ネーションウォーズ-超大国の逆襲
クリスマスイブの朝…腐れ縁に押しかけられて馬鹿っぷるの惚気なんだか揉め事なんだかよくわからない事に巻き込まれ…それがようやく終わったと思ったら、その腐れ縁に腐った感情を持っている某超大国が押しかけてきた。
いわく…
「スペインの本性をイギリスに教えて目を覚まさせてあげるんだぞ☆」
だそうだ。
うん、もういいよ。あの坊ちゃんが目が覚めても眠ったままでもお兄さんはどうでもいい。
お兄さんのクリスマスは可愛いマドモワゼル達のためにあるのであって、決して腐れ縁のためでも悪友のためでも、腐れ縁に腐った感情を抱いている弟分のためにあるのでもない。
お前らだけでやってくれ…と、お兄さんは声を大にして言いたいっ!
しかしフランスのそんな心の声は
「もちろん君も協力するよねっ。俺だってパリがミサイルの誤射で火の海になるところなんて見たくないし、反対意見は認めないんだぞっ☆」
と、爽やかな笑顔と共に宣言される恐ろしい発言によって却下される。
そうだ、こいつはすでにイギリスに男としてみて欲しい…その理由のためにかつて独立戦争という戦争を一つ巻き起こしている男だ。
お兄さんは未だお前を可愛いと言い放つ坊ちゃんに、お前の本性こそ教えてやりたいよ…。
もう今日のデートは諦めて、明日、クリスマスに賭けよう…と、フランスは諦めとともにそう決めると、
「で?お兄さんに何して欲しいのよ?」
と、やたら高いテンションでフランスの家まで来て持参したマックシェイクをすすっているアメリカに聞いた。
「とりあえず…スペインは不思議なんだよ。」
と、アメリカは言った。
「俺はちゃんとイギリスん家にはマイクとかカメラとか仕込んでるんだけどさ…」
いやいや、それちゃんとって言わないっ。
犯罪だからっ。それ犯罪だからっ。
「彼が来るといつもそれを勝手に取り外されちゃうんだ。」
うん…訴えられなくて良かったね。
「で、なんでか彼はイギリスの事なんでも知ってるからさ、同じ事してるのかと思っても、俺がまたマイクとか仕掛けに行ってもそれらしきものないんだよね…。
あれってまさか自然に察知してるとか?
ストーカー恐るべしって感じだよね」
ズズ~っとシェイクをすする音と共に紡がれる恐るべき真実。
世の中知らない方が良いことってあるよね…少なくとも…お兄さんは知りたくなかったよ。
よもやこいつがそこまでやってるとは……。
フランスは自分の方こそ記憶喪失になりたくなった。
まあもうこの超大国の事は考えるのが怖いので置いておくとして、確かに不思議ではある。
何故スペインはイギリスが泣いたり困ったりすると察知できるのか?
「確かに…あいつって坊ちゃんに何かあると飛んでくるんだけど、どうしてわかるのかわかんないよね…。それはお兄さんも知りたいかも…」
そのあたりはフランスも興味はあった。
が、しかし、
「そうだろ?!なんか怪しい方法を使っているんだとしたらヒーローとしては見過ごせないぞっ!
というわけで、これからイギリスん家にそれを確認しに行くんだぞっ☆」
という意見は頂けない。
実に頂けない。
せっかく拾った命をむざむざ捨てに行きたくはない。
しかしそんなフランスのささやかな願望も、超大国のやる気の前には塵に等しく、哀れフランスはアメリカに引きずられるようにしてユーロスターに押し込められることになったのだった。
こうしてかつて知ったる腐れ縁宅の玄関前。
超大国に急かされて恐怖に怯えながらフランスはそのドアの鍵を開ける。
そしてこれまたかつて知ったる廊下を進んでリビングへ…。
ガチャっとドアを開けた途端後悔した。
世界のマドモワゼル達、ごめんね。
今日がお兄さんの命日みたいだよ…。
可愛らしく飾り付けられたツリー。
リースもたぶんイギリスの手作りだろう。
料理はおそらく…というか、絶対にスペインの手作り。
そして…どうやらスペインが料理しようとしかけていたらしい愛しの恋人。
ソファに押し倒されてボタンが全て外されたシャツの前をはだけられて、蕩け切って潤んだ新緑色の瞳でスペインを見上げている。
ごめん、本当にスペインも坊ちゃんもごめんね…お兄さん来たくてきたんじゃないんだよ…と、心の中で詫びながら慌ててドアを閉めて逃走しようとしたフランスの腕を、無駄に怪力な超大国がガシっと掴んで引き止める。
「おじゃまするんだぞっ!」
と、KY国家の名に恥じない空気の読まなさでピンクの中にどす黒いものが混じり始めた室内に乱入する超大国。
「あ、アメリカっ?!!」
その姿を認めると、慌てて肌蹴た前を掛けあわせて起き上がろうとするイギリスをニコリと笑顔で押しとどめると、床に落ちていたひざ掛けをイギリスの上に掛けて、自分だけ身を起こすスペイン。
「不法侵入やで?いくら元お兄ちゃんの家言うたかて、もう大人になったんやったら勝手に入ってきたらあかんで、坊。」
「嫌だなぁ。場所を考えずに見境なく盛ってるとは思わなかったんだぞっ。」
わざわざ挑発するような言葉を吐くスペインに、アメリカも棘のある言葉で応じる。
そして…真っ赤になるイギリスと青くなるフランス…。
カオス空間である。
「あ、あの…」
と何か言おうとするイギリスの唇に
「ちょっと黙っておいてな」
と、チュッと自分の唇に当てた人差し指を軽く押し当てる事でイギリスの言葉を封じるスペイン。
そうしておいて、オズオズと見上げるイギリスに落とす笑みは壮絶に男くさく…しかし色っぽい。
色っぽさでは負けないけど、この男臭い色っぽさはお兄さんも負けるなぁ…と、そこでフランスは呑気に感心する。
隣ではおそらく少し負けた気になっているのであろう超大国がプルプルと震えてこぶしを握りしめた。
「可愛いて愛しすぎて一瞬も待てなくなってもうてん。
すぐにでも欲しなって我慢できひんくなってもうた。」
少し身を屈めてイギリスの髪を一房手に取り口付けると、吐息混じりにそうつぶやくスペインに真っ赤になるイギリス。
うん…免疫ない坊ちゃんには、ラテン男の色気は刺激強すぎるよね。
普段のあけっぴろげさはどこへやら、スペインはエメラルドの瞳を少し細めて、愛おしげにイギリスの柔らかな頬をなであげる。
ぽか~んと小さく口を開けて呆けているイギリスの唇にちゅっと触れるだけの口づけを落とすと、そのまま横にずれて耳元に
「アーティーのこと…愛してええ?」
と低くささやき、一瞬間を置き、止めをさすように
「…ええって言うて?」
と、吐息混じりに耳をねぶる。
うあ~こいつわざとだよ。
アメリカ無視する気…いや、どちらかと言うと見せつける気満々なんじゃない?
と、フランスは頭を抱えた。
このままだとギャラリーが居る前でやりかねない。
頼りのイギリスはラテン男の本気の色気にあてられて茫然自失状態で、無抵抗に再度押し倒されている。
「ちょ、ちょっと、君たち何してるんだいっ!!」
と、そこでようやく我に返って叫ぶアメリカ自身も顔を赤くしている。
まだまだ初心なお年ごろらしい。
そんなアメリカに、スペインはクスリと笑って
「ああ、まだおったん。野暮なお子様やな」
と、視線を向ける。
ふつふつとアメリカの怒りがこみ上げてくるのがわかる。
これ以上この二人を放置すれば双方からとばっちりが自分の身に降り掛かってくる事が十分予測できるため、ここでフランスは間に入ることにした。
「あのね、お兄さん達ちょっとお前について疑問があって…」
と、アメリカを制して言うフランスに、
「疑問?俺に?」
と、それには興味を引かれたのか、スペインはきょとんとフランスに視線をむけた。
それでも
「すぐ可愛がったるから、ちょっとだけ待っといてな」
と、柔らかい笑みと共にイギリスに口づけを落とすのは忘れない。
そうして置いて先をうながすように再度フランスを見るスペイン。
「うん…あのね、お前いつも坊ちゃんが泣いたり困ったりすると飛んでくるけど…どうしてわかるの?お前の性格からして何か機械系に頼っているとも思えないんだけど…」
と、これは自分も知りたかった疑問をフランスが口にすると、スペインは、ああ、それか…と、少し困ったように形の良い眉を寄せた。
それに勢いづいたアメリカが
「何かやましい方法でも使ってるんだろう?!そんなのヒーローとして見過ごせないんだぞっ!」
と鬼のクビでも取ったように得意げにピシっとスペインに向かって人差し指を差し向ける。
「やましいって言えばやましい…かなぁ…」
と、それを否定もせず曖昧に笑うスペイン。
「親分な、もうアーティーに何かあったらと思うとなんも手につかへんねん。
ホンマはずっと側におって守ってやりたいんやけど、そうもいかへんやろ?
せやから…妖精さんにお願いしてもうた。
アーティーが泣かされたり困ってたり悲しい思いしてたりしたら、親分に教えたってって。
妖精さんもアーティーの事心配やって事で了承してくれてな、それ以来アーティーに何かある時はアーティーがいる方向が赤く光るようになってん。
勝手にお願いして堪忍な。
でもホンマにアーティーの事心配で心配でしゃあないんや。
アーティーは親分の全てやさかい…何かあったら親分死んでまう。」
「ちょ、イギリスの機嫌取ろうとして妖精なんて話出してきてもだまされないんだぞっ!」
と、ポコポコ怒り始めるアメリカと、何やらあらぬ方に声をかけるイギリス。
そして
「スペイン、お前いつから妖精さんなんて見えるようになったのよ?」
と、質問するフランス。
その問いにスペインはくしゃくしゃっと髪を掻く。
そして、
「あ~、正確には親分には見えへんねん。
せやけど最初に付き合い始めたのがアーティー熱出して体力落ちてもうた時やったから心配で心配で、こっちの家に泊まってる間、そう言えば妖精さんが~って言っとったな~思うてアーティーが早う治るようにって菓子やミルクお供えしとってん。
で、国に帰らなならん時に、心配や~遠くにおっても何かあったらわかったらええんやけど…って言っとったら、離れてる時赤い光がチラチラ見えるようになって、これなんやろ~って思ったらいつもアーティーに何かある時やったんや。
せやから、これはそういう事なんやな~って勝手に思ったんやけど……」
と、実にこだわりのないスペインらしい答えが返ってきた。
フランスならまず疑ってみるところだが、そこで当たり前に信じて受け入れて行動するのがスペインのスペインたる所以である。
そして…それは実際にそういうことだったらしい。
宙に向かって話しかけていたイギリスがやがてすごく嬉しそうにホワンと笑みを浮かべて言った。
「妖精さんが…お前はすごくいいやつだって。
いつもお菓子用意してくれるし、薔薇とかにいると話しかけてくれるって…」
「あ~…そこに妖精さんおったんか~。
親分植物は話しかけるとよう育ってくれるから家のトマトとかにも話しかけとるしイギリスん家の薔薇とかにも話しかけとったんやけど」
もしかしてそこらへんに妖精さんおるん?いつもありがとな~と、イギリスが話しかけていたあたりの空間にヒラヒラと手を振るスペインと、それを嬉しそうに見つめるイギリス。
「坊ちゃんの大好きな妖精さんまで味方につけてたら…さすがに勝ち目ないんじゃない?」
なんだか和やかな空気の二人を見てそう苦笑するフランスの言葉に、アメリカは
「なんだいっ!ストーカーには変わらないだろっ!
いつもいつもいつも見張られててイギリスは気持ち悪くないのかいっ?!」
と、叫んだ。
「いつも…見張って…る?」
その言葉にイギリスはポカンと目を見開いた。
「そうだぞっ!君はいつもいつも見張られてるんだっ!
いい加減その異常さに気づくべきなんだぞっ!」
イギリスが反応した事で勢いづくアメリカ。
しかし次のイギリスの反応は……赤面。
「なんでそこで赤くなるのさっ?!」
と、叫ぶアメリカ。
なんとなく想像がついてきたフランスはアメリカがイギリスに気を取られている隙にとソッと抜けだそうとするが、ガシッとアメリカに腕を掴まれて嘆息する。
「そっか…な、なんだかそれって、トーニョがすごく俺を好きみたいだよな…」
というイギリスの言葉にイギリス以外の3人がそれぞれ別の意味でため息を付いた。
「君のその反応ぜったいに変なんだぞっ!」
と叫ぶアメリカ。
「もう勝手にして…。お前ら爆発していいよ…」
と肩を落とすフランス。
そして…
「みたい…やなくて、めっちゃ愛しとるんやけど。なんでそうなるねん。
まだわかってもらえへんの?
まあええわ。これからず~っと何年でも何百年でも、口でも態度でも伝えたるから、ちゃんと受け取ってな」
と、スペインは苦笑した。
「とりあえず…わかってもらうためにも続きしよか」
と、イギリスに覆いかぶさるスペインに、キレる寸前のアメリカ。
「妖精さんお願いっ!!
あとで思い切りお菓子をお供えするからっ!マジいくらでもお供えするからっ!!
今はお兄さんをここから帰してっ!!!」
思わず叫んだフランスの願いは聞き届けられ、フランスは気づくと自分の自宅の居間にいた………怒れるアメリカと共に。
「こ、こんなの認めないんだぞっ!!!フランスっ次の手を考えるんだっ!!!」
しっかりと超大国に掴まれている腕。
フランスお兄さんの楽しいクリスマスは今年はまだまだやってきそうにない。
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