正確には、スペインが夜こうして飲み会に参加する事が久々なのだ。
最近スペインは暇さえあれば出来立ての可愛い可愛い恋人と過ごしているからである。
今日はその可愛い恋人様はお仕事中で、終わったら電話をもらって一緒に恋人の家があるロンドンへと帰って、休日を一緒に過ごす予定ならしい。
要は…恋人より1日早く仕事が終わってしまったスペインの時間つぶしというわけだ。
まあ、親友とかお友達とかずっ友とかそんな素敵なものではなく、所詮悪友なわけだから、そんな理由であってもお互い別に気にしない。
同じく弟のドイツが休みで自宅に弟の恋人のイタリアが遊びに来たので、休日前から『イタリア人と一線を超えるには』というマニュアル本を思い詰めた顔で熟読していた弟を気遣って今回の休暇中はフランスの家に居候を決め込んでいるプロイセン。
フランスは秘かに弟のように心配している隣国の話などしつつ、そのプロイセンと『お互いに兄貴ってつらいな~』などと和やかに飲んでいたが、玄関のチャイムにドアを開けた瞬間、その弟分の恋人様が立っていた事に嫌な予感を覚えた。
それでなくても暴走気質の弟分と、その子を溺愛するあまり世界を破壊しかねない勢いで暴走する弟分の恋人である悪友。
その馬鹿っぷるにフランスは何度も巻き込まれては痛い目にあっている。
個々にいる分にはいいが、二人揃ったところには居合わせたくない…が、今日は弟分の方が仕事が終わるまで…という事なので、久々だった事もあって気持ちよく招き入れた。
しかしフランスはもう一つのタブーを忘れていた。
弟分も酒癖が宜しいとは言えないが、この男も飲み過ぎると悪い意味で最強の男になるということを。
まあ、最初は良かった。
『アーティかわええ、天使や~。
あの子を手に入れられたなんて親分世界で一番の幸せモンや~』
…などという惚気は、一人楽しすぎるプロイセンにはダメージを与えてたようだが、愛の国フランスからすると、本当に微笑ましい幸せ報告だ。
「まあ、お前も坊ちゃんも幸せそうで何よりだよ。」
とニコニコと自分も杯を進める。
そんな和やかな空気の中、あまりに続く惚気に嫌気がさしたらしいプロイセンが無理矢理話題を変えようと出した話が悪かった。
「そう言えばよ、2月23日はにゃんにゃんみゃー、2月24日はにゃんにゃんしゃー、2月25日はにゃんにゃんごろなんだってよ。」
なんの脈絡もなさすぎて、フランスもスペインもぽか~んだ。
しかしそこでさすがに【世界のお兄さん】を自称するフランスは空気を読んだ。
あとで思い起こせば別にプロイセンが白けられようと実害はないし放置しておくべきだったのだろう。
だが、その時は半ばお兄さんとしての義務感に駆られてついつい読むべきではなかった空気を読んでしまった。
そう、読んでしまったのだ。
フランス自身も酒が入っていたこともあり、
「あ~もうっ!プーちゃんたらそんなにさりげなくリクエストしなくても」
と、ニコニコと言うなり服を脱ぎ、股間に薔薇を装着。
スポン!と猫耳をつけた時点で、何故か今度はスペインが不機嫌になった。
――え?
理由も言わないままでは何故いきなり不機嫌になられるのかわからない。
いや…聞いてもわからなかった。
――自分…なんてことしてんねん…
と低く唸るように言ったあと、ガタっと立ち上がってスペインが絶叫した言葉
「この世で猫耳つけてええ男は親分のアーティーだけやああぁああ~~!!!!!」
この瞬間、すでにフランスは空気を読んだ事を後悔した。
プロイセンは拗ねても暴れはしないが、こいつは違う。
日本の漫画でよくあるようなちゃぶ台返しを実現してくれた。
グワッシャ~~ン!!と、ひっくり返るテーブルと散乱する皿やグラス。
ひぃぃ~~!!!っと、思わず引くフランスに、スペインは据わった目でズイッと近寄って、ガシっとその猫耳をもぎ取った。
「……これ…アーティのための猫耳や。そうやろ?」
完全に酔いが回っているらしく、そう聞いてくる目が怖い。
猫耳は最近の戦闘時の標準装備なので予備もいくつかあるし、それ一つ持っていかれるくらいで安全を確保できるなら安いものだが……酔っ払いの思考はしばしば予測がつかないので、下手に返答ができないでいると、
――そうやろ?!
と、さらに怖い目で聞かれて、フランスは思わずウンウンとうなづいた。
が、今回はそれが正解だったらしい。
――やっぱりなぁ。親分もそう思っとったんや~。
と、ニコニコと機嫌よくうなづくスペイン。
これで助かった…と、フランスもホッとして床を片付けようとした時、今度は自分も酔っているのかスペインに対しての嫌味なのか、もしくは両方か、プロイセンが爆弾を落とした。
「…つまり…イギリスのための猫耳がフランスの家にあったってことか?」
――うあああぁああ~~!!!プーちゃんっ!なんてことをっ!!!!!
一気に室内の温度が燃え上がる。
ありえないのだが、スペインの背中に真っ赤に燃え上がる太陽の炎が見える。
「忘れ物だからっ!!!」
フランスは即叫んだ。
「世界会議の時に坊ちゃんが会議室に忘れていって、主催のお兄さんが預かってたのっ!!!
お前に渡してもらおうと思って今日出したのよっ!
あ~、ほんと丁度良かったなぁああ~~!!!!」
必死だった。なにしろ命がかかっている…(かもしれない)
必死過ぎて言ってる事があまりに白々しくも無茶苦茶だったのだが、相手が酔っ払いだったせいか、それで納得してくれたらしい。
「そうか~。あの子すぐ忘れ物してまうからなぁ。
もう、そういうドジなとこもかわええんやけど。
親分がちゃんと見といてやらんと、ほんまあかんわぁ。」
途端に上機嫌でソファに座り直すスペイン。
が、そこは酔っぱらい。
その後の行動がまずい。
スペインはいきなり携帯を取り出すと、その恋人様にかけたらしい。
「もしもし、アーティ?はよおいでや~。
え?どこにて…フランスん家やで~。
いやいや、ちゃうちゃう。
髭や普憫なんて親分どうでもええねんけどな、ここで疲れとるアーティのためにええワインの一本や二本プレゼントしてもろうて家行こうかな~思うて…」
――え?聞いてない…。てか、お前そんな事考えてうちに来てたの?
秘かに心のなかでそうツッコミを入れるフランス。
そう…当然“心のなかでだけ”だ。
「せやからな~、仕事終わったらすぐこっちおいでや。
フランスからアーティの忘れもんも預かったしな。
え?親分?酔うてへんで~。
やってこれからアーティと熱い夜過ごさなあかんしな~。」
ハハっと笑うスペイン。
口調は確かに酔ってないように聞こえるが、言ってる事の支離滅裂さは完全に酔っ払いのそれだ。
それがさすがにイギリスにもわかったらしい。
どうやら迎えに来ることで話がついたようだ。
この時点で逃げるべきだったんだよねぇ……と、のちにフランスは語る事になるが、繰り返すがこの時はフランスも若干酒が入って酔っていた。
その酔いを強引にさまされることになるのは、半泣きのイギリスがフランスの家についた瞬間…。
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