バーチャルなペット
「初めまして。アーサー・カークランドです」
そして翌日の昼下がり。
アントーニョの他の仕事の都合で楽屋の方に来てもらった相手役の青年は色々な面で書類の印象と違っていた。
まず挨拶を述べて差し出して来た手が自分のそれより一回りほど小さく細い事にアントーニョは驚く。
背も書類上170cmとあったが、身体が細く華奢なためか、もう少し小さく見えた。
少し跳ねた小麦色の髪。
肌は真っ白で、顔は全体的に小ぶりだが、広めの額と大きな目が印象的だ。
男性にしては随分と長い睫毛はクルンとカーブを描いていて、その上には整えていないのだろうか…ぽわぽわと太すぎる眉。
写真の堅苦しさに反して、実物は顔の造作の全てが幼くあどけない感じがした。
ハッキリ言ってしまえば小動物のようである。
23歳?
言われなければせいぜいハイティーンだと思っただろう。
頭をなでたいと思う衝動を必死に抑え、アントーニョは名優アントーニョ・ヘルナンデス・カリエドの顔でにこやかに差し出された手を握り返した。
これはいい!
実に楽しい!
アントーニョは自他共に認める親分キャラなだけに、子どもや小動物が大好きだ。
どうせ仕事ならとことん楽しんでしまおう。
撮影の期間限定で期限を区切って思いきり。
そうと決まればさっそく根回しだ。
役作りのため…と称して一緒に暮らす事を提案。
もちろんすでに名優として名を馳せている自分と新米俳優では提案と言う形を取っていても相手に拒否権はない。
相手に拒否されたら事務所経由で申し入れれば絶対の決定事項にする事が出来る。
この時点ではアントーニョの脳内はこの責任のないレンタルしたペットのような存在で楽しむ事でいっぱいだった。
もちろん自分本来のプライベートのスペースを乱されるのは論外なので、一緒に住む場所は別途用意する。
バーチャルをリアルに持ち込まない。
その前提があってこそ思い切り楽しめるというものだ。
こうしてマンションや家具その他を用意して、アントーニョの楽しいバーチャルなペットとの生活がはじまった。
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