予兆
「アーティ、先帰っといて。
親分、ちょっとコンビニ寄っていくけど、何か要るもんある?」
それは小さな違和感だった。
二人で一緒に撮るシーンが全て無事終わって、アントーニョいわく美味いと評判の店で祝杯をあげた帰り道の事だ。
普段なら絶対に恋人に1人で夜道を歩かせたりはしない。
自他共に認める親分キャラ、アントーニョはそういう男だ。
コンビニに寄りたいとしても一緒に誘う。
逆に相手が寄りたいと言えばついて行く。
今日に限って何故?…と思わないでもなかったが、まあ出るシーンの撮影がほぼ終わって気が抜けているのかもしれないし、疲れているのかもしれない。
そもそもいつもなら何か祝い事やイベントの時は外で食べるよりは家で自分の手料理で祝いたい派なのに今日は外食にしたと言う事は、そういうことなのだろう。
なんとなく胸がざわつく気がしたが、アーサーはその違和感をそうやって納得させた。
幼い頃から色々に恵まれなくて、嫌な予感というものがしても結果が同じなら判明するまではストレスを貯めるだけだから考えない方が良いと考えない事にしている。
だからそんな習慣からその時も考えるのをやめて重い足を引きずるようにして二人で暮らすマンションへと1人戻って行った。
考えない…そうやって逃げてもどうしようもない現実もあるのだ…と、半ば確信のようなものを感じながら……
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