リトルキャッスル殺人事件_オリジナル_2

「私…おかしくないかな?」
当日…待ち合わせ場所の埠頭に行く道々、アオイは心細げに少し身なりを整えた。

ユートの学校の友人達との旅行。
ずっと一緒では緊張するからと、とりあえず行きは先に友人と合流するユートとは別に埠頭まではコウと二人。
そこからは全員で真由の叔父が操縦する船で行く事になっていた。

「別に普通だろ。」
淡々と答えるコウ。そもそも聞く相手が間違っている。
コウは彼女であるフロウ以外の外見には全く興味がないのだ。
まあ…周りが思わず振り返って行くくらいの美少女の彼女を持てば、大抵の女はそういう対象として見れないというのはあるのだろうが。

そして…その彼氏であるコウも、その美少女にお似合いの…もう一般人を越えたありえないほどのイケメンだったりするわけで…。
そんなコウと並ぶと随分と貧相に見える自分を道行く人がジロジロ見て行く気がしてアオイは落ち着かない。
実際はまあみんな、その非常に目立つ容姿のコウを見ているわけだが…。

「ユートの友達もいっぱいくるんだよね…女の子の…」
アオイのため息で自他共に認める空気の読めない男のコウも、ようやくアオイの憂鬱に気付いた。
「ま、ユートは容姿で選ぶような男じゃないし」
なぐさめになってない…。
それ…やっぱり容姿はいまいちって事だよね?とアオイは秘かに肩を落とす。
まあこのイケメンに可愛いと言われても全く信憑性がないわけではあるが。
それでも一応自分の言葉がさらにアオイを落ち込ませたであろう事にも気付くコウ。
だが何を言って良いかわからない。
本気で空気も読めなければ女心もわからない男なのだ。
「まあ…あれだ。外見の美醜なんて気にしたところで仕方ないだろ。
人間なんて一皮向けば胃も心臓も肺も、みんな双子みたいにそっくりなんだぞ。」
と、ありえない話を始めてアオイを呆れさせた。

全てにおいて完璧に見えるこの男の唯一くらいの…そして致命的な欠点…それがこの空気の読めなさとコミニュケーション能力のなさだったりする。

「悪い…俺はもうその手の話題に建設的に答える能力がありえんくらいない。」
自分でも自覚はある。ありすぎるほどある。
今度はコウの方がため息をついた。
まあコウのそんな所にはいい加減慣れて来たアオイは、そのコウらしい言い方に思わず苦笑する。

「まあでも論理的に考えれば…」
それでも不毛な努力をしようとするところがコウのコウたる所以だ。
「クラスメートということはユートは今日一緒にいるメンツとはアオイと出会う前に会っていて、きちんと相手を知っていてもつき合わずに、わざわざ選んでアオイとつき合っているわけだからな。
大丈夫。相手の方が良ければアオイとつき合わずにそいつとつき合ってるはずだ。」
まあ…非常にコウらしい考え方である。

「少なくとも女子校育ちでそれまで全く周りに男がいない状態で、初めてくらい側にいる事になった男の俺とつきあってる姫よりは…選んでるはず…」
と、そこで自分で始めておいて思い切り自爆で落ち込むのもコウだ。
高いスペックに似合わない低い自意識の持ち主なのである。

「だ、大丈夫だよっ!フロウちゃん勘がいいからっ!きっと一番自分がつき合いたいって人間だって確信もってつき合ってるよっ」
それに対して答えるアオイの言葉もお世辞にもなぐさめになっているとは言えない気がする。
まあ…スペックの違いはともかくとして、実は似たもの同士である。
双方シーソーのようにどちらかが落ち込んではどちらかが浮上して、また落ち込むのを慰めようとして自爆で自分が落ち込む…を繰り返すのがアオイとコウなのだ。


そんな二人よりも一足先に待ち合わせ場所に向かっているユート。
女4名に囲まれてコウあたりなら居たたまれなさに逃げ出す所だが、姉と妹の女二人に囲まれて育ったせいか普通に馴染んでいる。
「ね、ユートの彼女ってどんな子よ?」
もう話題はそれ一色。
「世界一安全な、隣で裸で寝てても欲情する気しないユートの彼女って…想像できんわ~」
などと随分な言われ方だ。
ユートはそれに対して軽く肩をすくめる。
「あ~、ちょっとお馬鹿さんだけど、君らと違ってすっげえ可愛い性格してるよ?
もうありえんくらい可愛いっ!」
「惚れてる?」
「もっちろん♪だから小姑根性見せていじめたりしないでねっ。」
その言葉に笑いがもれる。
「こりゃ楽しみだね~。」
なごやかに電車を降り埠頭に向かう一同。

しかしそのなごやかな空気も
「よぉ、真由。お前らもこの電車だったのかっ」
と後ろからかかった声で急に凍り付いた。
「あ…剛。」
少し硬直する3人と並んでくるりと振り向く真由。
同じく4人組で歩いていた木村は他の3名より一歩前に出ると、真由に並んでその肩を抱いた。

同じく女3人に並ぼうとする男3人をさりげなく避けてユートを防波堤にしようと回り込む女性陣。
「近藤、彼女つきじゃねえのか?もう振られたのかよっ」
それに男性陣の一人、田端がちょっとムッとしつつ、しかしすぐニヤニヤとからかいの表情を浮かべる。
「ああ、ダチに送ってきてもらってる。いきなり小姑や怖いお兄さんに囲まれると怯えるからっ」
ユートはそんな悪意をスルーしてニカっと笑った。
「も~、小姑って何よ、小姑ってっ!」
少しかわった空気に少しホッとして、軽くユートを叩く由衣。
あとの二人も男3人を完全に無視して、ユートにじゃれつきはじめて、さらに男性陣の顔が険しくなった。

(あ~、コウ早く合流しないかなぁ…)
アオイが緊張するためなるべく合流を遅くしようと二人に別に来るように言い出したのは自分なのだが、そこで少し身の危険を感じてそう思うユート。
若干早足になるユートを女性陣は小走りについていく。
そして…埠頭の船着き場に着くと、クルーザーの甲板に中年の男性が立っていた。

「こんにちは」
にこやかに挨拶をしてくる男性。
「こっちが拓郎伯父さん。今回泊まらせてもらうペンションの持ち主よ♪
場所は離島だからここからは伯父さんの船で向かうから。」
真由の言葉に無言で少し頭を下げる男4人。
「ども、お世話になります」
とユートも頭を下げ、それに続いて女性3名も
「お世話になりま~す♪」
と揃って頭をさげた。

と、その時遠くから近づいてくる人影が二つ。
ユートは内心大きく安堵のため息をついた。



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