Me alegro de que estás vivo._3

「Feliz cumpleaños mi preciosa España. Me alegro de que estás vivo.」

あの時あの子が言った言葉は本心からだったと思う。

スペインだって、あの子の事はとても大事に思っていた。
誰よりも愛しく思っていた。

いや、過去系ではない。

あの日から数十年蜜月が続いたあとに国情により決裂してからも、辛い時にはあの日あの子が言ってくれた言葉を思い出しながら、あの時もらった十字架を握りしめて乗り越えて来たのである。

もしもあの子があの時の気持ちを忘れてしまっていたとしても…この日が特別だと言う事を主張し続ければいつかは思い出してはくれないだろうか…そんな我ながら女々しい希望を胸に数百年。
国情も落ち着き、普通に話くらいはするものの、あの頃のような距離感には戻らない。

むしろあれだけ喧嘩しまくっていたはずの隣国フランスとは近年鉄道を通して陸地続きになったり、プライベートでもしょっちゅう行き来しているらしいのにはらわたが煮えくりかえる日々である。

(ああ…こんな地味な主張があかんのやろか…。要らん奴は来るのに、あの子は来てくれへんし…)

毎年EUの面々には招待状を出すのだが、イギリスが顔を出してくれた事はない。
いっそのことパーティなど開くよりも押しかけてしまおうか…と思わないでもないのだが、それで拒絶をされたら、絶対に立ち直れない事請け合いである。

愛しているなんて軽い言葉では語りきれないほどの想いなのだ。
そう、ラテンだからだとか軽いノリで口説けるのは遊びの相手だけで、本命にはその分腰が重い…気持ちも重い。
なにしろイギリスがこの日に来てくれたなら渡そうと、毎年きちんと調べてサイズを直している指輪まで用意しているくらいなのだ。

まずお友達から…などと悠長な考えはスペインにはない。
全くない。
少しでも気持ちが向いたなら即拉致監禁プロポーズだ。
数百年も待っている間に余裕なんて消しとんだ。

来てくれると言う事は少しでも気持ちが向いてくれたと言う事で、そこからはとにかく口説いて口説いて口説いて口説き落とすしかない。

ただ少しでも気持ちが向いていないと、口説く事自体逆効果になりかねない。
そう思って数十年。
誕生日パーティが終わるたび、指輪を棚に戻してしっかり鍵をかけて落ち込む日が続いている。

(今年もだめかぁ……)

2月12日が誕生日としては一般的ではないと、よりによってフランスが気づいてどうする…とがっかりしながら、スペインは庭に出て温室で丹精込めて育てているトマトの葉をするりと撫でた。

「ほんま…いつになったらあの子とまた2月12日を過ごせるんやろな…」

(…いつも大事にしてくれるから…特別よ?)
ため息をついた瞬間、ちりんちりんと鈴が震えるように可愛らしい声を聞いた気がした……


――今年も生きていてくれてありがとう。おめでとうスペイン

ふわりと浮いている身体。脳内に響く声に視線を下に落とすと、愛しいあの子の姿が見えた。

――頼むわっ!誰だか知らんけど、あの子のとこに連れてったってっ!今じゃなきゃあかんねんっ!!
と思わず叫ぶと、落下する身体。

ドスン!と音をたてて芝生に尻もちをつくスペインを、あれから数百年たってもあまり変わらないまんまるのびっくり眼が見下ろしていた。

「す、スペインっ?!!なんでこんなところに???」
単純に突発事態に弱いのだろう。
すっかり腰が引けて後ずさりしかけるイギリスのその手を、スペインはガバっと即立ちあがって思い切り掴んだ。

パフっと自分の胸の中に吸い込まれる軽い身体をしっかりと抱え込んで、スペインは一気にまくしたてた。

「親分あれからもずっと忘れてへんでっ!2月12日っ!なんでこの日が誕生日なのか、知ってるのは親分と自分だけやっ!
親分が一番欲しい言葉ももうずっと聞いてへんっ!
それ知ってるのも言えるのも、自分知っとるやんなっ?!!」

それだけ一息で言うと、片手は逃げられないまま腰にしっかりと回して、しかしもう片方の手はイギリスの白く柔らかい頬に触れる。

「…な、また言うたって、イングラテラ。それとももう親分が生きとること、望んではくれへんの?」

国政が関わらなければ強くはない、柔らかい優しい心のこの子にこういう言い方はずるいのはわかっている。
だけど手段なんて選んでられない。

(堪忍な…。でも捕まえられてくれたらめっちゃ大事にする。ほんま大事にするから…)

そんな思いを込めて揺れるペリドットのような瞳を覗きこむと、見る見る間に水晶のような粒が溢れてくる。

「…だ、だって…お、お前聞きたくない…だろ。俺なんかの口からっ…やじゃ……」
「嫌ならこんな事言わへんよ?ずっとずっと待ってた。またイングラテラと一緒にこの日を迎えられるのを親分ずっと待ってたんやで?」

「ふっ……Feliz cumpleaños …mi preciosa España. …Me alegro de… que estás vivo…」
「おん。それや。その言葉を親分ずぅっと聞きとうて、この日を特別な日にしとってんで?」

一歩踏み出せばあとはとにかく押し切るだけ…。
スペインはイギリスの頬に触れていた手を後頭部に回してしっかりと逃げ道をふさいだうえで口づける。
長い長いキス。
それにイギリスがぼ~っとしてきたあたりで、唇を放し、

「来年からは前日から一緒におってな?
で、朝一番にその言葉をきかせたって。」
と、言うと、ええな?と念を押す。

「まあ前日より早くても、なんなら一緒に暮らしたってもええんやけど。
とりあえずこれはずぅっと一緒に居るって約束のしるしやで?」
とさらにその指にポケットから取り出した指輪までしっかりはめて、

「ほな、誕生日プレゼントもらおか~」
と、しっかりイギリスの手を握って、今現在いるイギリス邸の庭から有無を言わさず家の中へ。

何をプレゼントにもらったか…と言うのは敢えて語らず。

ただ次のスペインで行われた世界会議では、国々は非常に幸せそうなスペインとその腕にしっかり抱え込まれたイギリスの指にお揃いの指輪がはめられていて、二人揃ってスペイン邸へと戻る図を目の当たりにする事になった…という事だけは語っておこう。


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