いや、何も断固として殴り倒すわけじゃなくて、何か気に障る反応をしたらだが……
ランプの精にいきなり女の姿にされた事に対してはイギリスも不思議ファンタジー国家だけあって、早くも立ち直りかけている。
他との兼ね合いがなければ、数日くらいならこの身体で過ごすことも楽しめそうだ。
男なら入りにくい可愛い喫茶店にだって一人でいけるし、ファンシーな小物を手にはしゃいでいても誰にもからかわれない。
世の中、女だけで行く事は許されても男だけで行くと白い目で見られる場所がたくさんある。
そんな場所を満喫するのも手だ。
ああ、行きたい店がたくさんあるかもしれない。
しかしまずは仕事だ。
からかわれようとあざ笑われようと仕事の話は終わらせる。
その後からかいの色があるようなら、頭を殴り倒して記憶喪失にしてやろう。
そんな物騒な事を考えながら玄関のドアを開けたイギリスは、
「買い物に行こう!」
と開口一番そう言われて、ぽか~んと呆けた。
え?ええ??
お前いきなり何言ってんだ?
「お、お前なにを…」
ぽか~んと呆けるイギリスを前に、今日の会談の相手、イタリア・ヴェネチアーノはいつものビクビクした態度はどこへ行った?と問いたくなるような積極的な態度で、
「本当は俺の国で見てあげたいんだけど、今日は時間がないから…」
と、返事も聞かずに手をとって引っ張っていこうとする。
「ちょ、ちょっと待てっ!!お前何しに来てんだっ!!」
身体が女になって筋力と体重が落ちたせいだろうか。
そのままだと引っ張っていかれそうになって、イギリスが慌てて掴まれた手を振りほどくと、
「ヴェ~。」
とイタリアはちょっと困った顔で首をかしげた。
「あのね、俺、ここん家の主人と仕事の話があってきたんだけどね、でもいくら彼でも女の子にこんなひどい格好させてて良いわけじゃないと思うんだ。
だからとりあえず追ってこれない所まで行ったらちゃんと電話入れて謝るから。
俺ね、いつも友達にも怒られ慣れてるから大丈夫だよっ」
と、真面目な顔で説明したあと、最後は安心させるようにニコっと微笑む。
そう言えば…一応公式の場ではないのでオックスシャツに普通のスラックスだが、ついさっき女になったばかりで長くなった袖や裾の部分は折り曲げているだけなので、ひどい格好と言えばひどい格好かもしれない。
イギリスが改めて自分の格好に目を向けて、
「なるほど…」
と、納得すると、イタリアはにこっと人懐っこい笑みを浮かべて
「ね?ちゃんと俺が無理に連れ出したって説明するから大丈夫だよっ。
行こう?」
と、再度イギリスの手を取った。
「いやいや、ちょっと待てっ!」
それに思わずうなづきかけてイギリスはハッとした。
「お前…気づいてないだろ?俺を誰だと思ってんだ。」
と慌てて再度その手を振り払うと、イタリアはまたヴェ~と特徴的な声をあげて、少し考えこむ。
「…そういえばアーサーに似てるね。
あ、ごめんね、ベッラに男性と似てるなんて失礼だよねっ。
イギリス人だからかな?少し雰囲気が似てるけど、もちろん君の方が100倍可愛いよっ。
俺ね、フェリシアーノって言うんだっ。フェリシアーノ・ヴァルガス。
可愛いベッラ、君の名前を聞いてもいいかい?」
すぐ満面の笑みを浮かべてそう言う姿は、とてもいつもイギリスの姿を見ては怯えて泣いて白旗を振る男と同一人物とは思えない。
「…グレートブリテン及び北アイルランド連合王国…略称イギリスだ。」
イギリスが腕組みをしてハ~っとうつむき加減に息を吐き出すと、
「ヴェ?」
と、イタリアは意味を取りかねたように首をかしげる。
「だ~か~ら~イギリスだって言ってるだろっ!
色々あって今女になっちまってるんだけど…」
「えええ~~~~!!!!!」
シビレを切らしてそう言うと、イタリアは心底驚いたように叫び声をあげた。
「ホントに?!本当に“あの”イギリスなのっ?!
なんでそんな可愛くなっちゃったの?!
いつからそうなのっ?!ずっとそうなの?!
これからずっとそのままなのっ?!」
機関銃のように降り注ぐ質問の嵐に、イギリスは
「いいから、とりあえず中に入れっ!!」
と、イタリアの腕を掴んで家の中に引き入れると、玄関のドアを閉めた。
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