戻るなりまず聞くコウに、拓郎は少し厳しい顔で言う。
「実は…沖の方が今濃霧らしくて…海もあれてるし、明日くらいになるらしい。」
その言葉にざわめく一同。
そんな中でコウとユートだけが内心
(あ~、またこのパターンかっ)
などと思っている。
「ということで…君の身元というか…教えてもらえないかな?普通の高校生にしてはあまりに…」
全員に温かい紅茶をくばりながら、拓郎がまた話題を最初に戻した。
「身元は…本当に普通に言った通りなんですが…」
なんと説明していいやらわからなくてそう口ごもるコウの代わりに、ユートが答えた。
「なんの因果かわからないんですけど、昨年夏の連続高校生殺人事件に始まって、同じく昨年の年末の箱根の山荘で起こった殺人事件…さらにもう一発正月の群馬の温泉宿で起こった殺人事件と3連続で俺ら殺人事件に巻き込まれてまして…。」
ユートの言葉に女性陣からは
「うっそ~~!!」
と驚きの声があがる。
「それでですね、まあその3件の殺人事件のまっただ中で俺らをずっと守りきって事件の真相を暴いて犯人確保したのがこの男なんです、実は。あ~、身元ばらしていい?でないとなんだか皆不安だし」
そこでユートは言葉を切ってコウの許可を仰いだ。
なるべくなら…親は出したくないが、この場合は高校生だしパニック起こされても…だろう。
コウは
「…しかたないな。でもあんまり他で言いふらさない条件で。俺は俺、父親は父親だから」
と、それでも許可を出した。
「なになに?!そんなすごい秘密がっ?!!」
もうこの状態でも好奇心が先に立つらしい。由衣が目を輝かせる。
「えっと…まあここだけの話ってことで。こいつの親は実は警視総監。本人も幼少時から警察関係者に囲まれて育ってて、犯罪の話やら危機管理の話やらを子守唄に日々武道と護身術を叩き込まれながら大きくなったという男なんで…まあ警察がくるまではこいつの言う事きいとくのが一番安全かなぁと…」
「カッコいい~~!!!」
と女性陣が叫ぶのはいつものことで…。
まあコウがそれにちょっと困った顔をするのもいつものことだ。
「なんというか…他の子と随分違う子だなぁとは思ってたが…いやはや驚いたな…。」
拓郎も目を丸くして口を開く。
「いえ、親は親ですし、俺は所詮少しだけ危機管理に詳しいだけのただの高校生ですから。」
コウはそれにも心底困った様に苦笑した。
「ただ…警察に引き渡すまでの現場の管理と警察がくるまでの安全対策についてはある程度指示に従って頂けると助かります。」
「ああ、もちろんだよ。女の子も多いしね。何かあったら大変だ。むしろこちらからお願いするよ。」
コウの言葉に拓郎は了承する。
「一応…殺人犯が中に入ってこれないように跳ね橋はあげておくが…あとは何かする事はあるかい?
なんでも言ってくれ」
「あ、俺も手伝いますっ!もう何でも言って下さいっ!」
湯沢もいきなり立候補する。
「湯沢~、てめっ何いきなり良い子ぶってんだよっ!」
それに田端が表情を険しくした。
「でもさ~湯沢が正しくね?相手殺人犯だし。つかさ、お前やったんじゃねえの?木村と昨日もめてたしさ~」
田端の言葉に今度は柿本が言う。
「ざっけんなっ!てめっ!」
それに激昂して田端が立ち上がってその襟首を掴んだ。
「そもそもそこの名探偵様が言ってただろうがっ!跳ね橋上げるまでは木村も生きてて俺も中いて、跳ね橋かかってからは俺はてめえらと一緒だっただろうがっ!いつ殺るんだよっ!!」
「でも…窓から抜け出せば…」
それまでしゃくりを上げていた真由が顔をあげて田端をにらみつけた。
「馬鹿かってめえはっ!男死んで頭おかしくなったのかよっ!この宿周り水だぞっ?!泳いでわたんのかよっ!よしんば泳いで渡ったとしてもそんなとこまで木村がおびき寄せられてくると思うのかよっ、ば~かっ!!」
田端の言葉にムッとする女性陣。
「…でも…ゴムボート…なくなってたよね」
そこで真由がさらに言うと、
「結構田端の部屋とかにかくしてあったりとかな~。部屋で殺して遺体をゴムボートで運んだとか?」
と、柿本が口笛を吹いた。
「や、やめなよ~」
険悪な雰囲気に止めに入る真希だが
「うるせえっ!」
と、田端が怒鳴って
「そうまで言うなら見に来いよっ!そこの名探偵もなっ!」
と、先に立って階段に向かった。
「一応…変に疑心暗鬼になってもだし、行こうか」
コウの肩をポンと軽く叩いてうながす拓郎に続いて、コウも仕方なく階段を上る。
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