コウ達が戻ると拓郎が少し笑みを浮かべる。
「はい。とりあえず遺体周りは怪しい奴がいないか調べてシートをしっかりかけなおしてきました。
で、あとは田端の部屋の状態確認後、誰も入れない様に鍵かけて、念のため空き室も怪しい奴いないか確認後鍵かけておきたいんで、マスターキーをまとめてお借りしていいですか?
あ…でも一応今使用中の客室については問題あるようならキー抜いておいて下さい。」
コウは言うが、拓郎は鍵束をコウにそのまま渡した。
「まあ…碓井君なら悪用はしないと信じてるよ」
「ありがとうございます」
コウはそれを受けとると礼を言って、今度は上へと向かった。
チラリと1Fに目をむけて、湯沢以外誰もきていないのを確認後、全ての部屋を通り越して廊下の一番奥、見晴らし台への階段を上る。
「あ~もしかして見晴し台から島一望して確認とかっすか?島の地形が実は鍵とか…?」
本当に気分は名探偵だな、と、はしゃぐ湯沢にコウは苦笑する。
「いや、単に縄跡調べにいくだけだ。」
言ってコウは見晴し台のドアの鍵を開けた。
「ここで待っててくれ。あまり汚したくない」
と、湯沢をドアの所に残すと、見晴し台をグルッと一回りする。
「やっぱりか…」
コウは確信を持ってつぶやくと、ため息をついた。
大方わかってしまった事件の真相に、コウは絶望的な気分になった。
(親友を…なくすかもしれないな…)
孤独感が押し寄せる。
最初の殺人事件の時…ユートと出会うまでは唯一くらいの友人だと思っていた早川和樹が実は自分をひどく嫌っていて影で自分を陥れようとしていた事を知った時、すごくショックで死にたくなった。
そこでギリギリ死なずにすんで立ち直れたのはユートからの一本の電話だった。
それからは…唯一ではあっても”ただの友人”だった人間の代わりに、唯一の”親友”を手に入れた。
だから今まで本気で孤独を感じたのは裏切りを知ってからユートの電話がくるまでのほんの短い時間だけだったが…これからはかなり長い時間…いや、下手すれば一生その孤独を背負っていくのか…。
「何かわかったんですか?」
少しうなだれて戻るコウに、湯沢が不思議そうな目を向ける。
「ああ、まあ。たぶんほぼわかったと思う。」
「すっげ~!やっぱ頭の出来が違うっすね!」
はしゃぐ湯沢に対してやっぱりコウはうなだれた。
「わかる頭なんて…なけりゃ良かった…。わかる事が幸せなわけじゃない。出来る頭なんて自分を孤独にするだけだ…」
湯沢に言ってもしかたない。
でも少し愚痴ってみたくなった。
「よくわからないっすけど…なんかあったんすか?」
きょとんと自分に目を向ける湯沢の能天気な雰囲気がうらやましい。
馬鹿でもこいつには友人いるんだろうな…と思うとため息が出る。
「田端が犯人じゃない事がわかった。」
「それで滅入るほど田端嫌いっすか。あ~確かにやたらと絡んでたけど…スルーしてるように見えて実はマジむかついてました?」
「いや、田端はどうでもいい。」
コウの言葉に湯沢はますますわからないといった風にぽか~んとコウをみつめた。
「碓井さん…わりっす。俺頭悪すぎて碓井さん考えてる事マジわかんねっす」
「あ~ようはだな、犯人が田端じゃない、お前でも柿本でもないとすると、ユートと仲の良い誰かってことになるわけだ。放っておけば田端だって事になってるのにわざわざ仲の良い奴の罪をあばいたらユートにしたら余計な事しやがってってなるだろ、普通。事が事だけに下手すりゃ縁切られかねん」
「おお~~なるほどっ!頭いっすねっ!」
なんだか…力が抜ける。
ガックリと脱力するコウに
「でもっ」
と、湯沢は口を開いた.
「碓井さんみたいにすごい人だったら近藤ごときに縁切られても全然困らなくないっすか?」
「いや、困るんだが…。というか…俺なんかよりよっぽどすごい奴だぞ、ユートは」
「ええ??!!!!実は近藤ってそんなにすごい奴だったんすかっ?!」
「ああ。まあ俺が今こうして無事生きてんのもユートのおかげだしな。」
「おお~~~~!!すっげ~!!あのヘラヘラ馬鹿みたいなのは実は世を忍ぶ仮の姿だったんすねっ!!」
盛り上がる湯沢を残して、コウは階段を下りた。
とりあえず…次に移る前に気力回復の意味も込めて電話をする。時間も良い時間だろう。
『終わったんですか?それともこれからです?』
「ん、あらかた状況はわかったんだけどな、それをこれから説明しに行く前にちょっと知りたい事があって、姫今家庭教師来てるか?」
『はい、いらしてますよ~隣に。』
来てて普通に電話してていいのかと、自分でかけておいてふとそんな事が頭をよぎるコウ。
「えとな、一つだけ聞いてくれ。自殺した生徒の名前とできればその家族も」
『は~い♪』
しばらく沈黙。聞いているらしい。
『橋本京介さんだそうです。家族はお父様と離婚なさったお母様、お母様と一緒に暮らしていらっしゃるお姉様がいるそうです』
「姉の名前まではわからないよな?」
『はい、そこまでは…』
「ん、わかった。さんきゅ~。ホント色々助かった。ありがとな」
『いえ、頑張って下さいね。私だけは何があってもコウさんの味方ですからねっ♪もしコウさんの周りから誰もいなくなっても、その時は私がコウさんの事独り占めしてあげますから♪』
フロウの言葉に若干幸せな気分で電話を切ると、コウはまた頭を切り替えた。
まあほぼ間違いないだろう。動機ははっきりした。殺害方法も…。
全てがわかったところで、さてどうするか…真実を隠蔽するという選択はない。
問題は…暴く前にユートに言うか言わないかなわけで…
「もしもし、ユート、俺だ。念のためアオイも連れてこっち来れるか?今2Fの廊下。」
結局…それが自分をどん底から救ってくれた親友へのせめてもの誠意だろう。
コウはユートの携帯に電話をかけて呼び出した。
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