アーサーと魔法のランプIII-とある男兄弟の長男の話2

時は流れ21世紀現在…。

情を向けさせないようにと小さな頃に突き放し過ぎたせいか、兄から見ればいまだ幼さの抜けない可愛い末弟は自分達を恐れている。

もちろん国としてはもう争う事もなく、それどころかUKとして一つの国として扱われているが、個人で会うとまるで今度は何をされるんだ?とばかりに緊張される。

兄色の強い長男のスコットランドとしては、次男、三男も可愛くないわけではないが、本音を言えば年の離れた末弟が一番可愛い。
末弟本人にはそんな事、伝える事もできないのだが…。

こうして怯える本人との距離を埋められず数世紀。

スコットランドの家の秘密の地下室は実はコソリと描かせた末弟の肖像画や隠し撮りをした写真で埋め尽くされている。
これが他人だったらちょっとしたストーカーだ。
もちろんっ!スコットランドは兄なのだから、ストーカーではない。
単に弟を心配する少しだけ心配症な兄なだけだ。

ベッドルームにある末弟のところからコッソリ拝借した末弟が長い間抱いて眠っていたティディベアだって、あれだ…UKの代表ともあろうものがボロボロのヌイグルミを抱いて寝るのもなんだから新しいモノを贈ったついでに、古いものがもったいないから持って帰って抱きしめて寝てるだけで、別に可愛い弟の甘い薔薇の香りが染み付いたヌイグルミを抱きしめて寝たいとかそんな理由では断じてないっ!
そんな風に色々をこじらせつつある長兄を心配する三男がまずは自分からと末弟に接触を試みたが、意外にすんなり受け入れられた。

今では三男は末弟の茶飲み仲間くらいには仲良くなっている。

次男は兄弟にそれほど興味がなさそうで、どちらとも付かず離れずの距離で自分的に問題がないらしい。

そんな中で兄弟中実は一番不器用な性格の長男は日々悩みに悩んでいた。



「おい、クソヒゲっ!てめえの身内のせいだろっ!なんとかしやがれっ!!」
こうして悩みに悩んだ挙句に駆け込んだ先は隣国だった。

「え?ええ?なんなの?!」
考えすぎてテンパったスコットランドにいきなりドアを蹴破られ、襟首を掴まれてフランスは目をパチクリする。

「なんなのじゃねえっ!てめえらラテンの祖先のじじいのせいで、こっちはいまだ兄弟仲修正できてねえんだっ!なんとかしねえと呪うぞ!!家中のワインを酢にされてえかっ?!」

「や~め~てぇぇ~~!!!」

もう理不尽な言いがかりはイギリスで慣れていると思ったが、そのお兄さまはイギリスなんて比じゃないほどの理不尽さだった。

なにしろ…事情を聞いてみれば、はるか昔、自分達がいるとローマがイギリスを保護してくれなくなるのではと思いイギリスを敢えて遠ざけていたら、未だに近寄ってもらえないとのこと。
そんなの1000年以上は前の出来事で、フランス本人が関係していることですら無い。

確かに当時はフランスもローマの保護の元で育っていたが、それを言ったらスペインとかだってそうじゃないか…。
それ以前にちゃんとしたその直系の孫がどこぞの長靴型をした半島にいるじゃないか…。

そのことを指摘したら
「てめえはその上、俺らが近づけねえ事を良い事に、善人面して愚弟を構い倒しやがったじゃねえかっ!」
と、首を閉められた。

「ギブギブギブっ!!!」
フランスは慌ててその手から逃げ出して、ゼーハーゼーハー荒い息を整えた。
なんとかしないと…しかも即なんとかしないと殺されるっ!!


「あのさ、昔距離を取った理由と仲直りしたいって言うのを素直に坊ちゃんに話せばいいだけじゃないの?」
本当にそれだけの話だと思うのだが、

「それがうまく出来てたらこんなヒゲくせえ家に来てねえっ!!」
と失礼な返事が返ってくる。

うん…そのお兄さんに対する理不尽な態度と感情表現の下手さはお前らホント兄弟だよ…と、フランスは遠い目をする。

確かにこんな勢いで説明されてもイギリスも信じない以前に恐れをなして話の内容なんて理解できないだろう。

かといって…自分が代わりに説明しても下手すると両方から理不尽な怒りを買いそうだ。

説得力があって…自分並みの素晴らしいコミュニケーション能力があるモノ……

あ~、あれがあったか…。

「ちょっと待って。お兄さん良い物持ってたわ。」

はるか昔、面白いもの好きなローマが、自国のニンフ(妖精)に頼んで作らせたもので、各国をモデルにした擬似魔神を取り憑かせたランプ。

これはフランスに限った事ではなく、当時ローマが身近な数国版を作り、一部アラビアの方にも流れて【◯ラジンと魔法のランプ】なんていうお伽話にも登場したらしいが、数回使うと壊れてしまうため、現存しているのはおそらく、もらってすぐしまい込んだフランスの物くらいだ。

そんな珍しいものではあるし、少し惜しい気もするが仕方ない。
自分の命には換えられない。

フランスは倉庫の片隅に綺麗な布に包んで保管しておいた箱から古いランプを取り出した。

「これね、こすると願いを叶えてくれるランプだから。
例の魔法のランプのお伽噺に出てくるランプの元になったものだよ。
っていっても叶えてくれる願いは1つきり。
一度願いを叶えると100年間は次の魔法は使えないからね。
これにお願いして坊ちゃんの誤解が解けるように事情を説明してもらいなさいな。」

それを渡すとスコットランドはおそらく周りにいるのであろう妖精にそれが本物かどうか尋ねたらしく、本物だという確認を取って持って帰った。

フランス的には単に説明をさせるために使われるものだと思っていて、それがあんな世界を巻き込んだ騒動を引き起こすことになるとは想像だにしていなかった。

テンパると暴走するUK兄弟の性格を誰よりもわかっていたはずだったのにである。

こうして…争いの元はUK長男の手に渡って、世界を混乱の渦へと巻き込んで行くのであった。



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