「俺ら…疑われてます?」
先に立って歩くコウに湯沢が声をかけた。
それに対してコウは
「いや」
と首を横に振った。
「実は…一番犯人の可能性が低いと思ったのが湯沢と柿本で…湯沢の方が率直なとこ話してくれそうだったから連れ歩く事にした。」
他には言うなよ、と、念を押した上で本音をもらすコウに湯沢は嬉しそうにうなづく。
「もうなんでも聞いて下さいっ!もしかして捕り物っすか?」
良くも悪くもよくしゃべりそうだな…と、その様子に内心ため息をつくコウ。
それでも裏に回る道々話を聞く事にする。
「木村と田端の共通点と、その二人と湯沢と柿本の二人との相違点はなんだ?」
その質問に湯沢は即答。
「木村達は良い塾行っててまあ頭良くて、俺ともっちゃんは馬鹿っす。」
その答えにコウは思わず小さく吹き出した。
「ああ、計西会か。まあ…良い塾行ったからって賢いとも限らんけどな」
「あ~でもあそこ入るのにテストいるしっ。入ってからもテストでクラス分かれるらしいっすよ。
田端一回クラス落ちちゃって親にマジ怒られて、上のクラスの奴を木村と一緒にボコって戻ったくらい厳しいらしいっす。」
何かひっかかった。
「そのボコった相手の名前なんかわからないか?」
コウが聞くと、湯沢は首を振って苦笑した。
「俺はその塾行ってるわけじゃないしっ。あ~でもなんだかそれで相手骨折ったかなんかで、ボコった事バレたらマジヤベ~とか言ってたっすね。でもまあバレる前に相手なんか飛び降りたとかで…」
計西会の自殺…フロウの家庭教師のクラスか…。
あとで確認する事リストとして頭の隅にその事を残しつつ、コウは木村の遺体の場所まで到達した。
ビニールシートを取ってもう一度遺体を確認し、その前で両手を広げてみる。
おそらく…アオイが昨日みたのはこれだろう。
あれは確か…午後11時48分。犯行推定時刻内だ。
これが空を飛んでいた?
コウは上を見上げた。
舞い散る桜吹雪はペンションまで軽く飛ばされているが、ペンション側からこれを落としたところでこんな所まで飛ばされてくるはずはない。
風が強ければ2階建てのペンションの一番上、見晴し台まで桜の花びらは余裕で飛ぶが、この重さの物だ。
逆にあの見晴し台からでも、ものすごい怪力の人間が投げても無理だ。
「これ…魚にみたてた殺人とかなんすかね…。なんかドラマみたいっすね。」
湯沢が気味悪そうに少し離れた場所で遺体に目をやって言った。
(…魚か…)
確かに網の中には無駄に数尾の魚が遺体と一緒に包まれている。
まあドラマとかなら見立て殺人とかよくあるわけだが、実際の殺人なんてそんなドラマティックな物じゃない。
前回の時もバラバラに切り刻んだ衣服が散乱してるなんて奇行とも取れるような状態だったが、実はちゃんと意味があったわけだし…。
とすると、これも?
コウはもう一度遺体をよく見てみる。
…普通に網と魚を使った意味はなんなんだろうか…。
魚に見立てるなら…濡れていてもいいはずだが、遺体は濡れていない。
あのゴムボートだと二人のるのはかなり辛く沈まない様に気をつかうし、むしろ網にいれていて魚に見立ててるなら濡れてても構わないはず。
自分がボートにのりつつ、遺体は湖に放り出した状態で網の端を持ちつつ引っ張って移動した方が楽なのではないだろうか。
遺体を普通に単体で放り出せなかった訳…網と魚…どちらかがフェイクか…
まあ…普通に考えて魚をいれる意味はない。
魚をいれる事によって網に遺体が入っている事を自然に見せているとすると…網にいれる必要があったのは、ひっぱって運ぶ事じゃないとしたら…。
まさかっ?!
コウは遺体がある桜の木を丹念に調べた。
「これかっ!」
桜の木の一点をなぞって急いでシートをかけ直すコウ。
「行くぞ!湯沢!」
きびすを返して小走りに戻るコウを、湯沢は
「何かわかったんすかっ?!」
と、あわてて追いかける。
「まだ周りには何も言うなよ?あくまでここに来たのは現場保存と怪しい奴がいないかの見回りの為だ」
「了解っす!」
もう思い切り嬉しそうな湯沢。
こいつ…大丈夫だろうな?と少しコウは不安になって眉をひそめた。
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