アーサーと魔法のランプⅥ-兄は所詮妹に弱いもの4

すぐに連絡をつけてやる…と言ったスペインの言葉は本当だった。
普段は何を言ってものったらのったらとゆっくりしているのに、今回に限ってこんなに早く手配しないでも…と、早急にと頼んでおいたくせにロマーノはそんな事を思う。

せめて今日一日くらい二人でゆっくり過ごせるだろうと思っていたのに、夜にはこの南イタリアの空港にプロイセンを迎えに行かせる手筈を整えたというのだ。

アリアはそのスケジュールを聞いて複雑な顔をしている。
少しでももう少し自分と一緒にいたいと思ってくれているのだろうか…。

燦々と降り注ぐ南イタリアの日差しに気持ちよく乾いた薄いカーテンを取り込んで綺麗に拭いたカーテンレールにつければ、もう出発の時間だ。

「また…いつでも戻ってこいよ。今度はもうちょっとマシな状態にしておくから。」
二人して隠れ家のドアを出てそう言うと、アリアは

「散らかってても掃除するから大丈夫。どちらかというとそれよりもカプチーノに合う美味しいお菓子が欲しいな。」
料理はあまり得意じゃないかもだから…と、きまり悪そうに笑う。

あんなに短時間に手際よく掃除洗濯をこなすのに意外ではあるが、そう言えばイギリス様も料理…いや、あれは料理と言うのは食材に失礼だと思うくらいの腕前だった。
イギリス人はそういう人間が多いのだろうか…。

あ~、そうだ。思い出した。
自分が一番怖かったのは実はその食材を食物兵器に変える料理の腕前だった気がする。

でもまあ唯一と言えるほど得意な家事が料理の自分と、唯一と言えるほど苦手な家事が料理のアリア。
やっぱり神様がお互いのためにお互いを用意したかのような存在じゃないか?
「じゃ、今度は美食の国の名にふさわしいとびきりの料理ふるまってやるから。
早く戻ってこいよ。」

そう言ってロマーノは一瞬アリアを抱きしめると、すぐ身体を離して
「じゃ、そういうことで、ちょっとだけ行ってくっか。」
と、アリアの手を取ると、また入り組んだ道を今度は来た時とは逆の方向へと歩き出した。




「……これ……誰だ?」
空港の待ち合わせ場所について見つけた銀髪の男。
それでなくても整ってはいるがキツイ顔立ちなのにご丁寧にサングラスまでしている。
それでもわかる複雑な表情で男がそう言うと、ロマーノの手の中のアリアの手がちょっとだけ強ばって、澄んだペリドットが不安げに揺れた。

「人相わりいところにサングラスまでしてんじゃねえよっ。
あと彼女をこれとか言ってんじゃねえっ!殺すぞっ!」
ゲシっと軽く蹴りあげると、それを避けもせずまともに食らったプロイセンは、いってえ!と飛び上がって

「頼まれて来てんのにひでえだろうよ、お兄さまっ!
そもそもがサングラスもアントーニョの指定だぜ?
俺様の目の色目立つから、そのままやりとりしてたら人目につくかもしれねえって」
と、口を尖らせる。

ああ、なんだろうな…KYのくせに自分が関わるとスペインはとたんに神経が無駄に細やかになるのがすごい…と、ロマーノは半分呆れつつ、でも今回ばかりは気遣いに感謝した。

追われているなんて久しぶりすぎて神経質になっているせいか、今この瞬間も誰かに見張られている気がしてならないのだ。

とにかくなんだかわからないが電話をかけてきた時のスコットランドの勢いだと、捕まったらアリアは何をされるかわからない。
絶対に無事に逃がしてやらねばならない。

「ま、しかたねえ。本当は気が進まねえがてめえにいったん託してやっから、丁重にかくまえよ?あと間違ってもおかしな気起こすな。
アリアに馬鹿な事しやがったら、マフィア引き連れて報復に行ってやるからなっ」

グイッとプロイセンの襟首を掴んでアリアに聞こえないようにロマーノが小声でそう言うと、プロイセンは少し目を見はり、しかしすぐにいつものニヤニヤした笑みを浮かべて
「へ~へ~、わかったよ。まあこのギルベルト様がついているからにはきっちり守ってやっからよ。安心しとけよ。」
と、請け負った。

「んじゃ、あんまこっちに長居しねえほうが良さそうだし、行くぜ?」
と、イギリスに声をかけるプロイセン。
イギリスもうなづいてプロイセンの方へと行きかけるが、そこでロマーノがグイッとそのうでをつかんで引き寄せた。

「待ってっから…。本当に待ってっから、無事戻ってこいよ。」
抱きしめて耳元でそう言うと、ロマーノはすぐ離れて少しつらそうに…それでも笑って手を振った。


こうしてプロイセンと並んで搭乗ゲートをくぐり飛行機へ。
座席について離陸すると、そこで初めてプロイセンは口を開いた。

「詳しい話はあとで聞いてやる。何がしてえかもあとで聞く。
ただ、今この場で一つだけ聞かせろ。」
「……何を?」

「お前は俺様に守って欲しいのか?」
サングラスを外して赤い目でまっすぐイギリスに真剣な視線を送ってくる。

「…うん…って言ったら?」
国の中では比較的親しいものの、今ひとつ心が読めない。
探るようにそう聞くと、その言葉にプロイセンはにやりと笑って言った。

「守ってやるに決まってんだろうが。俺様を誰だと思ってんだ。
騎士団育ちのプロイセン様だぜ?」





2 件のコメント :

  1. プロイセンさんがあまりにも格好よすぎて、ゴロゴロ転がりながら笑いがとまらなくなりました

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    1. カッコいい攻めと可愛い受けを目指しているので、カッコいいと思って頂けたならとても嬉しいです♪
      コメントありがとうございました(=´∇`=)

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