リトルキャッスル殺人事件_オリジナル_4

「さあ着いたよ」
雑談をしつつ陸地を離れて2時間。やがてクルーザーが船着き場に止まる。
そこは半径2kmくらいの小さな島で、船着き場から少し奥まった所に直系100mくらいの湖。
その中央にそれはそれは可愛らしいミニチュアの城のような建物がある。

各部屋のバルコニーも可愛ければ、上には見晴し台のような塔に鐘まで着いている。
本当におとぎ話のようなシチュエーションだ。

「うっわ~、可愛い♪」
思わず歓声をあげる女性陣。
城と岸は跳ね橋でつながっていて、岸の方には可愛らしい呼び鈴のついたポールが立っている。
「今…姫連れてくれば良かったとか思ってるっしょ?」
ファンタジーに生きるフロウが好きそうなそのシチュエーションに、ユートはクスクス笑ってコウにささやく。
「もう…それはそれは思ってるんだが…」
と、ため息をつくコウ。
その脳裏にはあのお姫様然とした花のような笑顔がクルクルと浮かんでは消えしている事は言うまでもない。

「一応…防犯の関係上私が18:00にあたりを警備に見回ってその後19:00にはこの跳ね橋はあげてしまうからね。で、翌朝8:00にまた降ろすよ。
夏は海水浴とかもできるから外の倉庫には浮き輪とかゴムボートとか釣り道具とか諸々入ってるけど、今使えそうなのは釣り道具くらいかな。釣りは外に行かなくても部屋から釣り糸垂らせるしね。言ってくれれば餌も提供するよ」
拓郎は一同を中にうながしながら、説明をする。

「ということで部屋割りは女子は由衣と葵ちゃんが同室、あとは私達3人同室ね。
で、男子はユートと碓井君、剛と田端、柿本と湯沢の組み合わせで♪
客室は全部が海の見える方向に面してるから眺めはいいよ♪
鍵はマスター別にしたら各部屋一つだからどちらが持つかは各部屋ごとに決めて。
ドアはオートロックだから鍵を部屋に置いたまま出ちゃわない様に気をつけてね♪」
さらに付け加える真由の言葉に、え?っと思わず由衣を振り返るユート。
視線に気付くと由衣は
「あたりまえっしょ。カップルだけじゃないんだからっ」
とシレっと言い切った。
やられた…と思うものの後の祭りだ。
まあでも今回の事情を考えれば仕方ないかとも思う。

「おい、ガリ勉、さっきの続き…」
広いリビングにとりあえず腰を落ち着けて拓郎が食材の確認へ奥へ消えると、田端がにやりとコウの前に歩を進めた。
それを合図に他の3人も左右と後ろをかこむ。
「ちょっと、やめなさいよっ!」
由衣が言うが
「怪我したくなかったらひっこんでろっ!」
と怒鳴りつけられて身をすくめた。
「私、伯父さん呼んでくるっ!」
と、真由も青くなって走りかけるが、木村に腕を取られ
「お前誰の女なんだよっ」
とすごまれると、同じ様に身をすくめる。

「で?近藤は?お友達に加勢するならしてもいいぜ?」
真由の腕を乱暴に放すと、木村はにやりと今度はユートに目を向けた。
ユートはそれに対して即
「いや、俺頭脳労働者だしっ」
と言ってアオイを少しその集団から遠ざける。
「さすが近藤、ヘタレだなっ」
そのユートの態度に男4人があざけるように笑い、由衣が
「ユート最低っ!!」
と非難の目でユートをにらみつけた。
他の3名の女子も同じくだ。

「ということらしいぞ?ガリ勉君。お友達は呼んでおいて自分は逃げるらしい」
クスクスと笑う田端に、コウは
「お前…馬鹿だな。」
と肩をすくめた。
「なんだとっ!」
といきりたつ田端にコウはやっぱり淡々と
「ユートは逃げてるんじゃなくて…他に被害がいかないように備えてるだけだ。
まあ…俺も暴力好きじゃないんだけどな。とりあえず自分以外に向くよりはマシだと思ってるし、ユートはそれ理解して行動してる。」
と言い放つ。
「ほ~、ご立派だな、秀才君は。んじゃ、ちょっとばかり運動につきあってもらうかなっ」
言いつつ距離を詰める田端。
繰り出された拳は軽く避けられ、逆にコウに投げ飛ばされる。
転がってうめく田端を見下ろして
「武道やってるのに受け身もとれないのか…」
と、心底不思議そうな目を向けるコウ。
「この野郎っ!」
それに逆上してかけよる3人が田端同様コウに床に転がされるのはあっという間だった。

ポカ~ンとする一同。
「ちょっ何これっ?!」
シン…と静まり返った沈黙を破ったのは由衣の声だった。
それにユートはクスクス笑う。
「えっとね、俺が入るとかえって足手まといになるからさ。ま、誰かまかり間違って止めに入ったりしない様に備えてたわけで…」
「碓井君、何者?!」
ユートを見上げて詰め寄る由衣に、ユートはニッコリ
「えとね…去年の高校生連続殺人事件の凶器持った犯人を素手で取り押さえた武道の達人。ちなみに…剣道柔道空手の有段者よ?」
「うっそ~~!!!」
女性陣は大騒ぎ。のされた男4人は呆然だ。

「ユート、そんなすごい人と友達ならどうして言ってくれないのよっ!!」
「え~?言ったら君らくだらない事で呼び出させそうだからっ」
詰め寄る女性陣に笑いながら言うユート。
「もうっ、ユートありえないよぉ~!」
ポカポカとユートの胸ぐらを殴ったりじゃれついてる女性3名にチラリと目を向けると、コウはユートに耳打ちした。
「アオイ見てるぞ…」
「あ…」
その言葉にハッとして由衣達を振り払ってアオイにかけよるユート。

「まあ…またやるなら一人ずつならなるべく投げない様に気をつけてやるから、単体でこい。
受け身取れない相手投げて怪我されるの怖いからな。」
コウはそんなユートを確認して、まだ呆然と床に転がっている男4人にやっぱり淡々とした口調でそう声をかけた。

そしてそのまま
「先に部屋行くぞ。」
とユートに声をかけると、ユートの荷物も持って階段を上がって行く。
それをダダ~っと利香、由衣、真希が追って行った。
真由は木村にかけよるが、手を振り払われて怒鳴りつけられている。

それを複雑な気分で見るユート。
自分が口を出す事じゃないが…真由がなんで木村みたいな奴とつき合う事にしたのかがよくわからない。
「…ユート?」
怖い目でそちらを見ているユートをアオイが不安げに見上げて声をかける。
真由の事が気にならないといったら嘘になるが、そこでアオイを不安にさせるわけにもいかない。
「あ、ああ、ごめん。俺らも行こう」
ユートはそこでアオイに微笑みかけて客室のある二階へとうながした。





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