「ベルリッツ、今日もお前、俺を起こしにきてくれたのか?」
くすぐったさに笑いながらイギリスが身を起こしてその頭をなでると、その犬はブンブンと嬉しそうに尾を振った。
イギリスにしては数少ないプライベートで行き来のあるプロイセンの家には3匹の犬がいて、何度か顔をあわせている。
そしてこのプロイセンの同居者は姿形が変わっても、イギリスをイギリスと認知してくれているらしい。
プロイセンの家に泊まった時はしばしばそうであるように、今日も主の命令に従ってイギリスを起こしに来てくれたのだろう。
プロイセンの家に来る時のイギリスは大抵疲れているか落ち込んでいて、朝プロイセンに起こしに来られて顔を合わせるのは若干気まずい事も多いのだが、この、プロイセンの家の忠実な下僕だとそういう事もなく、リラックスして朝を迎えられる。
そんな気遣いの元に続けられる習慣…。
フランスの気遣いが相手を感動させる洗練された演劇のようなものだとしたら、プロイセンの気遣いはあくまで相手に気遣わせないためのさりげないものだ。
どちらも嫌いではないが、滅入ったり落ち込んだり疲れたりしている時はプロイセン式の方がイギリスにはいい。
下着も着替えも全てイタリアとのショッピングで数枚買い込んであったのだが、何故か用意されているトレーニングウェア。
ランニングにでも付き合えということなのだろうか…。
一応それに着替えてダイニングに行くと、同じくトレーニングウェアを着て朝食の用意をしている家主。
「なあ…なんでトレーニングウェア?」
テーブルに置かれたサラダのレタスを一枚シャリっとかじりながら聞けば、
「あ~?とりあえず今のうちに身体動かしておかねえとな。」
と、プロイセンは相変わらず意味ありげなニヤニヤした笑みを浮かべる。
「今のうち?」
イギリスが首をかしげると、プロイセンは
「ああ、夕方には移動すっぞ。とりあえずお前の望み叶えるには最適な場所に送ってやっから、それで自覚して…それでも俺を選ぶなら戻ってこい。」
と、苦い笑いを浮かべた。
「意味わかんねえ…でも俺はここにいたら迷惑ってことか?」
好かれたいという望みを叶えるためには別の場所に行けということは…自分にはそれを期待するなということなのか…と、プロイセンの意外な言葉にイギリスがうなだれると、プロイセンはまたくしゃくしゃっとイギリスの頭をなでた。
「俺様の話よく聞けよっ。だから言ってんだろ?
願いがかなった上で俺様を選ぶならって。
ここで俺様がお前を抱え込めばお前は確かに俺様と一緒にいるんだろうけどな…それじゃあ女にまでなった意味ねえだろ?
お前はこれから自分が価値あるって事を確認に行くんだ。
で、まあ他にもお前の事好きだって奴ができても、俺様がことりのようにカッコイイ事を再認識して戻ってくれば、世界一のカップル誕生っつ~わけだ。」
ケセセっと笑うその顔に他意があるようには思えない。
どうやら本気で言ってるらしい。
「ばぁか。」
イギリスがホッとして涙目で俯いたままそう言うと、プロイセンはやっぱり笑って
「ほら、メシ食ったら始めるからな。ちゃっちゃと食うぞ。」
と、イギリスを席にうながした。
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