2月12日…スペインは非常に不機嫌だった。
理由はセリフの通りである。
本当だったら可愛い子分とその弟がお祝いに来てくれて、悪友たちと美味しい料理を作って祝ってくれる予定だった。
そこに急遽入った仕事。
しかも……仲の良いとは言いがたいイギリスとの会議で……それでも不景気な昨今、さすがにサボれる仕事でもないとわざわざイギリスまで出向いたというのに、仕事場でスペインを出迎えたのはイギリスの秘書だった。
「あ~、スペインさん、本当に申し訳ありませんっ!
イギリスさん、何か突発事項が起こったみたいで、連絡が取れなくて…。
すぐ自宅に行って確認取りますんでっ!!」
額に思い切り汗を掻きながら、ペコペコと頭を下げる見覚えのある顔。
確かハワードと言ったか…。
その人のよさそうな…いかにも実直そうな相手に八つ当たるわけにもいかず、スペインは息を吐き出した。
「あ~、ええよ。俺の方があいつん家行くわ。
そのほうが早いし。」
「ええ??でも……」
「急いどんねん。悪いけど。」
そう、一刻も早く仕事を済ませて自宅へ帰りたいというのもある。
スペインが少し不機嫌さを匂わすと、ハワードはまた恐縮して、すみません、すみませんと頭を下げた。
それを半ばスルーして、スペインはイギリスの事務所を出て自宅へ向かう。
タクシーの領収書はシッカリ取っておいて、あとで請求しようと、少し贅沢をしてタクシーに。
仲が良くはないというのに、悪友のフランスつながりで何度か訪れたイギリスの家につくと、不用心にもドアがひとりでに開く。
……が、もっと恐ろしいことに、中に入ると怪しい煙。
「なんやっ?!テロか何かあったんかっ?!!」
さすがに同じEU内の国に何かあったら自国にも影響がないとも限らないと、スペインは焦って廊下中の窓を開けて煙を外に追い出しながら進んでいくと、確か居間がある方から泣き声がする。
一人はイギリスなのは間違いはない。
…というか…仕事放り出して何子どもみたいに泣いとるんや、23歳…と思うと同時に、はて?とスペインは首をかしげた。
もう一つの泣き声はどう考えても大人じゃない。
子ども…いや、赤ん坊???
慌てて居間のドアを開け、まず窓に駆け寄って廊下よりは若干マシながらもやっぱり立ち込めている煙を追い出す。
そしてスペインは立ち尽くした。
なんや…これ…。
大小の金色のヒヨコアタマがが泣いている。
「…おい…何しとんねん…」
とりあえずちっちゃい方は赤ん坊なので、事情を聞こうなどと思ってはいけない。
スペインは何やら怪しい紫っぽぃ何かが入った哺乳瓶を手に号泣しているおっきい方に声をかけた。
「アリスが…ずっとミルク飲まないんだ…死んじまったらどうしよう……」
スペインは、ヒックヒックとシャクリをあげながらイギリスが言うその言葉にまずつっこんだ。
「ミルクて……まさかその怪しい液体やないやろな?」
いやいやありえない。飲まないより飲んだ方が死ぬんやないか?それ…と、スペインが青くなると、イギリスはキョトンと
「怪しい液体ってなんだよっ」
と言う。
そんな二人のやり取りに、か細く泣いていた赤ん坊は第三者に気づいたらしい。
「…まんま……ぱぁぱ……まんまぁ……」
と、こちらも必死な形相で短い手足をバタバタさせながら這いずってくる。
「ほいほい、お腹ペコペコやんなぁ。可哀想に」
例えそれがイギリスの家にいたイギリスの家の子どもだったとしても、赤ん坊に罪はない。
…というか、抱き上げた瞬間、その柔らかさと温かさに愛おしさがこみ上げてくる。
「イギリス、ちょお、キッチン借りるで?」
スペインはイギリスの身に着けているエプロンを取ると、それを身につけ、くれぐれもそれ飲ませようとせんといてな、と、念を押して赤ん坊をイギリスに預けた。
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