捕獲作戦 - 開始_1

プロローグ


暑い夏。日本の夏。
8月も真っ盛り、世界会議の会場は日本だった。
あまり付き合いのなかった国はとにかくとして、日本をよく知る国々はその会場にうんざりした顔を見せる。

湿気が多くて暑い…どうせ踊るだけの会議だ。
わざわざ不快度指数の高そうな場所でやりたくない。
そう思っていても普通は一応仕事なわけだから耐えるわけなのだが…さすがに世界のヒーローは違う!
実にはっきり物申した。

「仕事は快適な環境の方が進むんだぞっ!湿気が少なくて涼しい場所はないのかい?!」

日本の最大の友好国にして生命線、更に言うなら『反対意見は認めないんだぞっ☆』と言うのが口癖の超大国様の鶴の一声で、会場は気温が比較的低く、湿気も少なく、そして…慰労に観光もつけろという我儘大国のご希望に沿うように、信州蓼科にあいなったのだった。


そしてこれも超大国様のご希望で各部屋貸切露天風呂付きの宿をということだったが、そうなると宿の確保も大変で、ようやくなんとか確保できたモノの二人一部屋になることに。

そしてここでまた部屋割りで揉める。




部屋割り


「辛気臭いおっさんと一緒なんて他の人間が可哀想だからねっ!
仕方ないからヒーローの俺がイギリスと一緒の部屋に泊まってあげるんだぞっ☆」

と、アメリカが、
『ああ、急にあんな一人一部屋取れないような宿を希望して爺を振り回したのはそれが目的でしたか…このブラコン』
と、日本にため息をつかせたかと思えば、

「何言ってんの?お前じゃ坊ちゃんが飲み過ぎた時とか面倒見れないでしょ?
もうお兄さん諦めてるからね。坊ちゃんの世話係長いし。
いいよ、日本。俺が坊ちゃんと同室で」

と、こちらも素直に同室になりたいと言えない隠れツンデレフランスが、
『髭面のツンデレなんて萌えませんよ』
と、日本に冷ややかな視線を送らせる。

「ヴェー…あのさ、二人共そんな風に嫌なら俺がイギリスと一緒の部屋になるよ♪
イギリスだってイヤイヤ同室になられるより、一緒の部屋になりたいって思う俺と一緒の方がいいよね~♪」

と、そこに参戦する素直さが売りのイタリア。

先の二人の言葉でちょっと涙目になりかけてるイギリスの手を取って、ネ~♪と言いながら天使の笑顔で首を傾けた。

そして、それに涙の零れそうな目元を拭いながらイギリスが
「お、お前がどうしてもって言うなら、一緒に泊まってやっても…」
と、お決まりのセリフを言うのに、

「どうしてもだよっ♪
俺イギリスと一緒に泊まってイギリスに美味しいお茶淹れて欲しいなぁ」
と上手に甘えてみせる。

ああ、イタリア君落ちですかね、今回は…。

日本とてイギリスと同室になりたいのは山々だが、主催国としてはとにかく揉めてる渦中の人になる余裕がない。

とりあえずはイギリスを傷つけずに楽しませてくれそうなイタリアを同室に…と、ホッと一息ついたわけだが、それで引き下がる二人ではなかった。

「そ、そんなのダメなんだぞっ!君がいなきゃドイツが可哀想じゃないかっ!!」
「そうだよ~。イタリアじゃ坊ちゃんの世話は無理だって。
大人しくお兄さんに任せなさい」

二人が慌ててイギリスの手を握っているイタリアを引き剥がす。
そして散る火花。

ああ、どう収めましょうね、あの二人絶対に譲りませんよ……と、日本がため息をついていると、後ろからポンと肩を叩く手が。

振り向くと、意外な人物が立っている。

「あ~…すみません、今ちょっと取り込み中でして…何か急ぎの用でも?」
と、日本が困ったように眉を寄せると、その人物、スペインは

「ああ、せやからなっ。これ使ったったらええかな~て思うて。」
と、造花の花が入った花瓶をグイっと日本の前につきだした。

「は?」
思わず首をかしげる日本に、スペインはにっこり

「これ茎の先にな、親分印つけたったから、同じ番号の奴が一緒の部屋になったらええやろ?
一応売り物やさかい、どっかの誰かの馬鹿力でへし折られても困るし、まず誰の分かを日本ちゃんが宣言して引いて、次に俺が同じく誰の分かを宣言して引く。
で、同じ番号の奴が同室や。
別に一人が引いてもええんやけど、結果で揉めて恨まれたりしても嫌やん?」

それで平等やろ?
と言うスペインに、日本はコクコクうなづいた。

「皆、それで平等に決めるで~。ええな?
それともアメリカもフランスも不平等やろうとゴリ押しやろうと、どうしてもイギリスと同じ部屋になりたいん?
イギリスの事好きすぎやんなっ自分ら。」

とまで言われたら、二人とてそれ以上言えない。

「冗談じゃないよっ!俺はヒーローとして皆の被害を食い止めようとしただけで…」
「お兄さんだって皆に楽しんで欲しいな~って思っただけだよ。
別に好んでイギリスと同室になりたいわけじゃない」
と、渋々そう言ってくじ引きに同意した。

((まあ…あとで同室になった奴と代わればいいわけだし…))
と二人して内心そう思いつつなわけだが……。

「んじゃ、決定や。あとせっかく平等にしたんやから、部屋代わったりとかはなしなしやで~。
じゃ、日本ちゃんから~。会議の時の席順で行こか~。」
高らかに宣言するスペインに焦る二人。

いまさら反対とも言えず、まあでもこれで同室になる可能性がないわけじゃない、と、とりあえず状況を見守ることにした。

「じゃ、まずはアメリカさん…1番ですっ!」
日本が花瓶に刺した造花を一本引き当てて、その茎の先に巻いてある紙に書いた番号を読み上げる。

「次は~…日本ちゃんやな~…5番」
「次は…スイスさん、2番」

こうしてどんどん部屋割りが決められていく。

「じゃ、次は俺な~7番、ラッキー7やんっ!」
「ふふっ、よろしゅうございましたね。次はイタリア君ですね。…5番っ。私と同室です。
よろしくお願いしますね。」
と日本ににこりと会釈をされて、イタリアは笑顔で手を振った。

((これでライバルが一人減った…))
と、内心ホッとするアメリカとフランス。

そして次はいよいよイギリスの番だ。
ほな、いくで~と、ゆる~い調子で言うスペインの手元を、仏米二人、鬼のような形相で凝視する。

「イギリス……7番。親分とやん。」
目を丸くするスペインと、うわぁ~~と苦い顔をする一同。

そんな中で唯一目を輝かせたのはアメリカとフランスだ。

「仕方ないねっ!ヒーローとしては悲劇を見過ごすわけには行かないんだぞっ!
スペインが可哀想すぎるからねっ!俺が代わってあげるよっ。君1番でいいんだぞっ!」
とアメリカがいうと、フランスがチッチッチと指を横に振る。

「お兄さんはこう見えてもスペインの友達だからね。お前が出るまでもないよ。
友達の不幸はお兄さんの不幸。
スペイン、今度ワイン一本奢りでいいよっ。お兄さんが代わったげる」
と、笑顔でスペインにウィンクを送りつつそう言うが、スペインは相変わらずゆる~い口調で

「あ~親分は別にかまへんで~。ていうか…最初に部屋替えはあかんてルール作ったやん。
ここで部屋替えたらくじ引きしとる意味ないやろ?」
と言うと、次行くで~と半ば強引に日本をうながした。

しかしそこで諦めずに、

「いや、ちょっと待ちなよっ!」
と次のクジを引こうとする日本に駆け寄ってくるアメリカにスペインはすかさず膝カックンをかまし、

「ね、スペインっ、ちょっと待とうよ」
と自分に駆け寄ってきたフランスは正面から頭を掴んでガンっ!!とそのまま壁に打ち付ける。

『ヴェ…なんかフランス兄ちゃんの頭ミシミシ言ってるよぉ…ドイツ~』
と、イタリアは小声でドイツに言うとドイツの後ろに隠れて白旗をパタパタ振り、ドイツは困ったように眉をハの字に寄せた。

もちろん…ドイツですら介入しないのだから、他の国が介入するはずもない。

「自分ら…ええ加減にせえや?
親分ちゃっちゃとこれ済ませて内職せなあかんねんっ。
これ以上邪魔したら……殺るで?」

現役時代さながらの迫力のある黒い笑みを浮かべて二人をそう恫喝すると、スペインはニコリとこちらにはいつもの太陽のような笑顔を浮かべて
「じゃ、続きやろか~」
と、日本に続きをうながした。


『フランス…なんだかスペインが怖いんだぞ…。彼はあんなキャラじゃなくなかったかい?』
黒い迫力に少し涙目なアメリカに、フランスはようやく凄まじい握力から開放された頭を軽く振って生きている事を確認しながら、
『えとね…お前は知らないかもしれないけど……坊ちゃんが元ヤンならスペインは元祖元ヤンだからね。』
とやはり涙目でささやく。

ああ、そうだ。
イギリスが策略を巡らす系のヤンキーなら、スペインは正面から叩き潰す系のヤンキーだった…と、フランスは遠い目を窓の外に向けた。

そんな二人を放置で、日本はにこやかに
「次はフランスさんですね~」
と造花をまた一本引きぬいた。

「あ……1番です。アメリカさんと同室ですねっ」
楽しげに言う日本。

「「げぇ……」」
と、声を揃えて嫌そうに眉間にシワを寄せるフランスとアメリカ。

それでも
「部屋替えはなしなしやで?」
と、そこでニヤリと黒い笑みを浮かべるスペインに、為す術もなくコクコクうなづいた。




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