リトルキャッスル殺人事件_オリジナル_8

「ふ~、皿洗いなんて久々にしたよ~」
同じく皿洗いを終えて部屋に戻った由衣とアオイ。
しばらく小学校時代のユートの話など聞いていたが、ふいにアオイはハっとして
「あ…」
と、声をあげた。

「どした?アオイちゃん。」
その声に身を起こす由衣。
「お風呂場にペンダント忘れて来ちゃった。4人でお揃いの。取ってくるね」
アオイがベッドから飛び降りると、由衣がその腕を掴んで言う。
「危ないから碓井君についていってもらお?木村達うろついてるかもだし。」
そして返事をする間もなく由衣はユート達の部屋にアオイを引っ張って行った。

「ペンダントってこれか?」
事情をきいて自分のロケットをチラリと見せるコウにアオイはコクコクうなづく。
「…しかたないな。気をつけろよ。じゃ、ちょっと行ってくるな、ユート」
コウは言って部屋から出る。
「4人お揃いって…アオイちゃんとユートと碓井君と彼女さん?」
道々聞く由衣にコウとアオイがうなづいた。
「コウの彼女のフロウちゃんがね、四葉のクローバーみたいに4人一緒にいる事で幸せが訪れます様にって、すごい長い期間かけて4人分探してくれた四葉のクローバーの押し花入りのロケットなの。」
アオイが説明すると、由衣は目を丸くする。
「すごい発想だね。つかめちゃ時間かかりそう」
「ん~やんごとない子だから、彼女は。」
アオイは言って暖簾のところにコウと由衣を残し、大浴場の脱衣室に入って行く。

浴室の洗い場の洗面器の中に置き忘れたロケットはすぐみつかった。
ホッとしていったんそれを握りしめると、アオイはそれを首からかける。
それから浴室からでようとしてふと外に目をやった途端…ぼんやりと白っぽい大きな塊が何もないはずの中空を漂って行った。
一瞬硬直したするアオイ。

「きゃああああっっ!!!!!」

次の瞬間耳を塞いで叫ぶとその場にへたり込む。

「どうしたっ?!!!」
青くなって即飛び込んでくるコウ。
ガタガタ震えてしゃがみ込んでいるアオイを助け起こした。
「大丈夫かっ?!怪我はっ?!!」
と顔を覗き込もうとするコウにしがみついて、アオイは号泣。
「何があったんだ?!」
というコウにしばらくは首を横に振って泣いていたが、やがて言葉なく外を指差す。

「外?」
コウは目を外に向けるが、見えるのは外から見えないようにするついたてと、綺麗な星空。
由衣は恐る恐る浴室のガラス戸を開けて同じく外を見るが、見えるのはやはりついたてと星空、それからこのペンションの壁くらいだ。
「外に…何があったの?」
戻って来てアオイの肩を抱く様に聞く由衣にアオイはしゃくりをあげながら
「…白い…なんか…おばけ…おばけが浮いてた…」
と言う。
「お化けって…」
ため息をつく由衣。
由衣にしてみたらまあ普通に信じられないわけだが…コウはアオイの背中をポンポンとなだめるように叩くと、
「どのくらいの大きさだ?浮いてたってどんな風に?」
と聞く。
ああ、ホントに兄妹なんだな…と、その、まるで怖い夢を見た小さな子をなだめるようなコウの態度に由衣は思った。
「あのねっ…このくらいのね、…おっきさ」
と、アオイは両腕を広げた。
「ふむ…シーツか何かが落ちたみたいな感じか?」
だいぶ落ち着いて来たらしいアオイの頭を軽くなでつけてコウはさらに聞く。
「…ううん…。なんかス~っと横に移動してた…」
と、アオイは向こうの方を指差した。
そこでコウはチラリと腕時間を確かめる。11時48分…。
「何かの見間違いじゃない?」
中空をそんな大きな物体が浮いてるなんてありえない。
由衣は言うが、コウは二人を浴室の外にうながしながら、
「確かめて来よう」
と、言う。

大浴場を出てそのまま玄関に行きかけて気付く。
「あ、跳ね橋あがってたな。」
と、そのまま1Fで拓郎を探すがいない。
「しかたないな、いったん上に戻るか」
コウが言って二人を連れて階段に向かうと、丁度拓郎が上から降りて来た。
「あ、上にいらしたんですか」
コウがいうと、拓郎は
「ああ、今のうちにちょっと上の空き部屋の掃除にね。オフシーズンでもある程度やっておかないと部屋が傷むしね。」
と、笑顔を見せる。
それにコウも少し笑みをこぼして
「こんな時間まで大変ですね。蜘蛛の巣ついてます」
とハンカチで軽く拓郎の肩先をぬぐう。
「ああ、すまないね。」
とさらに微笑む拓郎にコウはアオイが見た物の話をした。
「あ~…大量に飛んだ桜の花吹雪とかじゃなくて?このペンションの裏に大きな桜の木があるから。今日は風も強いしね。
それとも…幽霊かな?桜は血を吸って花を咲かせるってよく言うしね」
いたずらっぽく笑う拓郎にすくみあがるアオイ。
「ああ、ごめんごめん、冗談だよ。とりあえずこの時間から跳ね橋あげるとあの音で他に迷惑になるからね。
明日調べてみようか。まあ…こんな小さな島で大きな動物も鳥もいないから、何かの見間違いだとは思うけどね」
と、言われるとそれ以上は強くは言えない。
「はい、お願いします。」
と、コウはお辞儀をして、拓郎と分かれると二人を上に促した。

「おかえり。あった?」
アオイ達と分かれてコウが部屋に戻ると、ベッドの上で寝転がってDSをやっていたユートが起き上がって聞く。
「ああ。あったにはあったが…」
「なに?なんかあった?」
「ああ…実は…」
コウは浴室でのアオイの話をした。
聞き終わるとユートはきょとんと首をかしげる。
「それだけ?」
「ああ、それだけだ」
「なんか…見間違えたんじゃね?」
「そう…か?」

動物でも鳥でもない。
桜吹雪なら…飛ぶ方向が逆だ。
コウは考え込む。

「なんだか…胸騒ぎがするな…」
コウの言葉にユートは苦笑。
「去年から色々ありすぎたから…考え過ぎだよ、コウ」
まあコウが心配性なのはいつものこと、と、軽く流すユートだが、コウの不安は消えない。
”あのアオイが”見たのだ。
大抵事件はアオイが変な物を見て始まっている。

「もう寝ちゃえっ。考えてどうなるもんじゃないっしょ」
まだ考え込んでるコウにユートがそうすすめる。
「そうだな…ま、着替えるか。」
コウはバッグの中からパジャマを出すと、上着を脱いだ。
そこでふと気付いて上着から汚れたハンカチを取り出し、洗濯物用の袋に入れようとして、考え込む。
「今度はなに?」
今度はハンカチを手に固まるコウに、ユートが呆れた声できくと、コウはふと我に返って苦笑した。
「いや…考え過ぎだ。寝る」
と、ハンカチを袋に放り込んでパジャマに着替えて、ベッドにもぐりこむ。
寝ておかないと今回はいつ起こされるかわからない。
コウは布団を頭からかぶると無理矢理眠りにつこうと目を閉じた。



Before <<<      >>> Next


0 件のコメント :

コメントを投稿