リトルキャッスル殺人事件_オリジナル_3

「コウ~!アオイ!こっち~!!」
ユートが大きく手を振ると、コウが軽く手を振り返してくる。

「ちょっ!ユート、あのイケメン何っ?!!」
由衣がユートの襟首をつかんで叫んだ。
「うっそっ!彼?!彼なの?!ユートの友達って!!」
利香も歓声をあげる。
「ホント、芸能人並みにカッコいいよっ!」
と真希。

まあ…いつもの事ではあるのだが…。
途端にかしましくなる女性陣に思い切り不機嫌な顔の男3人。

「遅くなって悪い。」
と言うコウに
「きゃああ~~!!!」
と手を取り合ってはしゃぐ女性陣。
「なんだっ?!」
と、何かあったのかと驚いて後ろを振り返るコウの肩をユートはポンポンと叩いた。
「ま、気にしないで。この人達の事は。」
そう言うユートの方に軽くアオイを押しやると、コウはチラリと拓郎の方を見て
「宿のオーナー?」
とユートに小声で聞く。
そしてユートがうなづくと、コウはとりあえずそちらに足を向けた。

「こんにちは。初めまして。碓井頼光と言います。今回はお世話になります。よろしくお願いします」
と、拓郎の前に行くと、コウはそう言ってお辞儀をする。
「こんにちは。君は随分きちんとしてるんだな。こちらこそ、よろしく」
と、拓郎はにっこり。
それを遠目に見て、
「ユート君♪ちょっとこっちいらっしゃい。」
と、ユートを引っ張って行く利香に
「あ~、利香ずるいっ!」
と由衣と真希も続く。
女3人に質問攻めにされているユートだが、少し離れたアオイにはその内容は聞こえない。
ぽつねんと残されてうつむくアオイ。

「ユートはどうしたんだ?アオイ」
挨拶を終えたコウはすぐアオイの側にもどってきて聞く。
その問いにアオイは泣きそうな顔で黙って女性3人に囲まれているユートを指差した。
「あ~…」
それにコウが少し困った顔をした時、
「じゃ、揃ったようだし出発しようか」
と拓郎が声をかけた。

「とりあえず…自己紹介しよっか。」
全員が乗り込んで船が動き出すと、重い空気を破るかの様に、真由がにこやかに切り出した。
「まず私達からねっ。私達女4人とユートと男4人は都立日山高校2年…ていうか4月で3年かっ。
私は朝倉真由。今回の宿の持ち主の姪ですっ。で、ポニテの子が市川利香、その隣が榎本由衣、さらにその隣が工藤真希。男性陣はユートは良いとして…私の隣が木村剛、これは私の彼♪
その隣が田端浩平、柿本元、湯沢政史、敬称略って感じで。ということでよろしくね♪」
「んじゃ、俺の側ね」
真由が一通り紹介すると、今度はユートが引き継いだ。
「女の子の方が佐々木葵。俺の彼女様♪都立秋川高校の同学年。
で、男が碓井頼光、俺の親友。こんなイケメンなくせに”あの”海陽学園で成績トップの生徒会長様よっ。」
ユートの言葉に女3名がまた嬌声をあげて、男3名が嫌~な顔をした。

「なんだ、ガリ勉かよっ」
と男側から声が飛ぶ。
それに対してユートがちょっとムッとして何か言いかけるのを制して、コウは淡々と
「ま、そうだな。」
と答えるが、女3人からは
「いや~ね、ひがんじゃって~。」
と、声があがる。

「なんだよっ!」
立ち上がって一番近い由衣のジャケットをつかみかける田端の手首をコウが少し身を乗り出して掴んだ。
振りほどこうとする田端の手がプルプル震えるが、軽く掴んでいるように見えて全く振りほどけない。
コウはそのままゆっくり田端の手を本人の膝まで誘導すると、
「船の上で揉めると落ちるぞ」
と、自分も席に座り直す。

「船降りたら覚えておけよっ!ガリ勉!」
赤くなった手首をさすりながら自分をにらみつける田端の言葉に、コウは
「まあ…そのくらいの時間なら覚えていると思うぞ」
と、また淡々と言って肩をすくめた。
「俺ら全員空手部だからなっ、後悔するぞ!」
と言う言葉にもユートが口を開きかけるが、コウはまたそれを制して
「ああ、そうなのか。すごいな」
と、淡々と答える。

『コウ、なんで言わせておくんだよっ?』
何度も制されたユートがコソコソっとつぶやくが、コウは
『言わせとけ。俺に敵意が向いてるくらいの方が楽でいいだろ。それよりアオイにフォローいれてやれ。』
と、やはり小声で言ってアオイに対する気遣いを見せる。

『あ…』
そこでユートは初めて居心地悪そうにしているアオイに気がついた。
「皆の衆、これが俺の愛しの彼女のアオイちゃん♪いじめんなよっ?」
ユートはあらためて女性陣に向かってアオイを紹介する。

「あ、よろしく~♪さっきも紹介されたけど私、榎本由衣。で、利香に真希に真由。みんな気軽に名前で呼んじゃってね、葵ちゃん♪」
まず由衣が口を開いた。
「ユートとは小学校からの腐れ縁だからねっ。奴の過去知りたければなんでも聞いてっ!」
「おい~!!!変な事言うなよっ?!!」
由衣の言葉にユートが慌てて言うと、アオイを含めた女性陣が笑い声をあげる。
「っていっても、ただの良い人担当だからねぇ、ユートはっ。
色っぽい話とかヤバげな話とか一切ないんだけどっ」
と、利香がそれに付け加えて、由衣と真希がうんうんうなづく。
なんとなく和やかな雰囲気になる女性陣を遠目に、男3人は険しい目をコウに送っている。
真由と木村はカップルらしく寄り添っていて、コウは所在なげに延々と続く波間に視線を漂わせていた。

「ねぇ…あれ見て…。絵になるよねぇ…」
コソコソっと小声で言って由衣がそのコウを指差す。
「うん…物憂げに波間を見つめる美少年…」
利香がうなづいて同意し、真希も
「ユートの話より彼の話がいいよねっ絶対」
ときっぱり断言した。

あ~あ…と顔を見合わせるアオイとユート。
「あいつは無理。彼女いるから」
何故か自分も小声になるユート。
「え~」
と不満の声をあげる女性3人。
「あのさ…君ら彼氏いなかったっけ?」
それに呆れて言うユートに、3人が3人ともきっぱり
「もう別れちゃったっ」
と声を揃えた。
「おい…破局早過ぎじゃね?」
額に手をあてため息をつくユートに
「だって…いまいちだったんだもん」
と、これも3人声を合わせる。

3人とも…フリーなんだ…と、そこで不安になるアオイ。
顔にも出てたらしい。由衣がプっと小さく吹き出して、アオイの肩をポンと軽く叩いた。
「大丈夫っ!だからってこれに手を出すほど飢えてないからっ!」
と、チラリとユートに目をやって言う由衣に、ユートはやっぱり呆れたように
「これって何、これって。彼女を前に失礼でしょうがっ」
と少しおどけて他人事のように言う。
それにも由衣は吹き出して
「どうせ彼女持ちでもってアタックしてみるなら絶対に碓井君のがいいもん。つかチャレンジしちゃおっかな」
とチラリとまたコウに視線を向けた。
「あ~由衣ずるい!私もチャレンジしようかと思ってたのにっ!」
とそこで利香が言うと、真希まで
「いいねっ。誰が落とすかやってみよっか」
などと不穏な事を言い出す。

『ま、こういう人達で俺は男として認識されてないからね。生暖かい目で見といてやって』
コウには悪いが女性陣の目が完全に自分に向いてないというのをわかってもらうには都合が良い。
案の定、ユートがそう言うとアオイは少し安心したように笑顔を見せた。



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