追手らしい追手は来ていない。
念のためイギリスが無事日本入り出来るくらいまで…と、2日ほどフラフラと滞在してみたが、何もない。
おそらく…あれを自力で抜け出そうとするのは男としてはちょっと…なので、アメリカと連絡が取れない事に焦った部下が探しだすまであのままかもしれない。
まあ…やったことのお仕置きとしては自分的には妥当だと思う。
こうして普通にレンタルしていた車を返却して、空港に向かいかけたプロイセンはそこで悩んだ。
一応…救出後は日本に戻る約束をしていたのだが……このままドイツに帰ろうか…。
会ったら…言わずにいられる自信がない…。
――俺様を選べよ――
何度もそう言ってしまいそうになった。
自分が国であった頃なら、間違いなくそのまま二人で逃避行と洒落こんでいたと思う。
過酷な逃亡生活も、そのためのハードな道のりも、時には手に入らなくてロクな食事にありつけないかもしれない事も、二人いればなんの問題もない。
そんな事はイギリスも平気なのはわかっているし、プロイセンも気にしない。
お互いそんなに恵まれた育ち方をしていない二人は、実は生きていくためにはそんなに物を必要としない。
ある物でそれなりに…というのが苦痛にならない、そのあたりのことは似た者同士だ。
しかし…今のプロイセンにはイギリスにとって絶対的に必要なモノが絶望的に欠けていた。
寂しさを感じさせない…永続的に与えてやれる愛情。
亡国でいつ消えてもおかしくない自分は、そのイギリスにとって生きていくのに唯一と言って良いほどの条件を与えてやれないのだ。
今なら…引き返させてやれる…。
自分に依存させないで、周りに目を向けさせれば、イギリスに愛情を注ぎたいという輩は実は大勢いる。
イギリスがそれを切に求めているという事に気づかないだけだ。
腐れ縁と言われつつ長い時をイギリスを見守ってきたフランス…。
イギリスが素直になれる数少ない相手日本…。
フワフワと可愛らしく甘えながらも自分の方も相手を甘やかしてやれるイタリア…。
その兄で実はなにげに真面目な兄気質で、今回イギリスに心を寄せ始めているらしい南イタリア…。
仲が悪く興味がないようでいるスペインだって、愛に飢えた子どものようなところのあるイギリスが本気で頼って甘えてきたら、絶対にほだされてやるだろう。
そのあたりならきっとイギリスを傷つけず、優しく愛してくれる。
そして…みんな未来のある…ずっと一緒にいてやれる国だ。
「未来がねえ俺様を選べなんて…言えねえよな…」
ケセセっと笑ってジーンズのポケットに両手を突っ込んで空を見上げると、そんなプロイセンの心境を代弁するようにポツリポツリと雨が降ってきた。
「ずっと…欲しかったんだもんな。
いっぱい愛情もらって、幸せになれよ。」
幸せになりたい…でもそれは相手の幸せを奪ってまで欲しいものではないはずだ。
俺様は神の騎士だかんな。
神の心、御心に、あわせて愛の行いを……わたしに…出来るなら……
自分が幸せを得られないなら、その分をあわせて幸せに恵まれるように……
――主よ俺の分と二人分の祝福をかの愛しい島国に……アーメン…――
空の雨にうながされるように赤い目からもぽつりぽつりと雫がこぼれたが、そう思う気持ちは本当で、プロイセンの顔には自然と笑みが浮かんでいた。
Before <<< >>> Next
0 件のコメント :
コメントを投稿