魔王を倒すぞ、もう普憫なんて言わせない!_ヒーラー姫の不安

物理に頼るな…そんなこと言われるまでもなかった。
それでなくても腕力がないところに若返ったせいで、驚くほど力がない。

そう…普段なら貧弱と言われつつも一般人くらいは張り倒す事ができるはずなのだが、こんな…

「お嬢さん、そんなに警戒しないで下さいよ。
少しお話をしたいだけで……」

などとにやけ顔で言ってくる程度の男の手ですら振りほどけないなんて…。


いつもなら使える簡単な魔法も、この世界ではヒーラーを選択してしまったせいか全く使えず途方に暮れる。

もちろんこの世界に飛ばされて何度となくあったこんな苦境は簡単に取り払われるから今があるのだが……


「……その手を切り落とされたくなければ、さっさとその手を放せ…」

と、剣も抜いていないにも関わらず、殺気を放って相手に悲鳴をあげさせて退散させる男。

「目ぇ放して悪かった、お姫さん。
大丈夫だったか?」
と、覗き込んでくるイギリス…もといアリスの騎士。


1人楽しすぎる男と言うくらいだから基本的に誰かといる事はなく1人で行動していたのだろうと思っていたが、それにしては驚くほどエスコートに慣れている。

武器を新調するからと武器屋の主人と話しているわずかな間にイギリスに絡んできた優男に気づいて即撃退。

そしてイギリスの身の安全の確保とメンタルのフォローに努める。

これにイギリスは毎回びっくりさせられる。

プロイセンが護衛慣れしている事もそうだが、イギリス自身が護衛慣れされていないことにも…。


この世界に来て、腕力で解決できず、武器も魔法も使えない。

それがとても心細くて、絡んでくる男達をどうにもできないと自覚するたび、もうこの世の終わりのような気分になる。

だって、今までは自分で自分の身を守れなければ色々が終わってしまっていたのだ。

ああ、もうダメだ、自分は消えるのだ…そんな気分で終わりを覚悟すると、いきなり救いの手が伸びてくる。
それに慣れない。


もう大丈夫なのだ…と理解するまでにすごく時間を要して、その間震えが止まらない。
身を守れない自分が怖い。

絶対に助けに来るのにそれに慣れないし信じられず、足から力が抜けて自力で立てなくなった身体を支えられ、止まらなくなった涙を拭かれて小一時間。

毎回そんな風になるイギリスにプロイセンは呆れもせず
「…ごめんな?もう大丈夫、大丈夫だからな?」
と、抱きしめてくれる。


今日もそんな感じで、プロイセンがイギリスを抱きしめながら

「店主、悪いけどお姫さんが限界だから…」
と言えば、このところ馴染みになった武器屋は

「おう、出来たら猫の耳亭まで届けてやるよ」
と、ニコリと請け負った。


プロイセンはイギリスと違ってこの世界に落ちついて1カ月ですでにあちこちの街の人と交友関係が出来ている。
全然1人楽しいわけじゃないじゃないか…とイギリスは思う。

力があって自分でなんでも出来て1人でやっていけるプロイセンと違って、今の自分はプロイセンがいなくなれば自分の身すら守れないのだ…そう思うとイギリスはちょっとしたことで不安で仕方なくなるのだった。


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