リトルキャッスル殺人事件_オリジナル_7

「もしもし、姫。家庭教師どうだった?大丈夫か?」
もちろんコウの電話相手は最愛の彼女。
『大丈夫って何がです?』
きょとんとするフロウにコウはため息。
「いや…自殺あった塾の講師って…」
『やだぁ…別に先生が殺したわけじゃないですもん。』
「でも受験ノイローゼとかなんだろ?教え方とかきつかったりしないか?」
コウの言葉にフロウは
『相変わらず心配性ですね~』
と、電話の向こうで笑みをうかべる。

『でも…そういうのと違うみたいですよ~。塾のクラスでいじめですって』
コウ自身は全て参考書で自己学習なので塾には縁がないが、昨今の塾は学校並みなんだなとだけ思う。
『若い女の先生ですし、高校2年の男子とかだともう体格的に大人と変わらないじゃないですか。担当してたクラスで二人の男子が同じクラスの男子に嫌がらせしてたのは気付いてたけど怖くて注意できないうちに自殺しちゃったらしいんです、その嫌がらせ受けてた方が。で、怖かったのもあるし責任も感じてしまって郷里では小学生相手の塾に務めるらしいですよ。』

「塾の講師も大変なんだな…まあ…その講師自体に何か問題があるんじゃなければいい。
ていうか…間違っても姫は塾なんか通わせられないな。どうしてもなら俺も行くしか…」
その言葉に電話の向こうでフロウはやっぱり笑い転げる。
『やだぁ…。学力違いますし同じクラスになんかなれませんよぉ』
「俺の方が合わせればいいだろ」
『それじゃコウさん塾行く意味ないじゃないですか。』
「姫が嫌がらせされてるかもって思ったら勉強なんて手につかん」

『ん~その話は高校2のクラスの7月くらいの話らしいですからねぇ。3年生になったらみんなもう受験勉強に必死でイジメどころじゃないんじゃないですか?それに…私はコウさんに勉強教わってるから塾行く必要ないですし』
そう…コウは自己学習なのだが、自宅学習ではない。
学校が終わるとフロウの家、一条家に直行。そこで彼女に勉強を教えながら自分の勉強をし、一条家で食事、夜中の終電ぎりぎりに自宅に帰る日々だったりするのだ。

親公認…というよりむしろ彼女の親にはほとんど婿扱いをされていて、父親が仕事で帰宅出来ない日は母娘だけでは不用心だからと、父親自らに留守番を頼まれて泊まったりもする。
コウ自身は母は生まれてすぐなくなり、父は仕事が忙しくて帰宅しない家なので、今では彼女の家が自分の実家みたいなものだ。

「貴仁さん帰るまではホント気をつけろよ。戸締まりしっかりな。」
父親の貴仁以外の一条家の住人、娘のフロウと母優香はありえない感覚の持ち主で…しばしば危機管理そっちのけで自分の趣味を貫く人種なので、真剣に怖い。
コウが言うと、電話の向こうでは可愛らしい笑い声。
『ほんっとに心配性ですね、コウさん。大丈夫、今日はパパ早いので、もうそろそろ戻ってきます。』
その言葉にホッとするコウ。
「ならいいけど…明日には帰るから優香さんにもよろしくな。」
と言って電話を切ると、ため息をつく。

「なんか…出張中の旦那みたいだよなっ、今の電話っ」
いつのまにか皿洗いを終えていたらしい。ユートが言っておかしそうに笑った。
まあ…仕事じゃないだけで似た様なものかも知れない。
「皿洗い終わったなら部屋に戻るか。」
と、コウはそれをスルーして上を指差した。



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