馬鹿っぷる危険!天使の暴走_1

「経験?俺のこと何歳だと思ってんだよ。さすがにないわけないだろ」

それはスペイン的にはなかなかショックなセリフではあった。

確かにイギリスのいうことは正しい。
こんなにこの世に舞い降りた天使さながらに見かけも性格も可愛くても齢1000歳以上だ。
その間誰とも肌を重ねた事がないなんて事はないだろう。

かくいうスペインだってイギリス以上に長い一生の間に肌を重ねた相手なんていちいち覚えてはいられないほど数限りない。

それでも…恋人同士になって1ヶ月、そういう雰囲気になるたびになんやかんやと理由をつけて逃げる恋人の中に感じられるかすかな怯えに、淡い期待を抱いてしまったのは仕方がないことだろう。

フイっと視線を逸らして耳まで赤くしてかすかにうつむく、その手の話題にまだ恥じらいを残すその初心で可愛らしい姿に、まあ経験は多くはないんだろうなとは思うものの、逆にどこのどいつが最初にこの子を組み敷いて怯えと羞恥に震える身体を暴いたのかを想像すると、腹の底から黒い感情が沸々と沸き上がってくる。

相手は国なんだろうか?それとも人?
ああ…今生きているものならばスペインブーツを履かせて地獄の責め苦を味あわせてやりたい。

大事な大事な最愛の恋人の初めては全部自分が欲しかったのに……

まかり間違ってもそれを可愛い可愛いイギリス本人にぶつけることはしないが、手を置いた壁がミシリときしんだ音をたてた。

「とにかく…今ちょっと体調良くないし、もう少しだけ待ってくれ。」
と言われると、実際につきあう直前から体調を崩していた事を知っているだけに強くは言えない。

スペインとて男なのだから愛しいと思えば当然抱きたいとは思うが、それだけが目的なわけでもないし、気持ちが通じあっていなければ意味はない。

しかし今回は少し煮詰まっていて強くおしすぎたのだろうか…。
イギリスは居た堪れないと言ったような表情で、仕事があるから…と帰ってしまった。

事実半分、口実半分と言ったところなんだろうとは思うものの、心のなかはイギリスの初めての相手に対する嫉妬が渦巻いていて、それを絶対に悟られないという自信がない。

少し離れて落ち着こうとスペインは大きく息を吐き出してソファに身を投げ出した。

目をつぶると浮かぶのはたった今帰っていった可愛い可愛い恋人のあられもない姿。
見知らぬ誰かに押さえつけられている…。
悲鳴とも嬌声とも取れるくぐもった声。
薄桃色に染まる白い肌。
ペリドットの瞳は意にそまぬことを強いられている悔しさにうるんでいる。


「あかんわ…」

そこでスペインはそんな想像を振り切るように頭を振った。
一人でいるとウツウツと考えこんでしまう。
スペインはくしゃくしゃっとくせっ毛をかき混ぜると、立ち上がってフランス行きのチケットを取った。

悪友に美味しいものでも作らせてワインセラーから良いワインでも強奪しよう。
そう決めると、上着を着て空港へと向かった。





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