部屋とるの大変だっただろ。」
チェックインを済ませて部屋へ落ち着くと、イギリスは目をキラキラさせてスペインをふりむいた。
「アーティーのためやったらな、たいした手間でもないで?
それより疲れたやろ?
親分湯を張ったるから先ゆっくり風呂でも入り?」
そう言ってスペインは浴槽に湯を入れる。
そしてイギリスを浴室へと向かわせると、ホテルに来る途中でとりあえず買ったイギリス用のスーツとシャツをクロゼットへ。
こんな事があったあとだし、自分はヨーロッパ会議ごときサボっても良いと思うのだが、仕事に対しては非常に真面目なイギリスはそれを許さないだろうし、仕方ない。
一日目はこれを着せて、会議終了後に二人で改めて服を見てもいいな…と思った。
そんな事を考えつつイギリスが浴室から出てくるのを待っていたが、やけに遅い。
心配になって浴室を覗くと、長湯しすぎてのぼせたのか真っ赤になったイギリスが、
「見んなよ、ばかぁ!」
と、涙目で浴槽でうずくまった。
ムラっと来る…が、ここで襲ったら確実にトラウマになるだろう。
スペインはなけなしの理性をかき集めて、バスローブを取ると
「堪忍なぁ。アーティーあんま綺麗やったから親分見とれてもうたわ~。」
とそれでパサッとイギリスの身体を包み込む。
とたんにフワっと香る薔薇の香りに目眩がした。
あかんわ……
これは…絶対に襲ってまう……
「せっかくやし親分も汗流しとくわ~。
着替えは脱衣所に用意しとるから、それ着てな~。」
それでもなんとか理性を保ってかろうじて笑顔を作ってそう言うと、スペインは慌てて浴室からイギリスを追い出した。
絶対に…今手を出したら傷つける。
手をつなぐ、頭をなでるなど日常的な接触から少しずつ少しずつふれあいに慣れてもらって、完全に恐怖心を払拭した状態でなければトラウマを作ってしまうだろう。
(…それまでは右手で我慢せなな……)
スペインはシャワーを浴びながら、さきほどチラッと目にした白い肢体を思い出して自らを慰めた。
とりあえず襲わないように何度か抜いてスペインが浴室から出て部屋に戻ると、ベッドの上にはバスローブのままのイギリスがチョコンと座っている。
あかん~~~!!!!
何度も抜いて収まったはずの欲望がまた昂ぶってきそうな事に焦りつつ、スペインは
「なんで服着てへんの?風邪ひくで?」
と、なんとか笑みを作って言った。
理性は結構ギリギリだ。笑顔がひきつった。
その言葉にイギリスは大きなペリドットで上目遣いにスペインを見上げる。
「だって…どうせ…すぐ脱ぐんだろ?」
プツっと何かがキレそうになった。
ついでに鼻血も噴き出るかと思った。
誰か多すぎる自分の血の気を抜いてくれ…と切実に思う。
そんな事を思いながら葛藤していると、反応がないことに焦れたのか、イギリスは
「普通…自分で脱げばいいものなのか?」
と、オズオズとバスローブの前に手をかける。
うあああ~~
「あか~ん!!!!」
スペインは駆け寄ってそれを阻止した。
「ソレ以上はやめたってっ!」
と言うスペインの言葉をどうとったのか、イギリスは瞳をうるませる。
「……やっぱり……俺…ダメなのか?嫌になったか?」
必死に嗚咽を堪えた震える声に、スペインはスッと高まりすぎたテンションが下がって平静を取り戻した。
ああ、とんでもない誤解をさせてしまったか…と、ひどく後悔してソッとイギリスを抱きしめると、オズオズとやはりバスローブ姿のスペインの背に手が回され、胸元に埋められた顔から嗚咽がこぼれた。
「ちゃうねん…ホンマは親分かて男やから好きな子が側におったら抱きたいとは思うで?
せやけど、あんなことがあって傷ついとるアーティーの心にトラウマ作ってまで無理無理すんのは嫌やねん。
なあ…親分はアーティーが落ち着くまで待つさかいな?
自分を大切にしたって?やけにならんといて?」
「…よくわかんねえけど…今は嫌…なのか?」
「いや、別に親分は嫌やないっていうか…ずっと言うとるけど、いつでもしたいで?」
「じゃあなんで?こんな年まで経験ないって事に引いたのか?
やっぱり他で練習してこないとダメなのか?」
「いやいやいや、それはやめたってっ!
…っていうか…自分、さっきフランスにされたんちゃうん?」
あまりの発想の斜め上さに、思わず自分でも無神経だと思いつつ聞くと、イギリスはうなだれた。
「練習…しようと思ったんだけど、その前にお前来ちゃったから……悪い…ちゃんと出来てない。」
「へ?」
「悪いっ!やっぱり髭とっ捕まえてくるっ!」
クルっと反転しかけるイギリスにスペインは
「待ったっ!!!待ったってぇ~~!!!!」
と、慌ててその腕をつかんだ。
「ちゃんとうまくなってくるからっ!」
とジタバタ抵抗するイギリスを力ずくで抱え込み、スペインは
「ちょ、待ったっ!!話聞いたってっ!!!」
と、叫ぶ。
「なんでそういう発想になるん?!練習なら親分としたらええやんっ!!」
と、スペイン的に至極当たり前の事を述べたら、イギリスはとりあえず抵抗をやめて
「だって…下手だったらお前だって嫌になるだろ?」
と、こちらもおそらく至極当たり前に思い込んでいるらしく、そう述べる。
「あのなぁ…上手い方が嫌やんっ!」
がっくり肩を落とすスペインに、
「クソ髭もそんな事言ってやがったけど…なんでだ?上手いほうが気持ちいいんだろ?」
と、もう子供のような無邪気な様子でそう言われて、スペインは言葉を失った。
呆れるほど無知で無邪気で真っ白で…ああ、でもそんな部分にひどく煽られる。
白い雪を踏み荒らしたくなる時のような…そんな欲望。
めちゃくちゃにしたい…でも優しくしたい。
これがわざとじゃないあたりが大英帝国様は凶悪だ。
「あのな、親分はじょうずにできひんから嫌になるって事はない。断言できる。
…てわけで…今めっちゃしたいんやけど、してええ?
アーティー自身は嫌やない?怖ない?」
もう色々が限界でイギリスを逃げられないように抱きしめたままそう聞くと、イギリスはやはり俯いたまま
「…だって……絶対にうまくできな……」
と言いかけるのを、もうそれは肯定だと割りきると遮って、スペインはその唇を唇で塞いだ。
(…初めてやったのに、もうちょっと手加減したったら良かったか…)
こうして愛し合った後……
終わった途端に気を失ってしまったイギリスの身を清めてやって後始末をして、汚れていない方のベッドに寝かせてやるとスペインは自分は軽くシャワーを浴びて隣に潜り込んだ。
涙の跡も痛々しいその寝顔に少し罪悪感を感じるものの、ソレ以上にスペインの心を占めていたのは喜びと満足感。
愛しい恋人に自分の手で性の悦びを教え、この手で手折った。
もう野に咲く花ではなく、スペインの手の中の花なのだから、誰にとられる心配も……なくはないか…。
だが、自分のモノだと主張はできる。
というか、主張しよう、今日のヨーロッパ会議で。
特にヒゲとかヒゲとかヒゲとかに。
明日イギリスが目を覚ましたなら、今日の事をまたゆっくり思い出させてやろう。
そうしたら…例えイギリスがまた何かで暴走しかけても、スペインとの甘い関係を引きずったイギリスを知れば、他の国々も横恋慕しようなどという気は失せるはずだ。
こうして翌朝、スペインはいかに前夜に抱かれた時のイギリスが可愛かったかを当人の耳元で囁き続け、イギリスは恥じらいの気持ちを抱えたまま会議に出席。
多くの若い国々をトイレ送りにすることになるのだった。
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