ジュリエット殺人事件_12

「あれが噂のマリア様~♪」
年明け…結局4人で初詣をすませたあと、噂のマリア様見物に聖星女学院前まで足を運ぶ。
いかにもミッション系女子校らしい綺麗な4階建ての校舎の上にそびえ立つ重ねた両手を胸に当てた聖母マリア像に右手を向けて、にこやかに微笑むフロウに、コウはちょっと青ざめた。

「姫……」
「はい?」
「あれ…下まで落ちなかったとしても…高くないか?1m以上ある気するぞ…落ちたら」
というコウ。
「確かに…つかフェンスあっても普通に怖くね?」
と、ユートもつぶやく。

青ざめる男二人に
「でも眺めすごく良さそう♪」
と意外に平気なアオイ。
「コウさんもユートさんも…高所恐怖症か何かです?」
きょとんと首をかしげるフロウに
「…そういう問題じゃない…」
とコウはがっくりと肩を落とした。

本当に…馬鹿と煙は高い所に…というが、それに電波も付け足してくれ…と心中思うコウ。
その全然悪気のない5年も前に亡くなった電波な天使様のおかげで、5年もたった今頃まだ実に3人もの人間の人生が大きく狂ったのかと思うともう、人騒がせという域を超えて恐ろしい。

結局、藤とはなんとなく携帯の番号やメルアドを教え合ってその後の連絡を取り合っていて、その後の状況も知らされていた。

舞は…実は藤がくるまでもう少し時間があると思ってた美佳はゆっくりといたぶって殺すつもりだったらしく、あの時点ではまだ範囲は広くとも致命傷になるような傷は負わせていなかったということで、体の傷自体はたいしたことはなく、整形手術なども駆使してほぼ傷跡も残らないらしい。
ただ、今回の一連の恐怖で心の傷の方が重傷で、現在対人恐怖症で自宅にこもって精神安定剤を服用しつつ精神治療を続けているが、回復のメドはたってない。

美佳は…あのあと藤から事の真相を聞いてかなりショックを受けたらしい。
一時は精神衰弱もひどく自殺の怖れもあることから身体を拘束しての生活だったが、藤がフロウが落とし物を預けたという当時のシスターを訪ね、なんと5年間きちんと保存されていたという例のしおりを受け取って美佳に託された分を手渡すと、泣きながらも落ち着いたらしい。
今は大人しく警察の事情聴取も受け、事情を全て話し、罪をつぐなう気になっているとのことだ。

別所は唯一変わらず(?)遥を相変わらず追い回し、馬鹿二人は宗旨替えしたらしい。
フロウの情報を求めて藤につきまとっては一蹴され、それでもしつこくつきまとってくると藤がため息まじりにぼやいていた。

藤は…とりあえず桜に対しての最後のご奉公代わりに実家の財力にものを言わせて美佳のために優秀な弁護士を手配し、それでもう過去は振り切る事にしたらしい。
これからはどちらにしてももう二人とは距離を置いて…まあ物理的に距離は否応無しにできてるわけだが…遥を始めとして大学に入ってからできた交友関係とつき合って行く事にしたと言う。
「まあ…でも姫は別。たまには貸してね、君も一緒でもいいからさっ」
と、それにつけたすわけではあるが…もちろん、コウもそれは拒否できるはずもない。

博愛を説いているはずのキリストの母マリア像。
殺人の発端になんてされて、さぞや迷惑だろうなぁとコウはまた遠く屋上のマリア像を見上げた。
考えてみれば…5年前の事件が起きなければ今頃まだフェンスを高くするなんて事もされていなくて…フロウが桜の立場だった可能性もあるわけだ…と思ってゾッとする。

「姫…!」
すでに隣の公園に移動しかけているユートとアオイの後ろをトテトテ歩くフロウにかけよって、コウはその腕を取った。
「…はい?」
足を止めて不思議そうにコウを見上げるフロウ。
それをその場で抱き寄せるコウに
「コウさん?どうしたんです?」
と不思議そうに声をかける。
「絶対…やめろ。」
「はい?」
「例のおまじない。それだけじゃなくて危ない事は全部禁止。」
「危なく…ないですよぉ」
「危ないっ!下まで落ちなくても足滑らせて打ち所悪かったら死ぬっ!」
「え~、でもぉ…」
「…そのかわり…」
不満の声をあげるフロウの言葉を遮り、コウは少し体を離してフロウの顔を覗き込んだ。
「俺が叶えるから。マリア像に頼みたいような事、全部俺が叶えるから」
フロウは自分の顔をのぞきこむコウを大きな丸い目でじ~っと見上げる。
そして…にっこり天使の微笑みで小指を立てた右手をかざす。
「指きり?」
「しかた…ないな…。」
自爆…本当に自爆だが桜になられるよりは、自分にとってはかなりマシな選択と言わざるを得ない。
どうせ…自分を含む男なんて所詮、自分よりもはるかに弱いはずの女なんて存在に振り回される単純で馬鹿な存在なのだ、とつくづく思いつつも、そのあまりにフロウらしい反応にコウも苦笑してその細い小指に自分の小指を絡めた。


Before <<<


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