大きな目に涙がいっぱい溢れている可愛らしさに見とれていたら、いきなり殴り飛ばされた。
この可愛さでこのパンチ…反則である。
「何っ?!このクソ髭に何かされたん?!!」
フランスがふっとばされて壁に激突した音で慌てて居間から飛び出してきたスペインとプロイセン。
「痛い痛い痛いっ!!!スペイン、おまっ、踏んでるっ!!お兄さんの事踏んでるからっ!!!」
グリグリと腹を片足で踏まれて叫ぶフランスに、
「じゃかあしいっ!!自分、親分のかわええアーティに何したんっ?!!」
と、視線はイギリスに向けたまま言うスペインの襟首を、
「お前もお前だぁっ!!」
と、イギリスはグイっと掴んだ。
……が、そこはさすがに酔ってもラテン男。
引き寄せられるまま顔を近づけ、そのままグイっとイギリスの腰を引き寄せ、いきなりキスに雪崩れ込む。
当然それを引き剥がそうとイギリスはワタワタと慌てるが、腰と後頭部をしっかり抱え込んだスペインの怪力を振りほどくことが出来ない。
だんだん深くなっていく口付けに、今度は息苦しさから涙目になってきた頃、スペインはようやく恋人を開放した。
「…っまえ……何すんだ……」
ぜーぜーと呼吸を整えながら言うイギリスにスペインは当たり前に悪びれず
「え?キスとちゃうん?」
と、返す。
「…お前はぁ……」
イギリスは呆れ半分でため息をつく。
「そうじゃねえよ。…なんで髭んとこで飲んでんだよっ!
せっかく二人で過ごせる休日にこんな酔っ払っちまって…。
べ、別に寂しいとかじゃなくて…単に休日に酔っぱらいの世話なんかするのいやなだけだからなっ!」
と、言っている途中で気がついたのか慌ててそう続けるイギリスに、スペインは嬉しそうに笑う。
「なんやぁ。親分もめっちゃ楽しみにしてたで?同じやん。
アーティかわええなぁ。」
ちゅっちゅっと顔中にキスを降らせるスペインに、イギリスはブワっと赤くなって、
「やめろよっ!」
と、慌てて手でそれを制する。
そして
「ところでっ俺の忘れ物ってなんだよ。」
と、離れないスペインをいったん落ち着かせようとイギリスは言った。
その言葉にギクっとするフランス。
逃げたい気分になった…が、スペインの足でしっかり踏みつけられていて、逃げる事もできないまま、
「これやで~」
と、スペインがどこからか出してきた猫耳。
ピキ~ンと空気が凍った気がした。
「アーティかわええなぁ…。親分がつけたろな~。
ほら、もうめっちゃかわええ。子猫ちゃんや。」
そのままイギリスにつけるスペイン。
「なあ、スペイン」
そこでほわんと笑みを浮かべるイギリスwith猫耳は、確かに可愛い。
反則的に可愛い。
「なんやぁ?」
「踏んでるぞ?フランスの腹。
腹踏むのは良くないと思う。」
――あれ?坊ちゃんもしかしてご機嫌?
そう思ったフランスは次の瞬間それが思い切り間違いだった事に気づいた。
「ええねん、こいつ親分のかわええアーティを泣かしとったし。」
「そんな事良いから。な?少し足を下にずらしてやれよ」
――え?下に…ずらしたら…薔薇に飾られたお兄さんのエッフェル塔ですが?
ひええ~~~!!!
スペイン、お前も
「あ、そうやなぁ…」
とか言わないっ!
誰が今日お前に酒とおつまみと飲む場所提供してあげたと思ってんのっ!!
バタバタと無駄な抵抗を試みるフランスを救ったのは、さきほどフランスを窮地に陥れたプロイセンだった。
やはり奴も酔っていたらしい。
ケセセっといつもの特徴的な笑い声をあげながら、
「お前、めちゃくちゃ似あってんじゃんっ!撫で回すぞ、このやろう!」
と、実際にイギリスwith猫耳を撫で回した瞬間…バキっ!とプロイセンが立っていた後ろの壁にスペインの蹴りがめり込んだ。
おかげで自由の身になったフランスは慌てて転がり逃げる。
――自分…親分のアーティに何してくれとるん?
蹴りをすんでのところで避けたプロイセンに舌打ちをしつつ、低い声でそう言うスペインを、プロイセンは怯えるどころか鼻で笑った。
「…イギリスを狙ってたのはお前だけじゃなかったかもしんねえぜ?」
ビシっと今度はプロイセンの拳がスペインの顔の前でスペインの拳で受け止められる。
そのままスペインはプロイセンの手首を掴んで投げ飛ばすが、プロイセンは綺麗に足から着地した。
「いくら悪友かてアーティにちょっかいかけたら許さへんで?」
と、そのまま突進するスペインをプロイセンがまた避ける。
「坊ちゃん、危ないからこっちね。」
元帝国と元軍事国家のとばっちりをまともに食らえば、一時は7つの海を制したとは言え、本体は小さな島国で現在も体格が良いとは言えないイギリスが危ないと、フランスはエキサイトしている悪友達の本気の入った格闘現場から、イギリスを少し引き離して後ろにかばった。
――坊ちゃん…心配しないでもね…スペインは俺らとのつきあいよりお前さんとの付き合いを絶対的に優先するからね…。
そのあと自分との約束があるのに悪友と飲んで酔っ払ったという事で、自分との時間より悪友との楽しく飲む時間を優先させたのか…と、この愛されるという事に関しては信じられないくらい自信のない島国は悲しくなってしまったのだろう。
確かにスペインは今日自分たちと飲みたいと思っていたと思う。
…が、その理由はひとえに……
――あいつ、単に思い切り惚気たかったんだよ。
フランスが深い深い溜息をつくと、イギリスが真っ赤になる。
「もうね…あいつ家来て飲み始めてからずっと、坊ちゃんが可愛いだの天使だのあの子自分のモンにできて親分幸せや~だの、そればっかりよ?
で、挙句がお兄さんの猫耳見て、こんなもの付けて可愛いのは坊ちゃんだけだって怒りだして、何故かこれは坊ちゃんのためのもんだろ?っていうから、もうお兄さんも面倒になって、坊ちゃんの忘れ物だって言ってやったの。」
そうフランスが言い終わった頃に、スペインの拳がプロイセンを捉えたらしく、重い一撃を食らったプロイセンが壁にふっとばされた。
「アーティ、アーティは親分だけのもんやでっ!!」
上がった息のままスペインが駆け寄ってきて、フランスの後ろからイギリスの腕を掴んで引っ張り出してそう言うと抱きしめた。
「絶対に絶対に誰にも渡さへんっ!二人の家に帰るでっ!!」
と、イギリスの腕をシッカリ掴んだまま、自分も上着を着ると挨拶もなしに帰って行く。
もちろんイギリスも抵抗もせずされるまま連れて行かれた。
パタン…とフランスの家のドアが閉まった瞬間……
――イギリス…信じたか?
と、いってえ…と頭をさすりながらプロイセンが立ち上がった。
「あ~やっぱりプーちゃんわざとだったのね。」
フランスが苦笑すると、プロイセンは
「…ったりめえだろ。俺様はお前らほど飲んでねえ」
と、口を尖らせた。
「あいつは…俺様がほぼ欧州中くらいから孤立してた時に唯一味方してくれた奴だしな。
せっかく上手く言ってるモンを壊す気はねえよ。」
そういうプロイセンの目は少し優しい光を帯びている。
「まあ…スペインが嫌になったら俺様が嫁にもらってやってもいいけど。」
「まあねぇ…心から嫌になることはないだろうねぇ。」
「まあな。」
「ただ、スペインたまに鈍感で坊ちゃん不安になる時あるから…そういう時は…」
「俺らがフォローいれてやんねえとな。」
ケセセっとまた笑って当たり前に言うプロイセンに、
――お互い…損な性分だねぇ…ま、普憫な兄貴気質な二人で飲み直そうか。
とフランスも苦笑して、プロイセンとまた二人で居間に戻っていった。
そして数時間後…二人に同胞で送られてきたスペインからのメール…
『猫耳プレイ最高やねっ!』
――リア充爆発しろっ!!
と二人揃って思ってしまったのはまあしかたのないことである。
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