エピローグ
目の前は真っ白だ。
様々な記憶が交差してそれが一箇所に集まると、自分の中で一つになる。
ストン!と何か記憶が頭の中に落ちてきたような感覚のあと、周りの煙が晴れた。
「おはよう、坊ちゃん。」
目の前には魔神…もといフランスの顔。
「…あれ?俺……」
見覚えのある景色…。
いつも泊まるフランスの家の客室のベッドの上だ。
不思議に思って身を起こすと、ズキリと頭が痛む。
「あ~、やっぱり二日酔い?ほら、薬。」
と差し出される薬を水と流し込むと同時に、昨日の記憶が一気に流れ込んできた。
ああ、そう言えば昨日は世界会議だった。
そこで例によってアメリカと喧嘩して…
『だから君は俺だけじゃない、皆に嫌われるんだ!』
なんて、自分でもわかりきっている事を言われて落ち込んで……例によってフランスが誘うからフランスの家で宅飲みをして愚痴って泣いたところまでは覚えてる。
『どうせ俺は嫌われてるよっ!だけど別に好きで嫌われてるわけじゃねえっ!』
なんて喚き散らして……そう、フランスは珍しく
『あのねぇ…坊ちゃん、自分自身が思っているよりあちこちで愛されてるよ?』
『嘘だっ!』
『嘘じゃないって。』
『そんなの想像も出来ねえし有り得ねえ!』
そんな会話をした気がする。
イギリスがぼ~っと記憶の糸をたぐっていると、フランスはクスクスと笑いながら自分の携帯をイギリスに差し出した。
「ほら、見なよ。」
と言う言葉に昨日の夜一気に送られてきたらしいメールを順に開いていく。
――発信者:イタリア――
フランス兄ちゃん、イギリス今日は兄ちゃんの所だよね?
俺ちょっと美味しいお菓子焼いて明日差し入れに行くから食べさせてあげてね。
やっぱりさ、悲しい時には美味しいものだよねぇ。
嫌な事忘れちゃうくらい美味しいの作っていくから、元気づけてあげてね?
――発信者:ロマーノ――
まああれだ…クソガキはスペインに絞めさせておいたから。
ヨーロッパの結束ナメんなってんだよ。
つか、てめえ今日だけはイギリス様に手だすなよな。
セクハラとかしやがったらマフィアけしかけんぞ。
――発信者:プロイセン――
とりあえずこっちはきちんと大人のやり方できちんとケジメはつけておいたから。
お前はお前のやるべきことやれよ?
――発信者:日本――
誠に本日の事を止めることができなかったのは遺憾です。
国としてではなく個人として、誰が世界の仲間から孤立する事になるのか、アメリカさんにもそろそろわかって頂けるよう、他の皆さんとご相談しております。
そうそう…弱っているトコロにつけこみルートも美味しいところではありますが、くれぐれも無理強いはなさいませんよう。
もし私の大事なイギリスさんを泣かせるような事をされたら、私はショックでR-18世界×仏の薄い本を今度の世界会議で資料と間違って配布してしまうかもしれませんのであしからず。
――発信者:スペイン――
親分、眉毛の事なんてどうでもええんやけどな~、メタボの若造はムカツクし、ロマもムカツクいうから、とりあえず膝カックンしてやってん。
で、まあ本気で怒るのも大人げないさかい
『今度うちの身内にアホなちょっかいかけたらスペインブーツの刑やで☆』
って、一応穏やかに諭したったんやけど、泣かれてしもうた。
笑顔やったんやで?親分。
なのに目吊り上げて怒っとるロマやプーちゃんでもブツブツ文句言うとったのに、親分にだけ泣いとるって、やっぱ、あれかな?感動して改心したんかいな?
そのメールの顔ぶれに、イギリスは、さきほどまでの記憶は…魔法のランプで女の子になって世界を逃げまわったあの経験は本当に夢だったんだろうか…と、首をかしげる。
そんなイギリスにフランスは
「ね?みんな、なんのかんの言って坊ちゃんの事心配してんのよ?」
と、にっこりと頭をなでた。
「…お前も…か?」
「もちろん。お兄さんなんかお前がお得意の『ばかぁ!』って言葉まだ言えなくて『びゃかぁ!』だった頃から見守ってんだからね。
あとからどれだけの国と出会って、大切に想って、大切に想われても、最終的にお前が帰ってくる場所はお兄さんの所だって自負してるよ?」
「…きめえ」
「ええっ?!なに?何この子っ?!今お兄さんすっごく良いこと言ったんだけどっ?!!」
「そんなことどうでもいいから、腹減ったし喉乾いた」
「あ~、はいはい。お前はそういう子だよ。」
フランスは肩をすくめて、食事を取りに客室を出た。
そして…その足はキッチンの下にある地下室へ。
価値のあるモノから価値のないガラクタまで、色々と保管してあるその隅にある小さな箱。
つい最近出された事を示すように、そこにだけホコリがついていない。
「まあ…いつもだったらアレ見せてもなんやかんやで心配されてるなんて認めないところだけど、今回は100年に1度のとびきりを使った甲斐があったかねぇ…」
――もし坊ちゃんがこういう状況で女の子になって今坊ちゃんに好意を持っている国々に出会ったら、皆どういう行動を取るか、坊ちゃんにそんな夢を見せてあげて――
大切な大切なお兄さんのBebeちゃん。
たくさんの愛を知って愛されている自信を身につけて…それからお兄さんの元へ戻っておいで?
フランスはチュッとその箱に軽く口付けてまた地下室の隅へと丁寧にしまうと、
「さあて、Bebeちゃんがとりあえず他の愛に引っ張られちゃわないように、美味しい食事で餌付けしますかね。」
と、一人つぶやいて、キッチンへと戻っていった。
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