スコットランドは自宅に帰ると秘密の地下室へと向かう。
そこで
「ただいま、イングランド」
と、写真や肖像画に向かって声をかけるのが彼の日課だ。
花畑で笑う可愛らしい幼児の肖像画…自宅のバラ園で微笑む写真…ああ…なんて可愛らしい。
こんな風に無邪気な様子で手を伸ばしてくれたら、今ならしっかり抱きしめてやるのに…。
他の二人の弟達に比べればまだまだ細くて少年ぽさの抜けない容姿をしていても、もうイングランドも立派な大人だ。
この頃のように無条件の好意を向けてくれるとは限らない。
たとえ誤解が解けたにしても多少の気まずさと距離は残るだろう。
……寂しい………。
三男の話だと嫌われているわけではないらしい。
向こうは向こうで自分に嫌われていると信じているが、確かにイングランドの方が嫌っているなら何度も矢を射かけられても自分達のほうへと訪ねてきたりはしなかっただろう。
互いの気まずさ…それを払拭できたなら……。
それをランプの魔神に頼むことは可能だ。
しかしそれをイングランドの方も望んでいないとしたら意味は無い。
ならば…いっその事兄弟仲を修復したい旨を告げて、イングランドにランプの精の使用法をゆだねてみたらどうだろうか……。
ああ、それはいい考えだ。
こうしてスコットランドはイングランドに電話を入れてアポを取り、ランプを手にイングランドにむかったのだった。
ランプの魔神はいけ好かない隣国に似た嫌味な感じな優男だったし、そいつが勝手に可愛い末弟の願いと決めつけたのは、【自分(兄さん)との仲を修復したい】ではなく、【皆に嫌われたくない、好かれたい】だったのは、確かにふざけんな!と言いたいところではあるのだが、もうそんな事はどうでも良い。
その願いを叶えると言って可愛い可愛いイングランドに向かって魔神が杖を振ると、イングランドの身体は煙に包まれた。
その姿が煙の中に見えなくなった時、これで何かあったら即フランスを切り刻んでドーヴァーに放り込んで魚の餌にしてくれようと思ったのだが、モワモワと立ち込める煙が少しずつ霧散して中から姿を現したイングランドを見て、スコットランドの頭は一瞬真っ白になった。
まず目を引いたのはぴょんぴょんと飛び跳ねていた短い髪の代わりにサラサラと流れる長い光色の髪。
それでなくても成人男性にしては華奢な身体がさらに二回りほど華奢に小さくなったため、それまで着ていた服はダボダボになっていて、手が袖口に隠れる、いわゆる萌袖になっている。
はっきり言ってしまえば、弟が妹になっていた。
しかも…世の兄達の理想をそのまま体現したかのような、可愛らしくも頼りなさ気な美少女に…。
もちろん全く別人になってしまったわけではない。
白い肌や金色の髪の色合いは男の時のままだし、なによりスコットランドのお気に入りだった大きく丸い新緑色の瞳はそのままだ。
はっきり言って世界で一番可愛い。
断言できる!
これを可愛くないなどという馬鹿な輩がいたならば、妖精に頼んでイボイノシシに変えてやるっ!
しかしこれだけ可愛い妹だ、可愛いのはいいがこのままだと危険だ。
それでなくても国は男性体が多いのに、こんな可愛い妹をバカどもの目に晒したなら何をされるかわからない。
保護しなければっ!!
ランプの魔神の魔法が解けるのは100年後。
少なくともそれまでは妹を他国の目に晒すわけにはいかない。
絶対食われる、襲われる!
とりあえずUKとしての仕事は次男三男に任せることにして、妹は自宅に保護だ!
そう思って連れ帰ろうとした瞬間、気づけばイングランドの家にいたはずのスコットランドは自宅の地下室にいた。
一瞬状況が把握できず、外に出て自国の妖精達に聞くと、どうやら魔神がイングランドを連れ出すのを妨害するためイングランドの妖精を使ったらしい。
小癪なっ!
やっぱりクソヒゲ似の魔神はクソヒゲ並みにいけ好かない野郎だった。
状況を理解したスコットランドは即家の電話の受話器を握るとイングランドに電話をかけ、迎えに行くから絶対に自宅を動くなと伝えて電話を切ると、外に飛び出した。
可愛い可愛い妹に何かしやがったら…どこの誰でもぶっ殺すっ!
戦争?あ゛あ~、上等だっ!!妖精、幽霊、なんでも使ってぶっ潰すっ!!!
こうして再度スコットランドがイングランドの家にたどり着いた時には、何故か家の中はもぬけの殻だった。
どこのどいつだ~~!!!!!
とるものもとりあえず拉致って行ったらしく、テーブルには紅茶と菓子の皿が残されていた。
この菓子は…確かビスコッティ。
イタリアのトスカーナ地方の伝統的な菓子だ……ということは……
「よりによってあのクソジジイの孫かあぁぁあ~~~!!!!!!」
スコットランドは即、イタリアの家へと電話をいれたのだった。
そして哀れにも電話を取ってしまったこちらも弟を持つ兄ロマーノに現役バリバリヤンキーな迫力で物申す。
「おいっ!てめえのクソ弟はどこ行きやがった?!!」
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