画策
「ちょおこのまま待っとっててな。
日本ちゃんに朝食もこっちに運んでもらうように言うとくから。」
スペインはスッとイギリスの頭を撫でていた手を止めると、そう言って起き上がった。
そして続いて起き上がろうとするイギリスを手で制する。
「あかん。親分“このまま”待っといてって言うたやろ」
と、柔らかい口調で…それでも拒否権を与えないような言い方をすると、イギリスは戸惑ったように眉を寄せた。
「また倒れられたら心配やし。ほんま昨日は親分の方が心臓止まるかと思ったわ。
めっちゃ心配したんやで?
それにな、今日は無理させん程度にイギリスと遊びに行こ思うて親分色々調べておいてん。
せやからぎりぎりまでゆっくりしとって?」
それでもスペインがにこりとそう言って、ええな?と念を押すと、イギリスは素直にこっくりとうなづいた。
それにまた、ええ子やな、と、頭をなでると、スペインは日本に内線をかけるために隣室へと向かった。
「ああ、日本ちゃん、悪いんやけど食事また部屋に運んだって?」
昨日はイギリスが疲れて眠ってしまったからと理由付けをしたが、今回はさすがにその手は使えない。
『あの…イギリスさん、どうかなさったんですか?』
電話の向こうの日本は不安げだ。
それでも直接的に想像を口にしたりする人間ではない。
イエス、ノーで答えずに済む日本式の会話は今のスペインには随分と便利なモノに思えた。
「あ~…内緒にして欲しいんやけど…俺はええけど、イギリスが気にするやろし…」
と言葉を濁して伝えてやれば、おそらく脳内で勝手に補完してくれる。
『ええ、それはもう。イギリスさんが言わないで欲しいとおっしゃることでしたら…』
日本も色々考えてはいるのだろうが、どれも想像に過ぎない。だから次の言葉を待っている。
この最後の“…”がおそらく“それでなにか?”という意味を持つのだろうと、理解して、スペインは少しおかしくなった。
「あのな、昨晩はちょっと色々あって、イギリス疲れすぎて起きれへんねん。無理させたないし、昼前くらいからボチボチ二人で出かけよう思うてんけど…それまで休ませたって?」
電話の向こうで驚いて赤面している日本の顔が目に浮かぶようだ。
案の定
『あの…それはその…そういうこと…でしょうか?』
と言葉を濁す日本に、スペインも確信に触れず
「広間行ってそういうのバレるとウルサイ元兄や元弟が色々からかったり嫌な言い方したりするやろ?俺はかまへんけど、イギリス可哀想やから。」
と、敢えて日本に合わせて言葉を濁してみる。
『ああ、そうですよね。あの方々は…自業自得でもイギリスさんにあたりそうですし…。
ええ、わかりました。フランスさんとアメリカさんには、スペインさんとイギリスさんは早朝に旅館を出て釣りにでも行ったと言っておきます。』
さすがイギリスのことが大好きで、さらに空気を読む国ナンバーワンの日本だ。
至れり尽くせりである。
時に…こうやってニセの空気に騙されたりもするわけだが……。
「それ助かるわ~。おおきに。頼まれついでに日本ちゃん、車一台用意してもらえん?」
『はい。それでは目立たなさそうな車を一台用意させて頂きますね。キーはあとでお届けにあがります。』
こうして日本との会話をうち切ってスペインはイギリスのもとに戻った。
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