重いまぶたを開けると、自分のとは色合いの違う、若干茶色がかったグリーンの瞳がひどくつらそうな様子で自分を見下ろしている。
「…港……に……?」
よく…状況が理解できないままイギリスがそう繰り返すと、ロマーノは泣きそうな顔でうなづいた。
「ごめんな…。お前の体調悪いの気づかなくて…。ホント悪い。
すぐ進路変えるからもう少しだけ我慢してくれ。」
サラリと髪を撫でる手の心地よさにうっとりとしていたイギリスは、そこでハッとした。
「駄目だっ!進路変えるなっ!まだ陸には戻りたくないっ!」
そう…陸には自分の正体を知っているスコットランドやプロイセンもいる。
スコットランドの含みのある言い方は、おそらく自分の本当の姿を知ればロマーノも離れていくのがわかっているからで……実際にそうなるだろうというのはイギリスにも容易に想像できる。
ロマーノには…正体を知られたくない。
もう少しだけこのままで…アリアのままで一緒に時を過ごしたら…優しい想い出だけを抱えてソッと姿を消すつもりだ。
少しだけでいいのだ…自分も確かに愛されて大切に思われたという想い出が欲しい…。
「…でも……」
と、揺れるロマーノに、ズルいと自覚しつつもイギリスは
「…お前と…もう少し二人きりで過ごしたいんだ…」
と、すがった。
「…顔色…すごく悪いぞ?」
と、それでも心配の色を滲ませて言うロマーノに、
「あと2日…いや…1日でもいいから…。」
と泣きつくと、ロマーノは諦めたようだ。
「別に体調悪くなくなったらまた連れてきてやるのに…。
じゃ、1日だけ。明後日にはちゃんと陸に戻って病院行こうな。」
と、ため息をついた。
「じゃ、そういうことで。何か食えそうか?
約束通り美食の国イタリア様が料理の腕ふるってやるよ」
ショボンとしたアリアを前に気持ちを切り替えたのか、ロマーノがそう言って腕まくりをする。
おそらくそのつもりで食材を用意しておいてくれたのだろう。
もうきっとこんな機会は二度とない。
イギリスも無理やり気持ちを切り替えて
「ああ。お腹すいた。楽しみにしてる」
と、微笑んだ。
こうしてロマーノがキッチンへと消えて、改めて考えてみる。
あと1日…そうたったの1日なのだから無駄にはできない。
愛された想い出…となればやはりそういう事が一番で……
(…でも女の武器なんて使った事ねえしな……)
イギリスはため息をついた。
寝かされているベッドからソッと抜けだして、姿見の前に立ってみる。
醜くはない。
まあ美少女と言えなくはないと思う。
だが男の頃も貧弱貧弱と馬鹿にされていたように、女になっても肉感的な美女とは言いがたい。
有り体に言えば…ほっそりと華奢すぎて色っぽさが足りない気がする。
ラテンの色っぽい女達に囲まれて育ったラテン男のロマーノがこんなんでその気になってくれるだろうか……。
こんなことなら隣国を脅して媚薬の一つでも入手しておけば良かったと、イギリスは真剣に考えた。
でももう今からでは間に合わない。
後には引けない。
今日が最初で最後のチャンスなのだ!
絶対に…ものにするっ!
イギリスはそう心に誓って一人部屋でこぶしを握りしめた。
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