捕獲作戦 - 進行_2

絡めとる


温かい…。
毛布とか無機物ではなく、血の通った生き物の温かさ…。

幼い頃に抱いて眠ったウサギが自分が知る唯一と言っていい生き物の温かみだったイギリスは、その小動物とは違うぬくもりに不思議に思って目を開けた。

まず目に入るのは旅館の備え付けの浴衣の胸元から覗く褐色の肌。
そして…何か掴んでいる自分の手元に視線をやれば、自分のものではない浴衣の袖が目に入る。
自分の物ではない…とすると……

「おはようさん。よう寝とったな。少しは気分ようなったか?」
そう言ってスペインがイギリスが掴んでいる袖と反対側の手でイギリスの頭を撫でてくる。

うあぁぁ!!!と内心パニックを起こしたまま硬直するイギリスに、スペインは
「まだどこか苦しいんっ?それともどっか痛いんか?」
と気遣わしげな視線を向けてきた。

「いや…そのっ…わ、悪いっ!!」
慌てて首を横に振り、そこでハッと気がついて掴んだままの袖をパっと離すイギリスに、スペインはまた優しく笑いかけた。

「ああ、これな。ええよ。昨日苦しそうにしとったから様子見に来たら掴んできて…しんどくて掴んどるのに離すのも可哀想やし、そのまま隣に寝てもうたんやけど。」

というスペインの言葉にいたたまれない気分になって、悪い、ともう一度イギリスが謝罪すると、スペインは謝らんといて、と、苦笑したあと、髪を撫でていた手でイギリスの頭を引き寄せて、胸元に抱え込んだ。

「親分嬉しいんやで?イギリスがしんどいのを言葉やなかったとしても、ちゃんと俺に伝えてくれたこと。ええ子やな。イギリスはほんまええ子や。」
子どもに対するように言われて、イギリスはスペインが自分よりは年上であることを久々に意識した。

頭を撫でる手が心地よい。
良い意味で子ども扱いされた記憶などないイギリスは、その心地よさをもう少し感じていたくて、そのまま軽く目をつぶって動かずにいた。

あと2日間だ。
それくらいまではスペイン自身が言い出した事だし、こうしてもらえるのだろう。




撫でられて気持ちよさげに目を閉じるその様子が、まるで子猫のようだ…と思う。
ああ…かわええなぁ…むっちゃかわええ。

人慣れない子猫はいきなり抱き上げてはいけない。
愛情を感じるより先に驚いて、相手を引っ掻いて逃げる。
長い年月を生きるスペインが経験から学んだ本当の子猫の扱い方である。
それはそのままイギリスにも応用できるようだ。

まず敵意のない事を示し…ゆっくりと待ち、近寄ってきたら優しく驚かせない様に最低限の接触から始める。

しかし今回はとりあえず2日である程度は次に繋げなければならないので時間がない。
なので、ゆっくり待つのを省略し、眠っているのをいい事にイギリスの手を自分で自分の袖に掴ませた。
もちろんイギリスにはスペイン自身が掴ませた事は内緒だ。

案の定自分が無意識に掴んでしまったのだと思い動揺するイギリス。
わたわたと慌てる様子は可愛くて思わず抱きしめたくなるが、ここで焦ってはいけない。

まず軽い接触ということで頭を撫でつつ、そうやって近づいてくることで害を加えられたり嫌がられたりすることはないのだと教えてやる。

そこでそれを理解し、オズオズと近寄ろうとしてきたら、そこで初めて近づくのに手を貸すかのようにこちらからも能動的に抱き寄せてやる。
もちろん力を入れすぎず、逃げたくなったら逃げられる余地を残してやることが重要だ。

…たとえ……“逃がす気など微塵もなかったにしても”……である。

こうしてまるで真綿でつつむように柔らかく柔らかく…しかしじわじわと自分の方へと追い詰めて行けば、いずれはそうと気づかずに自分の腕の中に閉じ込められてくれるだろう。

(あとは…邪魔者を排除せんとなぁ…)

ニヤリと浮かべるスペインの笑みが黒い事は、胸に顔をうずめているイギリスは当然気づくことはなかった。


Before <<<      >>> Next


0 件のコメント :

コメントを投稿