捕獲作戦 - 決行_3

捕獲開始


「…スペイン……なんで?もう食事終わったのか?」

イギリスが目を覚ますとそこに相変わらずスペインがいた。

会議が終わったのが恐らく5時前後…。
発作を起こして気を失って、最初に目を覚ますまではたぶん30分はかかっているだろう。
そしてそれからしばらく会話を交わしていたが、どうやら眠ってしまったらしい。
会話していた時間が15分だとしても、今寝ていた時間が15分だとはとても思えない。
だから今は夕食の時間、6時はとっくに過ぎているはずだ。

そう思ってイギリスがぼんやりと見上げると、スペインは
「ん~、日本ちゃんに頼んで悪くならんもんだけこっちに持ってきてもろてん。
イギリス、目覚めたんならメシ食べ?」
と、いうと、どっこいしょと立ち上がって、隣の部屋に足を向けた。


まだ若干怠さは残るものの病人というほどの体調ではない気がする。
そしてそれはこの保護されるモノという甘やかな立場の消失に繋がる。
そうしたらまたあの表面的な関係に戻るのか…と思うと、少し欲が出てきた。

両想いになりたいなどという大それた望みを持つわけではないが、もう少しだけ…せめてここで過ごす3日間くらいその立場を甘受してはダメだろうか…。

ということで、イギリスにしては珍しく、少しでも病人という立場が長引かないかと、悪あがきをしてみることにした。

「俺は…今日はいい。あんまり腹減ってねえし…
あ、でもお前は宴会場行って大丈夫だぞ?
どうせ皆食った後にダラダラ飲んでるんだろうし…。
日付変わるくらいまでは居るんじゃないか?」

それはイギリスが珍しく試してみた呆れるほど消極的な賭だった。

普通に自分が元気ならば、自分と正反対に人付き合いが上手く賑やかな事も好きなスペインのことだ、皆がいる宴会場へと行ってしまうだろうが、まだ体調があまり良くない事をほのめかしたら残ってくれたりしないだろうか……。

そんな不純な動機でそう言ってみると、隣室に置いてあったらしい膳をこちらに運んできたスペインはまたイギリスが寝ている脇に腰を下ろして、自分の隣に膳を置く。

そして小さくため息。

「食わんとよおならへんで。寝たままでええ。親分が食べさせたるから、少しでも食べ。」
と、スプーンを手にとった。

自分で画策しておいてなんなんだが、スペインがため息をつきつつも宴会を諦めてくれるつもりらしいことにイギリスはひどく罪悪感を感じた。

「…悪い…いい。自分で食うから。お前やっぱり宴会場行ってこいよ…」
そこでやっぱり我を通せないのがイギリスのイギリスたる所以だ。

しかしそう言って身を起こそうとするイギリスをスペインは制した。

「あかん。寝とき。」
「でも……」
「あんなぁ…自分体弱ってる時くらい、一緒にいたってって言えへんの?」
ため息でるわ~とつぶやくスペイン。

「寝る前に言うたこと聞いてへんかったん?」
「…寝る前?」
きょとんとするイギリスに、スペインは、あ~やっぱり寝とったか…と、またつぶやく。

「これからしんどい時は親分に言うんやでって言うたら、自分頷いとったで?」

何か…言われてた気はするが…頷いた気もしないではないが…何を言われたかがまるっと記憶から抜け落ちている。

それを告げると、スペインはツンっと指先でアーサーの鼻をつついた。

「言・う・た・ん・やっ。自分はそれに頷いたんやから、ちゃんと責任持ちっ。
これから自分は俺に体調隠すのは禁止やでっ。
少しでもおかしい思うたら、これくらい思わんと、即報告やっ。
とにかくあんなひどい発作起こしたんや。
ここ3日間は親分の目の届かんところにおるのも禁止。
明日、明後日は体調しだいでは出かけてもええけど、それも親分と一緒やないとあかん。
ええなっ?!」

密かな野望は思いがけず叶えられる事になったらしい…。

「寝ぼけてたんだが…頷いた記憶はあるから……仕方ないからそうしてやるっ…」
なんとなく気恥ずかしくてイギリスはソッポを向くが、そんな態度もスペインは元養い子で慣れているらしい。

ええこやな、と、頭を撫でて
「じゃ、そういうことで、メシ食おか~」
と、笑顔でスプーンをイギリスの口元に差し出した。


食事を終えて軽く汗を流させてイギリスを再び寝かせると、スペインは自分も眠っているイギリスの隣ですっかりさめてしまった食事を胃に入れる。

日本が吟味しただけあって料理も美味しいその旅館の食事は、もちろん適温で食べた方が美味しいのだが、それでも宴会場で食べるより、こうして半分手の中に落ちかけている1000年越しの想い人の寝顔を見ながら食べる方が、百倍旨い。

いきなりイギリスが倒れた時は肝を冷やしたが、結果的にはイギリスも体調を崩したために少し心細く人恋しくなっていて、自分の口車にあっさり乗ってくれたわけだから、まあ良しとする。

とにかくあと最低二日は常に自分の側にいると約束させたから、その間になんとかその期間が伸びるように立ち回れば良い。

ただしフランス、アメリカの邪魔が入ることは目に見えているから、まずは二人きりになれるよう、なんとか上手く邪魔者を排除するところから始めなければ……

「親分めちゃ甘やかしたるからな。だからこれからは親分の側におり?
自分かて甘やかされるの…好きやろ?」

月明かりの中、片手に杯を持ちながら、スペインはそう言ってソッとアーサーの丸い頭をそっと撫でた。


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