとか、なんの羞恥プレイだと思う。
それに…身体の固さには自信があるので、そのプロイセンのマッサージと言うのも痛そうで怖い。
「いや…良いから…」
と言うも、遠慮せずにと言われて軽々とベッドに寝かされて、イギリスは羞恥と恐怖に悲鳴をあげたのだった。
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