ドイツに着いてそのままメットを被せられカーディガンの上には革ジャンを羽織らせられてバイクで走る事1時間。
街外れの一軒家。
中に案内されて入ると、さきほどまでいたロマーノの隠れ家とは一転、ちり一つない室内。
プロイセンもいい加減なように見せていて実は几帳面なゲルマン民族だった。
勧められるままソファに座って、出された紅茶に口をつけたところで、正面の一人用のソファに座って長い足を組み、プロイセンは上から見下ろすような角度でイギリスに視線を向けた。
今まで…自分が男の時はこの男のこういうところが気に入っていた。
お互いが傲慢で、決して恵まれた環境でもないのにお互いてっぺんを目指して突っ走った。
なのに今その態度がひどく心細い。
あれだけ自分から逃げて逃げて逃げまくっていたロマーノが思いがけず優しくしてくれてそれに慣れてしまったためなのだろうか…それとも身体が女性体になると感情的にも女性に近くなる?
「…ちなみに…俺は以前に自分を男だって信じてた男女を知ってるが、そいつは自分が男だって信じてた時は身体が女でも無駄に男の性格してやがったから、お前が今自分の性格が女の身体になったからいつもと変わっていると思ってるとしたら、それは間違いだぜ?
そいつは男で国で舐められちゃなんねえっていう、外交上、表面上の仮面を取っ払ったら残る本当の性格ってやつだ。」
混乱してくるくる考えこんでいるイギリスを面白そうな目で見下ろしてそう言うプロイセンに、イギリスの中で何かが決壊した。
「冷静に分析すんなぁっ!ばかぁ!!!」
叫んでポロポロと泣き出すアーサーの頭をプロイセンはくしゃくしゃっと撫で回す。
それは男の時もたまにするプロイセンの癖で…イギリスが女になっても変わらないらしい。
「てめえんことなんざ、いいとこも情けねえとこも俺様はみんな知ってんだから、何もかも今更だろうがよっ。おら、何があったか話してみろ。」
「っせえよ…俺だっててめえの情けねえとこいっぱい知ってんだからなっ」
と、悪態をつきながらも、許容されている事にイギリスはホッとする。
もうこいつに色々隠してもしかたないし、それこそいまさらだろう…。
イギリスはスコットランドがランプを持って訪ねてきたこと、そのランプの精がどことなく隣の腐れ縁に似ていてむかついたこと、それでもそれが1つだけ願いを叶えてくれると言ったから他人から愛される人間になりたいと願った事、そうしたら女にされたこと、魔法が100年とけないらしいことなどを全て話した。
他人に話して改めて考えてみると、魔法に頼らないと他人に嫌われる自分が随分となさけない存在に思えて泣けてきた。
プロイセンは茶化しも励ましもせず、ただ黙って話を聞いていたが、最後に
「愛される人間になりてえ…か。
…どっちかってえと愛される人間より愛されてることに気づく人間になった方がいいんじゃねえか?」
と、溜息混じりにつぶやいたが、ま、いいか、と、自己完結する。
「スコットランドがお前を追ってる理由も天才の俺様にはわかるわけだが…今そいつをお前に言ったところで仕方ねえ。
とりあえず俺様が色々なんとかしてやっから、今日はもう休め。」
お嬢ちゃんは寝る時間だ、と、口元を少し歪めて笑いながら言うその言葉は、決して大きかったり怒鳴ったりはしてないのだが、どことなく逆らえない空気を含んでいる。
まあ俺も疲れてるからで、逆らえないわけじゃないんだからなっと、心の中で言い訳しつつ、イギリスは案内された寝室へ入ると、素直にベッドに身を横たえた。
朝方のスコットランドの来訪から女性に変化したこと…イタリアと逃げたはずが何故か買い物を楽しんで、ロマーノと南イタリアの裏町の隠れ家で掃除洗濯に勤しみ、最後がドイツでプロイセンの家に…。
今日は本当に目まぐるしい一日だった。
うん…でも楽しかった…かもしれない…。
ベッドはふかふかでお日様の香りがした。
ああ…眠い時にこんなベッドで眠れるのは幸せだ。
「…おい…寝れねえようなら……」
カチャリとドアを開けて、少しブランデーを垂らしたホットミルクのマグカップを手に部屋へ入ったプロイセンが見たものは、ベッドの上でお腹いっぱいになった子どものように満足気な笑みを浮かべたまま眠っているイギリスの姿。
「…ったくよ、こっちが心配してきてみたら、これかよ。
お前変なとこで肝座ってるよな。ガキみてえ。」
呆れながらも笑って持ってきたホットミルクを自分で飲んで、それをミニテーブルに置くと、プロイセンはイギリスの毛布をかけなおしてやる。
「Gute Nacht(おやすみ)アルト。」
ポンポンと軽く毛布の上からイギリスを叩くと、プロイセンは電気を消してソッと部屋を出て行った。
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