田端は鍵を開けて入ると、
「どこでも探してみやがれ!」
と、少し体をずらして他をうながした。
「全員でぞろぞろもなんだから…碓井君、頼むよ。」
言われてコウは小さく息をつくと、手袋をはめる。
そしてゴムボートレベルの物が入りそうな場所、ベッドの下を確認した後、次にクローゼットを開けた。
「これ…ですか?」
そこにはビニールに入った膨らますタイプのゴムボートが空気を抜いた状態でしまってある。
「あ~、それだよ、それ!君達がくるまでは確かに倉庫にあったんだが…」
と、驚いた声をあげる拓郎。
「え??しらね~ぞ!ざけんなっ!俺らがくる前にここにいれといたんだろっ?!!」
焦る田端だが、
「鞄…入れた時に気付かないはずはないよな?」
と、同じくクローゼットの中にしまってあった鞄を見ていうコウの指摘に、言葉につまった。
「ま…まじ知らないんだっ!ホントだって!」
救いを求めるようにコウにすがりつく田端だが、拓郎はほうきを手に
「碓井君っ!そいつから離れるんだ!」
と、叫んで田端を威嚇する。
コウは田端と拓郎を交互に見比べて、
「まあ…とりあえず俺は平気なんで。こいつは一応二人以上で見張りましょうか」
というが、拓郎は
「そんな必要はないっ!他の子に危害を加えられたら危険だし、とりあえずワイン蔵に放り込もう!
あそこなら外から鍵かけられるからっ!」
と呆然とする田端を引きずって行こうとする。
「ちょ…待って下さい」
止めようとするコウの腕を、今度は真由がつかんだ。
「友達…巻き込んじゃったの私だから。剛だけじゃなくて、これ以上誰か死んじゃったりしたら申し分けなさすぎて生きていけない!」
と、また号泣する真由に困るコウ。
チラリと救いを求めるようにユートに視線を送ると、ユートはやっぱり困った様に由衣にアイコンタクトを送る。
それに気付いて由衣が
「大丈夫、真由のせいじゃないよ。」
と真由の肩を抱いて利香や真希と共に下へと降りて行った。
確かに…鍵のかかった部屋にゴムボートを運び込めるのは部屋の主で鍵を持っている田端かマスターキーを持っている拓郎。
しかしもし木村の遺体をゴムボートで運んだとすればボートを使用したのは木村の死後になるから早くても11時すぎ。その時刻から朝食までは田端が部屋にいた。
その後から今までは拓郎は2Fに上がっていない。
では姪の真由が朝にといっても真由は真由でずっと利香達と一緒だったためそんな事をできる時間はなかった。
状況的には確かにボートをクローゼットに隠せたのは田端だけという事になる…。
ということは…遺体を運べたのも田端だけなわけで…。
コウはため息をついた。
正直…田端は犯人ではないんだろうと思う。
犯人ならあんなに堂々と犯罪に使ったであろう道具の隠し場所を見せないだろうし…。
柿本や湯沢はそこまでの犯罪を犯す理由も頭脳も度胸もない気がする。
とすると必然的に残るは…真由を心配するその他の面々なわけで…
もしくは真由自身か…。
謎を解くべきなんだろうか…解いてしまえばそれを黙認する事は当然できなくなる。
犯罪と確定したものを見逃す事はできない。
やめるならいまだ。
コウが下に降りて行くと全員が不安げな顔で田端が閉じ込められているワイン蔵があるキッチンの方へと視線を向けている。
「コウ…どうした?」
なんだか様子がおかしい気がするコウをユートが見上げて聞いた。
もし…犯人が田端を含む空手部3人組じゃないと言ったら、ユートはどうするだろうか…
自分に取ってはほぼ初対面でもユートにとってはずっと親しくしてきた友人とその伯父だ。
既存の、ユートにとって大切にしてきた友人関係を不必要に自分が壊したとしても、この気の良い親友は自分を親友と呼んでくれるだろうか…。
「自分でも…わからん。ただ言えるのは…真実が正義じゃない場合もあるのかもって事だな…」
ため息をついて口にするコウの言葉に、ユートは首をかしげた。
(…姫に…会いたいな…)
たぶんどんな事があっても自分を受け入れてくれるであろう最愛の彼女の可愛らしい顔が脳裏を横切る。
彼女がこの場にいてくれたら…自分は躊躇う事なく動けるだろうに…。
「碓井君…ため息ついてどうしたの?」
降りてくるなり沈み込むコウに由衣も声をかけてきた。
誰が犯人かわからない…本当の事は言えない。
でも嘘が巧くないと自覚のあるコウは、
「いや…彼女に会いたいなと…」
と、一部本当の事を言う。
「あ~今日も帰れないもんね。電話かけたら?」
アオイが言うのに、ああ、電話があったか…声だけでも、と思い立った。
「だな。今日戻るって言ってあるから訂正しておかないと…」
と、コウは携帯をかけた。
『もしもし?コウさん、ファイトですよ♪』
つながるなりいきなりの言葉。
「姫…ずいぶん唐突だな…」
驚いて言うコウに電話の向こうでフロウがフフっと笑う。
『なんとなく…ね。また暗~く悩んでる気がして、コウさん』
相変わらずのフロウの勘の良さに舌を巻くコウ。
「あ~、お見通しか。うん、悩んでるな。姫、一つだけ教えてくれ」
『はい、なんでしょう?』
「真実は…正義か?」
まあ…普通はそんな事を言われても戸惑うだけだろうが、フロウは悩む事もなくきっぱりと言い切った。
『難しい事はわかりませんけど…コウさんが信念を持ってやるべきだと思う事を成し遂げようとするなら私は全力で応援しますし、そんなコウさんの事が私は世界で一番大好きです♪…ってことじゃダメです?』
全く迷いもなく前向きなフロウらしい言い方だ。
「いや…最高の答えだな…。姫…結構辛い作業になりそうなんだけど頑張ってくるから…例の頼む…」
ふっきれた気がする。
コウは決意をあらたに、さらにふっきるためにフロウに言った。
『はい♪信念に基づき問題を解決して下さい。でないと…』
そしていつものフロウの台詞…
『針千本です♪』
「さんきゅ…頑張ってくる。」
電話を切るコウにみんなが注目。
「ね、今ので明日戻るって伝わるの?」
フロウの返答は聞こえないものの、コウの台詞にそぼ~くな疑問を述べる由衣。
「ん~~伝わってるかも、フロウちゃんだし。」
と、それに対して微妙な答えを返すアオイ。
「もしかして…すっごい以心伝心?」
「うんっ。すごい勘がいいんだよ、彼女は」
「すごいねっ、さすが碓井君の彼女だねっ」
と、変な所で盛り上がりを見せる二人をよそに、コウは一同をグルリと見回して考え込んだ。
そして言う。
「湯沢…手伝ってもらえるか?」
指名されて微妙に嬉しそうに立ち上がる湯沢。
「はいっ!なんでもやるっす!」
そんなコウの態度にユートは複雑な表情をうかべた。
「なにやるん?俺じゃダメなの?」
「ん~、とりあえず警察に引き渡すのになるべくいい状態でっていうのもあるし、ある程度現状で残すものと残さないでいいものの取捨もしないと今日寝食に困るだろ?で、ちょっとみまわってきたいんだが…念のためな、護衛も残したいから。
田端が絶対に犯人か、犯人だったら本当に単独犯なのかも断定できんだろ。
女性陣に絶対的に危害加えないだろうあたりでは拓郎さんがいるけど、有事の連絡係も必要だから」
ユートに初めて嘘をついた…。
見抜かれないかとドキドキしたが、
「あ~そうだな。確かに。」
とあっさり信じてくれて、ホッとするとともに心がひどく痛んだ。
それでもやると決めたのだ。フロウに後押ししてもらったのだ、できるはず。
コウは無理矢理そう自分を奮い立たせると、拓郎に目をむけた。
「ということなので申し分けないです。女性陣の安全のためにも確認が終わって戻るまで絶対にここで待っていて下さい。ユートは護身術とかやってるわけではないので…何かあった場合は拓郎さんはここを動かず女性陣の護衛でユートの方を俺の方へ走らせるという形でお願いします。」
「ああ、わかったよ。気をつけて。」
笑顔でうなづく拓郎。
とりあえず犯人の最有力候補の田端は拘束済みで、外からは玄関からすぐのこのリビングを通り抜けないと奥へ行けないという事もあって、とりあえず跳ね橋はおろしてもらう。
「では行ってきます。」
コウは湯沢を連れて外に出た。
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