最初の街を出て次の街を目指す間、たまたま向かう先が同じだという3人パーティと行動を共にすることにした。
これが失敗だった。
前衛だけの3人パーティにプラス自分とヒーラーのイギリス。
普段は雑魚を狩るだけなら怪我もしないのでイギリスには普通に休んでもらっている。
移動も若返ったからかヒーラーだからか体力が若干ないイギリスに合わせて無理のないように。
まあ敵が強くなってくればヒーラーなしでの戦闘など無理だし参戦してもらわねばならないのだが、今のイギリスの立ち位置はお姫様。
プロイセンは騎士である。
他の国に会った時の事を考えると、それは絶対に崩せない。
どこでだれと繋がっているかわからないし、人の目がある所ではそれは絶対だ。
決してプロイセンの娯楽のためではない………いや、ちょっとは娯楽かもしれないが、娯楽だけのためではない。
しかしながらそんなプロイセンの態度にメンバーの1人、戦士があろうことかプロイセンのお守りすべき姫君に対して役立たずと暴言を吐いた。
これは騎士として断じて許すことはできないものである。
…というわけで、即暴言に対する怒りと共に別れの言葉を投げつけて、そこからは3人と向かうはずだった当初の予定の街と違うルートで向かう事にして、この街に来た。
若干…というか、かなり最初の街と違って治安が悪そうなそこの、冒険者が集う宿で休むことにして、一息ついて、イギリスがぽつりとつぶやいた
『なんかデスクワークばかりしてて本当に身体がなまってたんだな。
ちょっと歩いただけなのに筋肉痛になりそうだ』
の言葉に猛省する。
本当は今のイギリスにとってはちょっとじゃないのだろう。
かなり疲れた様子だ。
ということで少しでも疲労が取れれば…と、マッサージを申し出たら思い切り拒否られた。
しかし遠慮しているのかと半ば強引にベッドに寝かせると、恥ずかしいから嫌だと半泣きに…。
正直…かなり来た…
なんかこう…本当に深窓の令嬢に悪い事をしようとしている気に…。
でも壁も薄い部屋の事、自分でもそう思うのだから他に聞かれたら助けが飛んできかねない。
だから仕方なく
「あの…な、一応令嬢って事になってるから、ここ壁も薄いしあまり大声でそういう発言してそれを他に聞かれると、俺様強姦魔として捕まりそうな気がするんだけど……」
と、小声で言うと、イギリスは、あ…と口を押さえた。
そこでプロイセンは言う。
ちょっと興奮してしまった自分にも言い聞かせるように……
「そもそも、男同士なんだし、何がどう恥ずかしいんだよ…」
いや、自分もなんか変に気恥かしい気分になってしまっているので、それは半分自問自答ではあったのだが…
するとイギリスは、だって…と視線を反らすと
――体格…良くないから。どうせ貧弱だし……
と、恥ずかしそうに言う。
画像提供:白夜さん |
自分で自分を抱え込むように手を回してそれを言うのはやめてくれ…と正直思う。
それでなくても万が一誰かに見られても良いようにと、寝る時も可愛らしいベビードール姿なわけで…しかも線が細いので本当に体格のよろしくない…もっと言うなら貧乳の少女に見えなくもない…というか、もうハッキリ言えば見えてしまうわけで……
「べ、別に筋肉ほぐすだけだし、体格は関係ねえと思うけど?
ここには長居はしねえし、出発時に筋肉痛引きずってたら辛いだろ」
と、つられて自分も少し目を反らしながら主張すると、イギリスは少し息を飲んで、それから
「…痛くしたら怒るから…」
と、どうやらプロイセン式の諸々を叩きこまれてプロイセンがやるものはなんでも厳しく辛いものと言う認識を持った元弟に何か吹き込まれているのか、そう言って諦めたように身体の力を抜いて横たわる。
「…そんじょそこらの相手にすんならとにかく、俺様、お姫さんの護衛なんだからな。
優しくするに決まってんじゃねえか。守るべき相手に乱暴になんかするわけねえだろ。
むしろ気持ち良すぎて癖になんぞ」
なにしろ元病院だ。
もちろん一時的に痛みがあっても…というやり方も出来るが、とにかく痛みを与えないやり方だって当然出来る。
病人や怪我人のケアはお手のものだ。
別に同性だから必要ないと言えば必要ないのだが、それでも一応見えないようにと薄いシーツを一枚上にかけて、その上からプロイセンはゆっくりとマッサージを施して行った。
……のが悪かったらしい。
我ながら素晴らしいマッサージ技術…は良いのだが、すっかりリラックスしたイギリスの
…んっ…んぅ…そこ…気持ち…い……
とかの感じいった声…
まだ声代わり前の高く細い声で…あ~…いぃっ……とか言うのやめてくれ!!!
とプロイセンは泣きそうになった。
やばい…俺様の俺様がさきっちょから涙零しそうだ…と、脳内で下賤にちゃかしながら必死に耐え、リラックスしすぎて眠ってしまったイギリスの横で、とても後ろめたい気分で自分で困った状態になった自分の息子の処理をした。
なんというか…イギリス相手にこんな風になってこんなことをする事になるとは思ってもみなかった…。
処理が終わって手を洗って、はぁ~っと脱力しながらベッドの端に腰をかけ、プロイセンは何も知らずにすやすや眠る少し若返って壮絶美少女に早変わりしたイギリスの頭を軽く撫でる。
太い眉毛がない…それだけでイギリスという気はしないのだが、よくよく見るとその他は本当にイギリスで、これ…現実に戻ったら本当に今までのようにイギリスに接する事ができるのか?とプロイセンはがっくりと思う。
正直…最初は姫君を守る騎士と言うのを楽しんでいたのだが、今は愛しい姫を守る騎士…と、少し最初の範囲を逸脱してきている気がしてやばい。
そのうち姫が相手に、騎士が男にと変わってしまったらどうしよう……
――勘弁してくれよ、大英帝国の本気を出しすぎだろうよ……
人知れず漏れるプロイセンの呟きは、冒険者の安宿の部屋の中へと吸い込まれて行った。
そして眠れぬ夜が過ぎ、そのまま朝に…。
とりあえずここに長居をする理由はないしイギリスも一晩寝てすっかり疲れが取れた様子だったので、もうこの街を発つことにして、プロイセンは荷物をまとめて会計をすますことに。
イギリスを待合室の椅子に座らせておいて、自分だけ会計カウンターへ行くと、周りの視線が何か意味ありげで不思議に思ったが、会計を済ませて釣りを受け取る時に宿屋の主人ににやりと言われた。
――ゆうべはお楽しみでしたね
ちっちげえよぉおおーーー!!!!
それか、周りの視線はそれだったのかっ。
某国で大ヒットを記録したゲーム内の宿屋で言われる台詞をそのまま言われる日が来るとは思ってもみなかった。
もしかしてあれか?
あのゲームでも実は主人公は一緒に連れ歩いたお姫様が疲れているだろうとマッサージをしてやったとかいう裏設定があったりするのかっ?!
確かにそう思われても仕方ない色っぽい声ではあったが…そんな美味しい事何もねえっ!!と思いつつ隣室に。
…へ?
イギリスがいない。
一瞬トイレか?と思ったものの、倒れている椅子の横の床に放り出されたお気に入りのぬいぐるみを見て、事態を悟った。
「おやじっ!!連れが攫われたっ!!ちょっと荷物とこいつ預かってくれっ!!」
そう言って拾ったヌイグルミと荷物をドン!!とカウンターに置くと、プロイセンは外に飛び出した。
まずい、色々な意味でまずい!!!
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