アーサーと魔法のランプⅣ-イタリア男の本気

画像提供:花トマトさん/TwitterID:@asauke_yuka

フロント部分にフリルのついた上品な感じの白いクレープデシンブラウスに淡いピンクのフレアスカート。

全体的に小さなパールを散りばめた、ネックラインと袖口にふわふわとしたフェイクファーのついたカーディガンを身につけた姿は我ながら可愛い。
清楚で上品な愛らしさだ。

「アリア、本当に可愛いよ♪次は靴を見ようか。」

まるでお姫様に対するように恭しくエスコートするイタリア。
アリアというのは、外でイギリスというのは差し障りがあるし、かといって男性名のアーサー・カークランドを使うのも変だろうということでイタリアが付けてくれた女性名だ。

差し出される腕に手を預けて、降り注がれる優しい言葉が耳に心地いい。

女の子の世界というのはこんなに甘やかで優しいものだったのか…。

最初はその扱いに戸惑っていたイギリスも、国という責務を当分兄達が背負うらしいという事で国から離れ、そしてもう女性になった姿を見られてしまったということで、ある種開き直りも合って、今の状況を楽しんでいる。

ファンシーな小物の店に入りたいと主張してみても、可愛らしいパフェやケーキを食べたいとねだってみても、イタリアは馬鹿にすることも呆れる事もなく、

「うん。いいね。そうしようか。」
と、むしろ楽しげに受け入れてくれる。
まるでおとぎ話のお姫様になったみたいに、楽しい。

イタリアが国特権で急遽手に入れてくれたパスポートでイタリア入りし、まず服、靴、アクセサリーと揃えて、カフェで一休み。

イタリアはこだわらない性格なのか女の子の前だともう色々が蚊帳の外になるのか全く事情も聞いて来なかったので、そこでようやく自分が好かれたいと望んだからという事だけ伏せて、単にスコットランドにもらったランプの魔神にいきなり女の子にされてしまって、どうやら100年間は魔法が解けないらしくこのままいるしかないという事だけを話した。

「可愛くていいんじゃないかなぁ♪なんならずっと俺といる?」

あ~んと自分のケーキをひとさし、それをにこやかにイギリスの口に運ぶイタリア。

最初にこの姿を見た時から一切からかいの色もなく、普通に優しい態度のイタリアにすっかり気を許してしまったこともあって、イギリスも普通にそれを口にした。

美食の国のケーキだけあってとても美味しいそれに思わず顔をほころばすと、イタリアが
「アリア、美味しそうに食べるから一緒にいてすごく楽しいよ。」
と、嬉しそうに微笑む。

ああ、でも本当にこのままイタリアといるのも楽しいかもしれない。
戦争という状況下でなければ、イタリアは一緒にいてとても心地よい相手だというのを、イギリスは今更ながら知った。

しかしそこでふと思い出す。

「それも楽しそうだけど…お前の兄貴、俺の事嫌いだし無理だろ。」
イギリスはにこやかなイタリアとは対照的にいつも不機嫌に怒っているような印象の、イタリアの兄の顔を思い浮かべた。

イタリアがこうやって接してくれても、しじゅうああやって迷惑そうな、怯えたような表情をする相手が一緒なのはつらい。

「あ~、戦争中の印象が強いからね~。
でもそれを言うなら、俺だってずっとそれを引きずってイギリスの事怖い奴って思ってたけど、今プライベートで一緒に行動してみたら全然平気だしさ、なんなら慣れるまでイギリスって言わなきゃいいんじゃない?」

と、イタリアはそれに対してラテン民族らしい楽天的な意見を述べた。

「…さすがに気づかれるんじゃないか?」
顔立ちは眉毛以外はイギリスの面影を強く残しているし、と、イギリスは言うが、イタリアは
「こんな可愛いベッラなんだもん、大丈夫だよぉ。」
と、根拠のない事を言いつつヘラヘラと笑った。

お前は女ならなんでもありかもしれないが、兄貴までそうとは限らないだろ…と、イギリスは内心思ったが、そこにタイミングよく

「あ、見つけたぞっ!クソ弟っ!!てめえ、スコットランドに何しやがった?!!」
と、いきなり見知った顔が駆け寄ってきた。




「…スコット…ランド……」

なんでだ?!もうバレたのか?!
その名前を聞いた途端さ~っと顔から血の気が引くイギリス。

あの時点ですでに怒っていたのに、さらに逃げるなと言われて逃げたのだ。
絶対に相当怒っている……。

しかしそこで涙が溢れかけた目元にソッと柔らかい布が充てられた。

「兄ちゃん、怒鳴んないでよっ!アリアが怖がってるじゃないっ!!」

イギリスの目元にハンカチを押し当てたイタリアは、なんと彼にしては珍しく怒った口調で兄に食って掛かった。

『大丈夫だからね…絶対に俺が守るから…』
と、小声でそう囁く言葉に、不覚にもさらに涙が溢れ出してきた。
あのいつものヘタレはどこへ行った?
自分も今本当に別人だと思うが、こいつは完全に別人だ。

「へ?」
そこでロマーノは初めてイギリスの存在に気づいたようだ。

「彼女……」
と、目を向けられて、シマッタ!!とイギリスは慌てて貸してもらったハンカチに顔を埋めた。

しかしその手がイタリアより若干日に焼けたロマーノの手によってソっと外される。

ああ…バレた!
からかわれる…いや、こいつはからかう度胸はないかもしれないが、こいつからスペインあたりに話が行って、あっという間にフランスあたりに伝わって、悪友達でからかいにくるに違いないっ。

恥ずかしさと絶望感で居た堪れない気持ちになって、イギリスは視線を隠すようにうつむいて小さく首を横に振った。

…が、そこでいきなり掴まれた手に柔らかい感触と共にチュっと言うリップ音。

何?何が起きてる??
混乱したまま恐る恐る顔をあげると、少し自分の物とは違う少し茶色がかった緑の瞳と視線があった。

「…驚かせてすまない…。」
いつもの斜に構えた雰囲気は微塵もない。怯えた空気もない。
無駄に優しげで無駄にイケメン…誰だ?こいつ…。

びっくりして瞬きをすると、長い金色のまつげからまた涙の雫が頬を伝った。

「ベッラの前で怒鳴ったりして、驚かせてごめんな?」
イタリアより少しキツイ顔立ちな分、微笑むとイケメン度が高い気がする。


「あのね、すごく複雑な事情があって今は説明出来ないんだけど、アリアは色々あってスコットランドに追われてるの。
だから俺かくまってあげようと思ったんだけど…俺んとこだってバレちゃってる?」

兄がどういう理由であれ今のイギリスを恐れていないという事が確認できたところで、フェリシアーノはボカして欲しいあたりはボカしてそう説明をしてくれた。

それを聞いて、ロマーノは厳しい顔で言う。

「バレるような逃げ方してんじゃねえよ、この馬鹿弟がっ。
てめえが捕まんのは勝手だが、ベッラを危険な目に合わせんなっ。
とりあえず彼女はいったん俺ん家連れてくぞ。
北より南の方が裏に色々あっから隠しやすい。
てめえは一旦ハンガリーにでも連絡取って彼女にアリアに化けてもらって逃げまわって撹乱して時間稼げ。」

「わかったよ、兄ちゃん。」
うなづくイタリア。

……こいつら誰だ?これがあのヘタリア、ヘタレ兄弟なのか?
今の二人を戦時中に連れて行って見せたらドイツが泣いて喜びそうだな…と、イギリスは無駄に男前な様子で作戦をたてるクルン兄弟を見て、呆然と思った。


「というわけで、悪いな、ベッラ。疲れていると思うんだが、もう少し移動させてくれ。」
ニコリとイギリスに向けるロマーノの笑みが何故か凛々しく見える。

「ああ、怖がらせて悪い。
俺はこいつの兄貴で南イタリア、人名はロヴィーノだ。怪しいもんじゃねえ。
これからはこいつに代わって俺があんたのボディガードだ。」

自分の知っているイタリア兄弟とのあまりの違いに硬直していたイギリスの態度を、最初に怒鳴った事に対する怯えと取ったらしい。
少し困ったように眉を寄せて微笑みかけるロマーノ。

普段あまり笑わないが、こうして笑うとフワフワとしたイタリアよりも男っぽい魅力がある。

「さ、行こう。」
細く見えて意外にがっしりとたくましい褐色の手。

ああ…こいつそう言えばローマの……

その手に支えられて立ち上がった瞬間、そんな昔の何の心配も要らず安心して自らをゆだねていた子供時代をふと思い出した。





「もしもし、ハンガリーさん?俺、イタリア・ヴェネチアーノだよ♪
あのね、お願いがあるんだけど…俺のとっても大事な可愛いベッラを守るために協力して欲しいんだ。」

ロマーノがイギリスを連れて南へと向かうのを見送ったあと、イタリアは即ハンガリーにロマーノに話したのと同じ説明をして、協力を仰いだ。

おそらくスコットランドはイタリアと一緒じゃないとわかればまず兄の所を探すだろうし、それを見越して兄はこれからイギリスを託す国を探してくれるだろう。
その国が見つかるまでの時間稼ぎになればいい。

「仕事は…うん、まあ、俺だもん。ちょっとの間くらい皆諦めてくれるよね♪」
楽天的なラテン青年は口笛を吹きながらにっこりつぶやく。

それにしても収穫だ。
イギリスがあんなに可愛かったなんて…。

アメリカやフランス、日本やスコットランドがあれだけ執着する気持ちがようやくわかった。

国を守る…その義務から解き放たれた素のイギリスは可愛いものが好きで花が好きでお菓子が好き。
誰よりも紅茶が上手に入れられて、とても綺麗な刺繍やレース編みができる優しい手を持っている。

ヘタレといわれる自分でさえ守ってあげたくなるような、優しくて傷つきやすい繊細な心の持ち主でちょっと泣き虫。

ああ…可愛いな。
ふわふわと可愛いモノが好きな自分にぴったりな気がする。

自分ならアメリカやフランスのようにからかって嫌な思いをさせたり、スコットランドのように威圧感で怯えさせたりしない。

優しく優しく接して笑顔でいさせてあげられる。

この国をひと通り探して、スコットランドの追手が他国に行ったあとなら、もう探したということでこちらへのタゲは切れるだろうし、戻ってくるように勧めてみようか。

女の子になって少し不安定な心を柔らかく柔らかく100年かけて支えてあげて、終わりに怯える揺らぐ心をレースのリボンで柔らかく包んであげよう。

「早く戻っておいでね、Il mio bella di caro(愛しい恋人)」

チュッと兄がイギリスを連れて行った南の方向へ投げキッスをすると、イタリアは上機嫌でハンガリーと待ち合わせをしている空港へと足を向けた。 





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