魔王を倒すぞ、もう普憫なんて言わせない!_スペインvsアメリカ

プロイセンが酒場の入口に辿りついた時、中はちょっとした騒動になっていた。
…なんだっ?!
と、慌ててドアをくぐる。

うおっ!!!
と、まず飛んできた椅子を避けると、それはギルベルトの横ぎりぎりの壁にぶつかり、粉々に砕け散った。

「お姫さんっ!無事かっ?!!」
と、そのすさまじい状況に、プロイセンはとりもなおさず慌ててイギリスの所に駆け寄る。

幸いにして逃げ足の速さをフル稼働してロマーノが一緒に避難してくれていたらしい。
プロイセンの大切なお姫さんは部屋の隅の安全そうなところで、おろおろと騒動の元、アメリカとスペインの取っ組み合いに視線を向けていた。

普段はヘタレ二号と言われるロマーノも相手がお姫様だと思うとちゃんと自分が前面に出て後ろにイギリスを庇ってくれているのがさすがだと、プロイセンはその事にはこんな時なのだが感動する。

「ダンケ。お姫さん、ちゃんと守っててくれて本当に助かった」
と、駆け寄っていって礼を言うと、
「ベッラを守るのは男に生まれたやつの義務だろ」
と、当たり前に言いながらちらりと後ろのアリスに向けるロマーノの視線は優しい。

「…ありがとう……」
と、小さく礼を言うアリスに、
「こんな可愛いお姫さんを守れるなんて光栄だ」
と、最初と同じくやはり胸に手をあてて礼をする様は、普段のヘタレっぷりが嘘のような色男ぶりだ。

そしてロマーノの後ろから出てプロイセンの腕の中に戻ってくるイギリス。
安心したようにホッと息を吐き出す様子に、信頼されているんだな、と、心が温かくなる。
そっとその小さな金色の頭を思わず撫でると、すりっと擦り寄ってくるのが可愛い。
ああ…本当に可愛い…可愛い…可愛い…

じ~んと感動しているプロイセン。
だがそんな風に感動している時間はあまりなかった。

「し…師匠。助けて下さい。師匠だけが頼りです」
と、本当に気配もなくすぐ側によってきた元弟子。

相変わらず心臓に悪い。
あまりの気配のなさに正直驚いた。
が、表情には出ない。
元軍国としての習慣だ。

「脅かすなよ、菊」
と言うと、
「そう言うなら少しは驚いて下さい」
と返される。

飽くまでポーカーフェイスのプロイセンと対照的に、こちらは表情はそれほど変わらないまでも随分と顔色が悪い。

「お前と行動共にしてたんだよな?アルフレッドのやつ…」
と、どうせなら事情を説明させようと思ってそうふると、そのあたりはさすがに心得ている。

「簡単に説明させて頂きますね。
でもそのあと、あの方々の仲裁、宜しくお願いします。
怪力覇権国家のアルフレッドさんと元武闘派覇権国家のアントーニョさんの間に入れるなんて師匠を置いて他にありませんから」

元軍国のあなたの戦闘力には全面的な信頼をおかせて頂いております、と、キラキラした目で念押しのように言われて、嫌な信頼だな、と、返しながらも、確かに他の国だと大怪我ではすまなさそうだし、しかたないとそこは割りきる。

「わかったから、手短に説明してくれ。
…2人が酒場壊す前に。
お姫さんを野宿はさせられねえ」
眉間に手をあててため息をつきながら、プロイセンはそう促した。


「大前提として、私とアルフレッドさんは途中で合流してここまで一緒に旅をしてきまして、魔王にはもう数回突入しておりますが、全く倒せる感じはありません。
ここの怪我が現実でどのくらいの影響があるのかわかりませんから、大怪我をしない前に撤退しているというのもありますが…。
途中でヒーラーの方を探そうとしましたが、この世界はヒーラーが少ないというのもあって貴重なんですね。
アルフレッドさんはあの物言いをなさる方ですし、それでなくても通りすがりのよそ者について来て下さる方は当然おらず、それも思いきって戦えない一つの要因ではあったのです」
と、そこで大体は見当はついた。

「で、お姫さんにしつこく声かけてスペインがキレたってわけか?」

「はい。アントーニョさん、すごく気をつかってらしたんですね。
いかにもヒーラーなアリスさんがアルフレッドさんの視界に入らないように、ずっとご自身が立って壁になっていらしたんですよ」
と、ちらりと騒動の中心にいるスペインに視線を向ける。

うあ…それだったのか…と、プロイセンは今更ながらだがようやくずっと座らないスペインの行動の謎が解けた。
守る…と決めた時のスペインの気持ちの深さは、今目の前にいる南イタリアを国力を傾けてでも育て守りきった件でも分かっていたはずだったが、正直舐めていた。

そして自分が見逃していたそれを読みとっていた日本の洞察力も凄いと思う。
感情の機微に関しては本当に日本はよく見ている。

「んでな、そのまま放置してりゃあ良いのに、フランシスの馬鹿がアントーニョの奴に自分の方の席に座れとか誘いやがって、それ断ったアントーニョに、なんでなんで言うから、アルフレッドがお姫さんに気づいちまったってわけだ。
で、お姫さんが断ってんのにしつこく自分と一緒に魔王倒しに行こうって誘って、連れて行こうと手を取りかけたとこで、アントーニョがブチ切れて、俺にお姫さんを部屋の端に避難させるように言って奴を殴り飛ばして今あの状況ってわけだ」
と、ロマーノが説明を引き継いだ。

「なるほど…な。
仕方ねえから俺様これから2人を引きはがして来るわ。
お姫さん、悪いんだけど、アントーニョ引きはがしたらちょっと呼んでやってくれねえか?
俺様はアルフレッドの方にちょっと説教くれないとだから。
ロマーノもアントーニョ頼むわ。
あー…一応俺様がアルフレッドの方に話ししてる間の護衛とでも言って引き留めてくれ」

「わかりました…」
「ああ、わかった。任せろ」
と、イギリスとロマーノがそれぞれ頷くと、プロイセンは、はぁ~と一度ため息。
準備運動とばかりにブルンブルンと腕を何度か振り回すと、はっと小さく息を吐き出すとともに『行くかっ』と呟いて、ものすごい惨状になっている部屋の中央部へと駈けだして行った。

近づくだけでガンガン威圧感を感じる。
プロイセンは走りだしながら2人の動きを凝視して、ここだっ!と、一気に間合いを詰めた。

そしてまだ無事なテーブルに駆け上がって、それを踏み台にしてジャンプ!
ガン!!!と両手でアメリカのコメカミに拳を叩きつけると同時に、足でスペインを蹴り飛ばす。
普通ならウェイトの差があるものの、ジャンプで勢いをつけてのそれに、さすがにスペインも壁まで吹き飛ばされて、物理的に2人が引き離された。

「悪い、トーニョ。
俺様はちょっとこれからこいつに説教だから、すまねえけどお姫さんの護衛頼むわ。
ついでに怪我治してもらえ」
一気にシン…と静まり返る室内で、急所を突かれて脳しんとうを起こして気を失ったアメリカの襟首をグイッと掴んでそう言うプロイセン。

壁に吹き飛ばされた方のスペインは恐ろしい事に気を失う事もなく、『いったぁ……』と小さく首を振りながら立ち上がると、軽く手をあげて了承の意を示して何事もなかったようにロマーノとイギリスの待つ部屋の隅へと移動する。

それで止まっていた時間が動きだした。
日本は慌てて店主の所に財布を持って走り、壊したものの弁済をし、他の国々は無事なテーブルや椅子を直し、店員達は割れた皿やグラスを片付け始める。

さすがに冒険者など荒くれ者が集まる店だけあって、そのあたりの立ち直りは早い。
10分もすると店員は零れた料理や酒の代わりの注文を取って回っている。

そんな中でさあどこで説教を始めるか…と、場所を探すプロイセンに、みんな厄介事はゴメンとばかりに視線を反らしたが、そこで何故かイタリアが
「プロイセン、こっちこっち~!!
原因作ったフランシス兄ちゃんに責任とってもらおうよっ!!」
と、フランスのいるテーブルでブンブンと手を振った。



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